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桜はなぜ春に咲く? 早大大学院生が独自技術で細胞の目覚めの謎解明

「『Nature Communications』への掲載、本当にうれしい」

大学院先進理工学研究科 博士後期課程 3年 露崎 隼(つゆざき・はやと)

早稲田大学理工学術院の佐藤政充教授と同大学院先進理工学研究科博士後期課程3年の露崎隼さんらの研究グループが発見した、細胞の目覚め解明につながる遺伝子。植物の発芽の仕組み解明などにつながる研究成果は、露崎さんが筆頭著者となって論文「Time-lapse single-cell transcriptomics reveals modulation of histone H3 for dormancy breaking in fission yeast」にまとめられ、ネイチャー系の自然科学分野を扱う学術論文誌「Nature Communications」に2020年3月9日に掲載されました(※1)。先進理工学部4年生のときに始めた研究の成果が著名学術論文誌に掲載された露崎さんは「これまでやってきたことが、評価されたのは本当にうれしい。よりクオリティーの高い成果を、これからも出していきたいです」と語りました。

※インタビューは2020年3月16日に行いました。

※1 早稲田大学プレスリリース「細胞の目覚め解明に繋がる遺伝子発見」

――なぜ研究という道に興味を持ったのでしょうか。

小学生のころから、いろいろなものを調べることが好きでした。恐竜でも植物でも魚でも100%を知りたくて、図鑑をとことん読みました。中学・高校では数学が好きになりました。解が存在するものを解いていくのが楽しかったんですね。しかし、それは世の中の人が既に知っていることを解いているに過ぎません。問題を解いたからといって、何か新しいことが分かるわけではありません。ところが、科学の世界ではどのような分野であっても「謎」となっている部分が圧倒的に多いのが普通です。そうすると、全てを知るためには研究することが一番大事であり、次第に「研究って面白そうだな」と思うようになりました。

――現在の細胞研究に取り組もうと思ったきっかけはどのようなことでしょうか。

『これだけは知っておきたい 図解 細胞周期』(オーム社)

先進理工学部1年の夏ごろ、西早稲田キャンパスの生協理工店書籍部で、何気なく手に取った本がきっかけです。『これだけは知っておきたい 図解 細胞周期』(江島洋介著、オーム社)で、今でも手元に置いています。生物・生命科学が何となく面白そうだなと思って進学した学部でしたが、図書館や本屋を回っていろいろな本を読んでいるうちにこの本に出合いました。学部1年生でもすんなり読める内容ですが、専門的なこともしっかりと書いてあって、細胞の分野にはまってしまいました。そして学部4年生で佐藤政充教授の研究室に配属されたとき、先生から与えられたテーマが「細胞の目覚め」でした。

――今回の研究成果はどのようなものなのでしょうか。

論文では一細胞単位での挙動を解析するシングルセル解析技術を改良することで、分裂酵母細胞(※2)が休眠から目覚める際の遺伝子の発現状態の変化について解明しました。発現とは細胞の中でDNAの遺伝情報からタンパク質が合成されることです。植物は種子として長期休眠していますが、遺伝子の発現によって環境の変化に応じて発芽します。こうした遺伝子の発現をコントロールするタンパク質「ヒストン」のうち、ヒストンH3遺伝子が果たしている役割を明らかにしました。分裂酵母のヒストンH3を作るための遺伝子は3種類存在するのですが、なぜ三つ存在するのか、それぞれがどのような役割を持っているのかが分かりませんでした。今回の研究で細胞の目覚めにおいて重要な役割を果たしているのは、その内「ヒストンH3 #1」であることを突き止めました。

※2 ヒトと同じ真核生物に分類される単細胞の生物。ヒト細胞でも見られる特徴を多く持ち、その仕組みが単純でわかりやすく、遺伝子改変をしやすいことから、生物学ではモデル生物としてよく使われる。

概要図:長期休眠から目覚めるメカニズムの解明〜シングルセル解析から見えてきた、ヒストンの調節による大規模な遺伝子活性化システムの存在〜

――細胞の目覚めの解明とは、例えばなぜ桜が春に咲くのか、なども分かるのですか?

細胞の目覚めというのは受精卵の発生、植物種子の発芽などに関わります。種子から芽が発生し、その芽が季節や温度に応答して花になっていきます。桜についても、根本のメカニズムには同じところがあるかもしれません。

――研究ではどのような工夫があったのですか。

最大の難関は「酵母が持つ細胞壁の存在」でした。これは壁を構成する遺伝子を予め人為的におかしくして、壁が弱い細胞を作ることで解決しました。壁が簡単に破れるようになったおかげで、効率よく世界初の分裂酵母細胞が眠りから覚めるところの解析ができるようになりました。

シングルセル解析については、国立研究開発法人「産業技術総合研究所(以下、産総研)」と早稲田大学が設立した産総研・早大 生体システムビッグデータ解析オープンイノベーションラボラトリ(CBBD-OIL)(ラボ長・理工学術院 竹山春子教授)に所属させてもらって、実験で得られたデータの解析を行いました。共同研究を行った竹山先生は、シングルセル解析技術のプロフェッショナルで、ラボはその知識と技術の蓄積が日本最大級と言えます。細胞からデータを取るといっても極めて細かいスケールですので、すごく難しいことなのですが、同ラボは「どういう技術を使えば対処できるのか」などを解決する技術が優れています。

酵母がもつ全遺伝子の解析。遺伝子のビッグデータを解析した結果、ヒストンH3遺伝子を見つけた

――データ解析というのは、細胞研究とはまた違った分野なのではないでしょうか。

情報科学という分野なので、全く違います。いわゆるビッグデータの解析などです。細胞を使った実験をずっと行ってきた訳ですが、データを解析するための技術も必要となりました。本を買って読んだり、ネットで調べたり最初は独学で取り組んでいましたが、CBBD-OILの先生方にも教えていただき、解析技術も身に付けました。

――違った分野同士の共同研究に参加して何を感じましたか。

力があるラボ・機関同士が共同研究をすると相乗効果が生まれるということですね。今回は生命科学と情報科学の組み合わせで良い結果を出すことができました。研究を進めていく中で、多くの方からアドバイスをいただきました。自分一人では達成できなかったことで、多くの方々の知識・経験の全てが研究成果につながりました。積極的に共同研究を展開していけば、科学はより進化していくと思います。

――これからの抱負について教えてください。

長い目で見ると、いろいろなことを知りたいという子どものころからの思いは今も変わっていません。何か興味が生まれたら、それに向かって突っ走っていきたいという気持ちはあります。それが生命科学以外の例えば宇宙分野のことであったり地層学であったりしても、足を突っ込んでみたいという気持ちもあります。

今回の研究については、今後はヒストンH3が具体的にどのように細胞の目覚めに関わっているのかなどを解明していきたいです。また、全ての遺伝子情報が詰まっているような膨大なデータを得たので、ヒストン以外の遺伝子も解析できる状態になりました。もっといい成果を出せるように頑張りたいですね。

第754回

細胞観察で使っている顕微鏡をのぞく露崎さん

【プロフィール】
東京都出身。早稲田大学高等学院卒業。佐藤政充教授の印象は「自分の哲学があり、科学に本気で向き合っている研究者」。学生であっても一研究者として接し、研究発表では必ず批判的な立場から意見をくれるとのこと。「そうした批判を真摯(しんし)に受け入れて研究をよりよいものにしていくことが、研究者として成長していくために大事だと言うことを学びました」。

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