正月の風物詩「箱根駅伝」の開催が間近に迫ってきました。前回は往路2位、総合3位と、青山学院大学の3冠(※)を阻止できなかった早稲田大学競走部。今シーズンは10月の「出雲全日本大学選抜駅伝競走」(以下、出雲)で9位、11月の「秩父宮賜杯全日本大学駅伝対校選手権大会」(以下、全日本)は7位と、なかなか思うような結果が出せずにいます。7年ぶりの総合優勝に向けて上位争いへの期待が高まる中、相楽豊監督と安井雄一主将を中心に、レースに挑む決意と調整具合について聞きました。
(※)10月の出雲、11月の全日本、正月の箱根駅伝の3大会が大学三大駅伝と言われる。これまで3冠を達成しているのは大東文化大学(1990年度)、順天堂大学(2000年度)、早稲田大学(2010年度)、青山学院大学(2016年度)の4校のみ
「局面ごとに競り勝ち、ミスをしない全員駅伝で上位争いする」
競走部駅伝監督 相楽 豊(さがら・ゆたか)
今シーズンのチームは全体で30人と近年で最も少なく、箱根駅伝(以下、箱根)に今回出場する大学の中でもおそらく一番少ないと思います。箱根の経験者は7人、1、2年生は全体の半数以上の18人います。ベテランと若手によるチャレンジングなチームです。特に4年生には真面目な子が多く、チーム全体が勤勉です。4年生のこつこつと練習する姿を見て、下級生が同じように取り組んでいます。よくまとまったチームだと感じています。
監督1、2年目は故障を減らす目的で、体幹トレーニングに力を入れました。3年目の今シーズンは意識改革です。人数が少ない分、下からの突き上げがなければ競争は活性化しません。Bチーム(日本学生対校選手権の標準記録を切っている選手たちをAチーム、そこに達していない選手をBチームとしている)を中心にメンタルトレーニングを定期的に行い、「Aチームに負けない」「他大学の主力選手にも負けない」という強い意志を持たせようとしてきました。今、ようやく浸透し始めたところでしょうか。
ここまで三大駅伝のうち二つを終えていますが、どちらも思わしくない結果でした。理由は明確で、選手層が薄いのに、故障や不調で主力がベストな状態で臨めなかったためです。箱根に向けては、全員が万全な状態で当日を迎えるとともに、それまでに下からの突き上げによって、足りなかった部分を埋めていきたいと考えています。
箱根は、エース区間の2区、特殊区間の5、6区という三つの区間で経験値が非常に生きます。経験者が残っているのは強みです。他大学も主力を送り込んでくる往路でいい滑り出しをして、8、9、10区でブレーキをかけなければ、混戦の中に入っていけるはずです。局面ごとに競り勝ち、ミスをしない全員駅伝ができれば、上位争いに食い込めると考えています。
特に4年生の石田康幸(商学部)、安井雄一(スポーツ科学部)、藤原滋記(同)、光延誠(同)の4人が柱で、3年生の永山博基(同)と2年生の新迫志希(同)、太田智樹(同)の3人が核です。まず、この7人が万全の状態で臨めるかどうかが鍵になります。
当日は、早大生の皆さんの声援が私たちの力になります。テレビでも沿道でも構いません。応援していただければ、ありがたいです。
3度目の5区へ 「箱根の山登りは任せろ! 区間賞は当たり前」
スポーツ科学部 4年 安井 雄一(やすい・ゆういち)主将 市立船橋高等学校出身
主将として、部員には一人一人が自分で考えて行動できるよう働き掛けてきました。多様な個性を一つにまとめるのは難しいことです。それでも「チームのために」という気持ちの大切さは伝わっていると思います。内に秘めたものがあるチームになったと感じています。選手として今シーズンに最も重点を置いたのは、自信を持ってスタートラインに立つことです。そのために、例えば夏合宿では4年間で最長となる月間1,100kmを走り込みました。
全日本で(エース級が投入されることの多い)2区を経験し、前半から積極的に攻める走りを意識してきました。後半にペースが落ちないスタミナが身に付いたと感じます。
出雲も全日本もチーム目標とはほど遠い結果でした。箱根では全員が故障や体調不良などなく、与えられた区間で自分の力を最大限に発揮することが必要です。
個人的には、前々回から連続で走ってきた山登りの5区に挑みたいです。前回は、青山学院大学に33秒差の区間2位に甘んじ、あと一歩のところで涙をのみました。今回、区間賞(※)は当たり前だと考えています。記録も1時間12分を切ることが目標です。
