「金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業」が本格稼働(内閣府BRIDGE)
早稲田大学(所在地:東京都新宿区、総長:田中愛治)および株式会社価値総合研究所(所在地:東京都千代田区、代表取締役会長:栗原 美津枝)を代表機関として、研究開発とSociety 5.0※1との橋渡しプログラム(BRIDGE※2)の中で「金融/投資機関による自然関連情報開示促進と国際標準化を前提としたネイチャーフットプリントの開発と実証事業」が始動しました。
■本事業の背景
気候変動や生物多様性の減少といった環境問題は、人間の経済活動が自然環境に大きな負荷をかけていることがひとつの大きな要因となっています。世界では環境・社会・ガバナンスの3つの視点(ESG)を重視する投資家が増加し、企業は環境負荷の削減努力やその開示を求められています。
このような状況下において、ネイチャーフットプリント※3は、企業活動における自然への影響を定量的に評価し、開示するための重要な指標として注目を浴びています。
■全体概要
本事業は、テーマ1「LIMEを拡張したネイチャーフットプリント用影響評価手法の開発」(代表機関:早稲田大学、研究開発責任者:理工学術院教授 伊坪徳宏)と、テーマ2「ネイチャーフットプリントを用いた金融/投資機関における活用のための実証事業」(代表機関:株式会社価値総合研究所、研究開発責任者:山崎清)が連携し、大学・研究機関が中心となって、国際的に環境影響を解析する手法の1つであるLIME3(Life cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling 3)※4を発展させ、ネイチャーフットプリントの影響評価手法を開発します。これまで生物多様性の影響評価や生態系サービスの経済的評価は個別に実施され、それらを統合したモデルは存在しませんでした。本事業では、LIME3に新たな生物種のリスク評価や生態系サービスの経済的価値評価などを取り入れることで、統合化されたモデルの確立を目指します。
開発した手法は、金融機関、国内事業者と連携しながら活用方法を実証し、その有用性を世界に向けて発信していきます。
■期待される効果
一連の研究成果は実務者用のガイドラインとして取りまとめて国内外に公開するとともに、複数の国際会議に報告することで、研究成果の国際標準化を目指します。
また、ネイチャーフットプリントの開発だけでなく、実際に企業や金融機関で活用するための実証実験も進めていきます。将来的には、この指標が広く普及し、企業の環境経営を大きく変革するとともに、持続可能な社会の実現に貢献することが期待されます。
■参画機関(大学、民間企業等)
テーマ1:LIMEを拡張したネイチャーフットプリント用影響評価手法の開発
早稲田大学、国立研究開発法人産業技術総合研究所、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、大学共同利用機関法人人間文化研究機構総合地球環境学研究所、東北大学、京都大学、関西学院大学
テーマ2:ネイチャーフットプリントを用いた金融/投資機関における活用のための実証事業
政策研究大学院大学、株式会社価値総合研究所、株式会社日建設計、株式会社日建設計総合研究所、味の素株式会社、トヨタ自動車株式会社、積水化学工業株式会社、住友林業株式会社、株式会社資生堂、AGC株式会社、JX金属株式会社、太平洋セメント株式会社、パナソニックホールディングス株式会社、日本電気株式会社、農林中央金庫、MS&ADインシュアランス グループ ホールディングス株式会社、三菱UFJ信託銀行、株式会社LCAエキスパートセンター、一般社団法人サステナブル経営推進機構、TCO2株式会社、MS&ADインターリスク総研株式会社、ほか都市銀行、地方銀行など金融機関多数
■用語解説
※1 Society 5.0:
サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)。
狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、新たな社会を指すもので、第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿として初めて提唱されました。
※2 BRIDGE:
内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)の司令塔機能を生かし、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)や各省庁の研究開発等の施策で生み出された革新技術等の成果を社会課題解決や新事業創出、ひいては、我が国が目指す将来像(Society 5.0)に橋渡しするため、官民研究開発投資拡大が見込まれる領域における各省庁の施策の実施・加速等に取り組むプログラムです。
ウェブサイト:https://www8.cao.go.jp/cstp/bridge/index.html
※3 ネイチャーフットプリント:
自然に注目したLCA(ライフサイクルアセスメント)を指します。特に、生物多様性(質)、生態系サービス(量)に注目して、気候変動、水消費、土地利用などによる自然・生態系への影響を定量的に評価します。資源の採掘から、素材生産、輸送、組立、使用、リサイクル・廃棄までを網羅した分析を通して、ネイチャーポジティブに向けた効果的な影響低減策の選定や関係者間におけるコミュニケーションを促進するための情報源として活用されることが期待されます。
※4 LIME3(Life cycle Impact assessment Method based on Endpoint modeling 3) :
日本発のライフサイクル影響評価手法として、LCA国家プロジェクトにおいて開発されたLIMEは、最新の自然科学と社会科学の知見と解析手法を活用し、LCAに限らず、環境効率、環境会計、フルコスト評価等様々な分野において活用されています。LIME3は、LIME2までは日本に限定されていた対象地域を世界に拡大したことで、グローバルビジネスを展開する事業者のLCA実施を可能にしました。また、定量化した環境負荷を経済価値指標に換算することもでき、企業経営にわかりやすい判断材料としても用いられています。