『Authors Alive!~作家に会おう~』に参加した。#4
2021.12.24
- 文学・芸術
『Authors Alive!~作家に会おう~』11月13日 村上春樹さん「音楽について」 参加レポート
文化推進学生アドバイザー 3年 土屋 舞華
イベントでは村上春樹さんの説明や朗読を聞き、それを踏まえてスタン・ゲッツの曲を鑑賞することで、彼の一生を振り返りました。
私はあまり音楽に詳しくなく、お話についていけるか不安になったのですが、村上さんは「ジャズが好きな人はもちろん、知らない人にも楽しめる内容になっています」とおっしゃって、気が楽になりました。
音楽を流す前に必ず村上さんのお話しがあり、スタン・ゲッツの素晴らしい功績と一方で波乱万丈であった私生活の対比が色濃く紹介されましたが、スタン・ゲッツが演奏している曲それぞれに、その時の彼の感情が反映されていると感じました。
ジャズは黒人のものという風潮があった時代に、白人のゲッツに対して快く思っていなかった黒人のディジー・ガレスピーと共演したものを聞きましたが、流された演奏はまるで戦いのようで、ガレスピーが挑発しゲッツがそれに対抗していることが音から伝わりました。そのあとにかけられたハンプトンとの演奏は、いわば「異種混合」のような曲として紹介がありました。
薬物に手を染め、周りの人の信頼を裏切るなどして波乱に満ちた私生活については、ユーモアを交えながらお話してくれました。
特に、スタン・ゲッツと一緒にバンドを組んでいたことがあるというビル・クロウへ村上さんがインタビューしたときの話が印象的でした。
ビル・クロウ曰くスタン・ゲッツは酒と薬物が絡むと手に負えないそうです。そして、彼にも余程苦い思い出があるのか、村上さんがスタン・ゲッツの質問をしてもなかなか答えてくれなかったとぼやいていて、面白かったです。
けれども、スタン・ゲッツはなぜ私生活は最低であったのに音楽だけは一流であったのか……。この問いに対して村上さんは「彼にとって、音楽は独立生命体であり、彼自身の成長を待たずに音楽だけは勝手に進化してしまう」と答えていました。
スタン・ゲッツは幼少期から音楽がなんでもでき、死ぬまで新しい音楽を求め進み続けた、一方で若年期から薬物に侵されそれが原因で逮捕もされ、仲間も何人も失った。だが、彼は死ぬまで薬物を辞めなかった。つまり成長していない。この一言でスタン・ゲッツをとらえて、作家らしい見事な表現だなと感動しました。
このイベントは内容が素晴らしいだけではなく、居心地の良い空間で行われたことで満足度がさらに上がりました。
村上春樹さんのイベントに参加するということで私自身とても緊張しながら会場に入ったのですが、会場は想像よりも小さく、並べられている椅子やレコードがとてもかわいらしく、温かみを感じることができました。イベントの間、話している村上さんと聞いている私たちの距離はとても近かったです。一番驚いたのは、説明を終えて曲を聞くとき、村上さんは私たちと同じ側の椅子の一つに座って私たちと一緒に曲を鑑賞してくださったことです。
家にいるような空間で村上さんと一緒に村上さんの自宅にあるレコードを聴いていることだけでも至福であり、おこがましくもまるで村上さんの家に招待されたかのような感覚を持ちました。
参加する前、音楽について疎い自分が楽しめるかどうか、とても心配でした。しかし、振り返ってみると、瞬く間に村上さんのジャズの世界に入り込み、イベント全体も一瞬の出来事のように感じました。
書名
- 『スタン・ゲッツ 音楽を生きる』(ドナルド・L・マギン著、新潮社・2019年)
ご本人が評伝を訳したジャズサックス奏者のスタン・ゲッツの生涯や音楽が語られ、本からの朗読がなされました。
そのインターバルごとに、村上さん愛蔵のレコード・CDから、当館オーディオシステムの設定・セッティングを行った小野寺弘滋さんが、ゲッツの曲をかけてくださいました。
当日の様子は、2022年1月10日13:00にTOKYO FMでオンエアされる予定です。
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