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高分子でゼロエミッション社会の実現に挑む

高分子化学研究
岡 弘樹
(おか こうき)/先進理工学研究科 先進理工学専攻(一貫制博士課程) 修了・第11回(令和2年度)育志賞受賞

 先進理工学研究科先進理工学専攻(5年一貫制博士課程)で学んだ岡弘樹さん。「水素授受反応に立脚した高密度水素貯蔵を担うレドックス高分子の創出と機能開拓」で第11回(令和2/2020年度)日本学術振興会育志賞を受賞し、現在は日本学術振興会 特別研究員(PD)として東京大学大学院理学系研究科で研究を進めています。大学院での研究生活を振り返っていただきました。

 

水素を運び、貯めるプラスチックの研究

2000年に白川英樹先生がノーベル化学賞を受賞して広く知られるようになった導電性高分子(電気を流すプラスチック)をはじめとして、これまで、電気を運ぶ・作る・貯めるといった多様な機能を持つプラスチックが生み出されてきました。私が指導を受けた高分子化学研究室では、特に、有機レドックス高分子という材料に着目して研究を進めており、その特徴的な電荷授受反応を応用して、電気だけではなく水素を運び、貯める新たなプラスチックの研究に取り組みました。

図 研究概要(本人提供)

水素について考えるようになったのは、研究室配属後です。当時の指導教授だった西出宏之先生(現 名誉教授)が提案くださったテーマが「金や白金に代わるプラスチック」。金や白金は貴金属としての美しさだけでなく、その安定性から触媒として様々なところで活用されていますが、高価なため代替材料の探索が課題となっています。研究開発がさかんに行われている燃料電池における水素や酸素製造過程でも使われており、「未来のクリーンエネルギーにつながる技術だ」と取り組み始めたことを、育志賞をいただくまでに成長させることができ、本当に嬉しく思っています。

育志賞の選考過程では面接があり、2020年度はオンラインでの実施でした。面接の前日には、膨大な数の自作Q&A集をもとに、ひとり、真っ黒なディスプレイに向かっての素振り練習を繰り返しました。準備万端で臨んだ面接当日でしたが、接続がうまくいかず審査員の方々をお待たせすることとなり、頭の中は真っ白。それでも、在籍していた専攻の方針で、多様な方々に対し研究発表する機会が多くあり鍛えられたおかげか、何とか立て直すことができたのではないかと、今となっては分析しています。

問われ続けた、“あなた”は何をしたいのか?

大学院では主体性をもって行動することで、多くの機会と学びを得ることができました。その気になりさえすれば、早稲田大学には多種多様なチャンスが用意されていますから、使わない手はありません。私の例を挙げると、(1)修士博士5年一貫制博士課程である先進理工学専攻への進学、カリキュラムを通したウプサラ大学(スウェーデンにある北欧最古の大学、多数のノーベル賞受賞者を輩出)マーティン・スジョーディーン先生のもとでの3か月間の共同研究、および早期修了、(2)スーパーグローバル大学創成支援「ナノ・エネルギー拠点」で招聘されたモナシュ大学(オーストラリアにある研究重点8大学のうちのひとつ)のビヨーン・ウィンザー・ジェンセン先生による研究指導、(3)全学的な制度である、大学院生等派遣助成制度やハイ・インパクトジャーナル掲載支援プログラム、などがあります。

一貫制で修士1年生相当のときにジェンセン先生が早稲田にいらしたのですが、当時の私の片言の英語にも真摯に耳を傾けてくださり、毎日何時間もディスカッションする日々が続きました。その中で毎回問われたのは「“あなた”は何をしたいのか」。あなたがやりたいことを全力でサポートする、あなたが中途半端に取り組むのであれば一緒に研究する価値がない、と正面から諦めず何度も伝えていただいたことで、それまでどこか他人事だった研究に、自分事として本気で取り組めるようになりました。次第に、こうしたら絶対に面白い、と自分が思うアイデアをディスカッションの中で理論レベルまで突き詰めた上で実験に着手し、分析し、成果としてまとめるというサイクルを回せるようになっていきました。

図 国際会議(17th IUPAC International Symposium on MacroMolecular Complexes)にてポスター賞を受賞した際の
マーティン・スジョーディーン先生(右)、ビヨーン・ウィンザー・ジェンセン先生(左)らとの写真(本人提供)

