『歌劇《ドン・カルロ》の改訂におけるナポリ版の位置づけ-フィリッポII世とポーザ侯爵の二重唱を中心に-』 林いのり
発表要旨
G. ヴェルディの歌劇《ドン・カルロ》には複数の改訂版が存在するが、1872年に制作されたナポリ版は、作曲者が監修したにも拘らず音楽面での詳細な分析が行われていない。本発表では、フィリッポII世とポーサ侯爵の二重唱を題材に、ナポリ版を軸にしたオペラ座初演版の翻案(1867)およびミラノ版(1884)との比較分析結果を提示する。使用資料は、各版の楽譜・台本、当時の上演評、ならびに書簡である。分析の結果、ナポリ版では複数の音楽部分を削除して冗長さを回避し、台本の一部を改変して劇の進行を明快にするという、ミラノ版にも通じる方向性が確認された。一方、楽曲形式や歌唱旋律の展開手法には、依然としてイタリア・オペラの慣習に沿う傾向が強くみられた。また、詩行韻律と旋律の関係では、重要なセリフが朗唱調で歌われる点は共通しつつも、伴奏のテクスチャや音量の指定は3つの版で異なっていた。これらの変化は台詞としての歌詞の表現に影響を及ぼしており、ヴェルディの劇作法の変化の一端を反映していると考えられる。
開催概要
- 日 時:2025年10月11日(土)16:30-18:00
- 場 所:Zoom配信
- 発表者:林いのり(エリザベト音楽大学)
- 司会者:萩原里香(武蔵野音楽大学)
- 言 語:日本語
- 主 催:早稲田大学総合研究機構 オペラ/音楽劇研究所
参加申込方法
Zoom事前登録が必要です。参加希望者はできるだけ前日の10月10日(金)までに以下のURLから事前登録をしてください。
URL:https://list-waseda-jp.zoom.us/meeting/register/Sa_vG7iRSCecyQAzl4J4WQ
※Zoom自動登録制です。主催者側からはズーム招待状をお送りしません。(なお飛び入り参加も可能です。)
※ご出席の際フルネームの表示をお願いします。発言時以外はミュートおよびビデオ・オフにしてください。スクリーンショット撮影、録音、録画等は厳にお控え願います。また司会者の指示にしたがってください。
問合せ先
早稲田大学総合研究機構オペラ/音楽劇研究所:https://prj-opera-mt.w.waseda.jp/
e-mail address: operaken-uketsuke[at]list.waseda.jp ([at] = @)
(この例会案内は Facebookと X(旧Twitter)でも発信されます。)
発表者プロフィール
東京藝術大学音楽学部声楽科卒業、お茶の水女子大学大学院博士後期課程を修了(博士、人文科学)。日本学術振興会特別研究員、お茶の水女子大学グローバルリーダーシップ研究所特別研究員などを経て、現在エリザベト音楽大学講師。研究対象領域は、G.ヴェルディを中心とする19世紀後半のイタリア・オペラの劇作法とその受容。近年の論文は「歌劇《シモン・ボッカネグラ》の改訂における、台本詩行と歌唱旋律に対する修正の関係性」(『音楽学』69巻2号)など。幼児教育番組の楽曲における歌詞と旋律の特徴にも関心を持っている。