2008年の箱根5区で区間賞を獲得した、元主将の駒野亮太さん(2008年教育学部卒)が、コーチとして近くにいてくださるのも力強いです。駒野さんが区間賞を取った箱根でチームは往路優勝、総合2位になりました。今回も、この流れを理想としています。
箱根は、長距離選手が一番輝ける場所です。全員がやり切ったと思うことができ、(ゴールの)大手町でみんなが笑顔になれた結果が、総合優勝につながっていたらうれしいです。
(※)同区間で一番速く走った選手に与えられる賞
「5,000m自己ベスト更新が自信に」
商学部 4年 石田 康幸(いしだ・やすゆき) 浜松日体高等学校出身
今シーズンは「安定感をつける」「後半の失速をなくす」という二つの課題に取り組み、スタミナの強化に努めてきました。具体的には、毎日できるだけ同じ練習や生活を続けることを心掛け、練習量を昨シーズンと比べ1.2倍に増やしたほか、夏合宿では30、40km走を積極的に取り入れました。その結果、圧倒的に変わったのは、体がぶれなくなったことです。後半にきつくなっても、力が抜けなくなりました。脚力の強化につながったと感じています。
成績では、5月に行われた関東学生陸上競技対校選手権大会のハーフマラソン入賞が転換点となりました。また、記録会で5,000mの自己ベストを更新できて自信がつきました。全日本ではアンカーとして順位を上げられず、申し訳ない気持ちでしたが、前の選手を一人で追う苦しい状況の中、納得のいくタイムで走ることができ、自信になりました。
箱根で走りたい区間を問われると、前回の経験を生かせる6区か、上級生がタフさを見せつけなければならない3、4区か迷いますが、最終的には監督が決めることです。戦略に合うよう準備して臨みます。
箱根は陸上を始めたときから目指していた場所であり、優勝や区間賞は目標です。チームが良い流れなら加速させ、逆に悪い流れなら断ち切る走りをして、集大成を有終の美で飾りたいです。
「最後の箱根は陸上人生の中で一番の重み」
スポーツ科学部 4年 藤原 滋記(ふじわら・しげき) 西脇工業高等学校出身
箱根は前々回(2016年)に初出場し、最終10区を任されましたが、結果を残せませんでした。「もっと上(のレベル)で戦いたい」という気持ちが強まる一方で前回は出場できず、チームの一員ではないような疎外感を味わいました。その気持ちが「自分は走らなければいけない存在なんだ」という意識につながっています。
今シーズンは20kmの距離に耐える体をつくることを目指してきました。最上級生となり、経験を積む中で、フィジカル面を鍛えなければ、この先は戦えないと感じたからです。
監督からは「走りそのものが大きくなった」と言われるようになりました。足を置きにいく癖がありましたが、スピードが求められる時代の中、大きな動きを維持することを意識した成果だと思います。中盤でタイムを落とさなくなったことにも、強化してきたことがプラスに働いています。
箱根では往路を走ることが明確な目標です。特に主力区間の2区を意識し、「他大学のエースらと戦うんだ」という気持ちで取り組んでいます。出雲や全日本では不完全燃焼の状態が続いたので、箱根では自分の力を出し切りたいです。
箱根は、一競技者として小さいころから憧れていた舞台です。最後の箱根は陸上人生の中で一番重みのある試合になりますから、走れることの喜びを最大限に感じながら走り切りたいです。
「1年のときの失敗、雪辱を果たす」
スポーツ科学部 2年 太田 智樹(おおた・ともき) 浜松日体高等学校出身
1年生だった前回の箱根は、8区で区間14位と納得のいくものではありませんでした。この結果をしっかりと受け止め、今シーズンは「チームに貢献する走りをする」という気持ちで臨んできました。練習では特にジョグ(ウォーミングアップ)の量を増やしました。箱根は20kmを超える距離を走らなければならないので、走り込んでおかないと対応できません。箱根の距離に抵抗がないようにと意識してきました。
昨シーズンは1年生ということで、消極的になってしまう部分が多かったと思います。2年目の今シーズンは環境にも慣れ、積極的にレースをすることができるようになりました。ただ、集団の中で力を使わずにラストまで持ち込めるようになった一方で、最後の競り合いで負けてしまうレースもあったので、箱根ではしっかりと勝ち切りたいです。
箱根は、僕の中ではあくまでも三大駅伝の一つであり、特別に価値のあるものだとは考えていません。しかし、前回の失敗の「雪辱を果たす」という思いは強いです。チームに流れを作れるような走りをして、チームの目標を達成できるよう貢献したいと考えています。