もちろん、思いついたアイデアすべてを試行することはできませんし、試行したすべてがうまくいくものでもありませんが、ノーベル賞で有名なアルフレッド・ノーベルの名言を拝借すれば、「1000のアイデアのうち、1つでも良いものとなれば良い方」なのです。良いものが見つかるまで、1日に1つでも2つでもアイデアを考え続けることは、実に楽しいものです。また、研究は社会のために行うものであるから、一人で取り組まず協力して成しても良いのだという助言もジェンセン先生からいただき、肩の力を抜いて研究に対峙することができるようになったことも、大きな契機となりました。ある意味で、好き勝手に研究させていただいたわけですが、それも大学院生の特権、と様々な場面で後押ししてくださった高分子化学研究室の小柳津先生、西出先生には本当に感謝しています。

学術的意義と社会的意義を両輪に

ジェンセン先生との共同研究で自信を得て、躊躇なく飛び込めたウプサラ大学スジョーディーン先生との共同研究では、「学問としてであっても、一般の人が面白いと思うこと」を突き詰めることで、社会へのインパクトの大きい研究テーマを生み出す方法もあるという、新たな気づきをいただきました。それならばと、電流量を得るために従来用いていた導電助剤すら使わない「完全プラスチック電池」の作製に取り組みました。幸いなことに、論文にまとめるまでの成果を出すことができ、またその後、ウプサラ大学の学生にテーマを引き継いでもらうことができています。

これまで、水素、電気、光をキーワードとした研究を進めてきましたが、今後は「熱」も研究テーマに加えていきたいと考えています。高温ではなく200度以下、もっと欲張るなら100度以下の低温で動作する環境適合な熱電変換デバイスを作製したい。これが実現できれば、工業廃熱を有効活用でき、資源を持たない日本においては非常に良いエネルギー確保・利用手段になるのではないかとワクワクしています。

アカデミアにおいて研究教育者としての歩を進めていくにあたり、研究については学術的意義と社会的意義を常に意識していきたいと考えています。未解決問題の解決に迫るような、それでいて一般の方が聞いても「面白いね、それは意味があるね」と思ってくださるようなインパクトのある研究を進めたいですね。社会課題に挑むために必要な科学は広範であり、ひとりでできる研究には限界があります。多様な分野の方と協働して力をお借りしながら、チームで取り組んでいければと考えています。先進理工学専攻在籍時にも、電気や物理、生命系など幅広い学科から集まっていた先輩・同級生から多くの示唆を得られたことは貴重な財産となっています。教育の面では、自身の経験から、関わる学生たちが楽しんで研究に取り組めるように、それぞれの良いところを引き出す手伝いができればとも考えています。学生は、今後の頼もしい研究仲間にもなってくれるでしょう。

やりたいことは、ありますか?

皆さん、やりたいことは、ありますか?
早稲田大学には、やりたいことを実現するためのチャンスやサポートが、幅広く用意されています。私自身、副専攻、海外留学、学術論文の執筆・投稿、インターンシップなど、多くの機会と学びを得て、今、アカデミアの世界で研究者・教育者としてのスタートラインに立つことができました。やりたいことがない人は、まず、できることに取り組んでみてください。できることの中からやりたいことが見つかったとき、それに本気で取り組んだとき、きっと人生が変わります。そして世界も変えていけるでしょう。私は「研究」で、皆さんは皆さんのフィールドで。心から後輩の皆さんにエールを送りたいと思います。

 

日本学術振興会「育志賞」
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プロフィール

岡 弘樹(おか こうき)

2017年3月に早稲田大学先進理工学部を卒業後、修士・博士5年一貫制の博士課程である早稲田大学大学院先進理工学研究科先進理工学専攻に進学。高分子化学研究室の小柳津研一教授、西出宏之教授(現 名誉教授)の指導のもと、「水素授受反応に立脚した高密度水素貯蔵を担うレドックス高分子の創出と機能開拓」の研究に取り組み、2021年3月修了(早期修了)。現在は、日本学術振興会特別研究員(PD)として東京大学理学系研究科において研究活動に邁進中。2020年度小野梓記念学術賞受賞。

主な研究論文
  • K. Oka, C. Strietzel, R. Emanuelsson, H. Nishide, K. Oyaizu, M. Strømme, M. Sjödin, “Conducting redox polymer as a robust organic electrode-active material in acidic aqueous electrolyte towards polymer-air secondary batteries”, ChemSusChem, 13(9), 2280-2285 (2020).
  • K. Oka, S. Furukawa, S. Murao, T. Oka, H. Nishide, K. Oyaizu, “Poly (dihydroxybenzoquinone): its high-density and robust charge storage capability in rechargeable acidic polymer–air batteries”, Chemical Communications, 56(29), 4055-4058 (2020).
  • K. Oka, O. Tsujimura, T. Suga, H. Nishide, B. Winther-Jensen, “Light-assisted electrochemical water-splitting at very low bias voltage using metal-free polythiophene as photocathode at high pH in a full-cell setup”, Energy & Environmental Science, 11(5), 1335-1342 (2018).
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