ナノファイバー共振器QEDに基づく新方式量子コンピュータハードウェアの開発
情報技術に大きな革命をもたらすことが期待される誤り耐性型汎用量子コンピュータの実現には、量子誤り訂正が可能で、かつ、10⁶~10⁸物理量子ビット規模まで量子ビット数を拡大できるハードウェア方式が求められます。しかし、超伝導方式をはじめとする既存の各ハードウェア方式では、量子ビット数の大規模化において大きな技術的課題を抱えているため、大規模化に有利な新しいハードウェア方式の開発が必要です。また、いかなるハードウェア方式においても、単ユニットで10⁶~10⁸物理量子ビット規模まで拡大することは極めて困難であることが予想されるため、スケーラブルな分散型量子コンピューティングが可能な方式の開発が必要です。さらに、量子誤り訂正の効率的な適用のためには、任意の量子ビット間が結合した全結合型であることが望まれます。
共振器量子電気力学(共振器QED)系は、光共振器に閉じ込められた光と、それと相互作用する原子からなる系であり、光と原子の量子性が純粋な形で顕在化するため、量子物理学の発展に大きな役割を果たしてきました。さらに共振器QED系は、量子情報科学の黎明期より量子コンピュータの実装に有望な系として期待されてきました。しかしながら、実際に量子コンピュータを実装するためには、光ファイバーとの接続性、原子の収容性、低損失性を兼ね備えた光共振器の開発が求められてきました。
上記の背景のもと、早稲田大学青木隆朗研究室では、共振器QEDに基づく量子コンピュータの実装に適した光共振器としてナノファイバー共振器を開発し、これを用いた共振器QED系、すなわち「ナノファイバー共振器QED系」を実現しました。本研究所では、ナノファイバー共振器QEDに基づく新方式の量子コンピュータハードウェアを開発します。本方式は原子と光子のハイブリッド方式であり、原子と光子の両方を全結合型の量子ビットとして活用できます。さらに、光ファイバー接続による大規模な分散型量子コンピューティングが可能であり、また、量子通信ネットワークとの統合が可能です。
本研究所では、内閣府のムーンショット型研究開発制度を中心とする国の大型研究プログラムのもと、早稲田大学と株式会社Nanofiber Quantum Technologies (NanoQT)の強力な共同研究によって研究開発を推進してまいります。
青木 隆朗 先進理工学部教授