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誰でも“耳コピ”できる? 早大院生、楽器音から高精度の楽譜を自動生成

「十人十色の音楽の享受の仕方を提供したい」

大学院先進理工学研究科 修士課程  2年 田中 啓太郎(たなか・けいたろう)

研究室がある早稲田キャンパス121号館で

大学院先進理工学研究科森島繁生教授(理工学術院)の研究室に所属する田中啓太郎さんは、2020年度、筆頭著者として執筆した論文「Multi-Instrument Music Transcription Based on Deep Spherical Clustering of Spectrograms and Pitchgrams」で、早稲田大学の学生にとって最も名誉な賞である小野梓記念学術賞を受賞しました。この研究は、これまでにはないアプローチで任意の楽器を対象とする自動採譜を実現したとして、「情報処理学会第82回全国大会」で大会奨励賞を受賞するなど数々の賞を受賞。国内外で高く評価されました。小野梓記念賞受賞に「身が引き締まる思いだ」と語る田中さんに、音楽に関する研究を始めた経緯や今後の展望を聞きました。

――小野梓記念学術賞を受賞した心境はいかがですか。

名誉ある賞をいただき、すごくうれしかったというのが素直な感想です。フィギュアスケート選手の羽生結弦さん(2020年人間科学部通信教育課程卒)と同じ賞を受賞するのだと知った時にはとても驚きましたし、賞の重さを実感しました。これからも研究を頑張らなければならないなと、身の引き締まる思いです。

2021年3月に小野記念講堂で執り行われた小野梓記念賞授与式にて(写真左:後列右から2人目が田中さん)

――具体的な研究の内容について教えてください。

流れてきた音楽をコンピュータを使って自動的に楽譜にする「自動採譜」に関する研究で、任意の楽器を対象とする点が特徴です。

採譜とは、音楽を聴き、いわゆる“耳コピ”して譜面に書き起こすこと。これまでも採譜をコンピュータで行う自動採譜は音楽情報処理の分野で扱われてきましたが、採譜の対象としていたのは、事前に名前を指定し、データを与えた楽器だけでした。しかし、例えば一口にバイオリンの音といってもいろいろな音が存在します。さらに、近年のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)やポップスといった音楽では、イコライザを介すことにより、音が元の楽器のものとは異なっている場合もありますし、使われている楽器も多種多様です。そこで、全ての音を楽器の名前で指定するのは難しいと考え、楽器にとらわれず、音響信号から採譜する新しい手法に取り組みました。 

提案した採譜のアプローチを示す図。楽器にとらわれず、同時に演奏される複数の音それぞれを楽譜に起こすことを可能とした。

――なぜ音楽についての研究を始めたのですか。

3歳から中学3年まで音楽教室に通っていたことが影響しています。最初はソルフェージュ(※)を学んでいて、5歳の時にバイオリンも習い始めました。この音楽教室にはプロを志す生徒も多い中、私は趣味として音楽を続ける道を選びましたが、「プロを目指せるぐらい必死に取り組まなければ本当の趣味にはなり得ない」という教室長の教えのもと、日々練習に励みました。一方で、音楽はプロだけのものではないと考えていたことが、今の私の研究にも通じていると思います。

(※)楽譜を読むことを中心とした、音楽教育における基礎訓練のこと

高校1年生の時、師事していた先生の教室で開催された発表会での1枚

音楽を学ぶ中で、私が得意だったのが採譜でしたが、本来手間や技術を要する作業です。でも機械を使って誰でもできるようになれば、音楽を楽しむ幅が広がるのではと考えるようになり、採譜に関する研究に着手しました。

入力された「音」から「採譜」に至るまでの全プロセスを示す図。これらはコンピュータを用いたディープラーニング(深層学習)によって行われる

――所属している森島研究室はどんな研究室ですか。

先生と学生の距離が近く、とても雰囲気の良い研究室です。研究に関すること以外にも日常生活についてなど、先生とはいろいろなことを話しています。雑談の中からアイデアが生まれることが多いのだと、先生はよくおっしゃいます。

研究室の特徴は、学生がチームに分かれ、さまざまな研究に取り組んでいる点です。先生は、「環境は提示するから、それぞれが努力しなさい」というスタンスで、それぞれ学生がやりたいことをやらせてくださいます。今回の研究では、音楽の研究に詳しい京都大学の吉井和佳准教授を森島先生が紹介してくださったことで共同研究が実現し、成果を残すことができました。環境を提供してくださった森島先生には感謝しています。

121号館の研究室にて、森島先生と

森島研究室は、西早稲田キャンパスの55号館から、早稲田キャンパスに新しくできた121号館へ2020年4月に移りました。広い研究室なので、学部生から博士課程の学生まで、皆が一つの部屋で研究することができます。コロナ禍ではリモートでの研究が基本ですが、対面で集まることができるようになれば、より活気あふれる研究室になるのではと期待しています。

2019年2月、研究室配属時の顔合わせの様子(最前列、右から2人目が田中さん)

――今後の展望を聞かせてください。

今はあらゆる音楽を扱える万能な採譜の手法を完成させようと、音を使った研究を行っています。修士課程修了後は博士課程に進学し、音に加え、森島研究室の強みでもある画像や動画を融合させた研究をする予定です。さらに大きな展望として、十人十色の音楽の享受の仕方を提供したいという思いがあります。将来的には、私の知見や経験から生み出した技術によって、音楽に関する専門的な技能の有無に関わらず、より多くの人にさらなる音楽の楽しみ方を知ってほしいと思っています。

第788回

取材・文・撮影:早稲田ウィークリーレポーター(SJC学生スタッフ
政治経済学部 3年 山本 皓大

【プロフィール】

「森島先生のスキーの腕前はプロ級」だそう。2020年2月に研究室でスキーへ行った際、森島先生と撮影したカット

東京都出身。東京学芸大学附属高等学校卒業。5歳で習い始めたバイオリンは、現在でも趣味として続けている。「さまざまな人生経験をすることで、一つの曲でも捉え方や聞こえ方が変わってくるのが音楽の面白いところ」だそう。また、共同研究者の京都大学の先生の影響でロードバイクも趣味の一つに。先生と共にバイクで京都の町を巡るうちに、すっかり虜(とりこ)になった。現在では自分のロードバイクで、さまざまな場所に出掛けている。趣味が多く「スノーボードやテニスも楽しんでいる」と話す。

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