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分野を超えて討議する、AI時代の生き方【シンポジウム開催報告】

2026年9月17日(木)、早稲田大学総合研究機構はシンポジウム「AI時代の暮らし、仕事、学びを考える」を開催。専門分野の異なる研究者、学外関係者が集い、多様な視点からAI時代の生き方への提言、知見が共有されました。

本記事では、当日のダイジェストをお届けします。

※登壇者の発言は、抜粋や要約によるものです。

歴史的な大転換の中で、問われる人間のあり方

早稲田大学は文理を問わない連携型の共同研究を推進すべく、「プロジェクト研究所」を設置しています。117のプロジェクト研究所を統括する「総合研究機構」では、各研究所の研究成果を社会へと還元すべく、シンポジウムを開催してきました。

今回開催されたシンポジウムのテーマは、「AI時代の暮らし、仕事、学びを考える」。冒頭で挨拶を述べたのは、研究推進部副部長の山本聡美教授です。

山本聡美教授

「AIという巨大な波が押し寄せ、私たち人類は、環境、経済、国際関係など、さまざまな局面で歴史的な転換点を迎えています。生成AIをはじめとするテクノロジーは、瞬く間に私たちの予想を超え、社会のあり方そのものを根底から塗り替えるかもしれません。本日のシンポジウムでは、AIの問題の本質を捉え、共生の実現について議論を試みます。根源的な問いと向き合うべく、各分野の最前線に立つパネリストをお迎えしました。参加者の皆さまには、明日の暮らしに役立つ知見を持ち帰っていただきたいと思います」(山本教授)

つづく基調講演「“AI”と人間の真の共生社会を目指して -教育・学習の新しい方向性を探る-」では、「キャリアデザインと学習サービス研究所」所長の松居辰則教授が登壇。人工知能研究の変遷を俯瞰した上で、教育・学習領域への応用について現在地を伝えました。

松居辰則教授

「人工知能研究の教育・学習領域への応用は、古くから検討されてきました。例えば、知的学習支援システムの分野では、知識、学習履歴、教授戦略などの獲得、モデリング、実装などが研究課題になってきました。しかし今日では、その大部分をAIエージェントが担うことが可能です。LA(Learning Analytics:学習分析)へのビッグデータ活用も同様に、大きな期待が集まっています。説明可能性の担保、ビッグデータの解釈方法、エビデンスの定義など、課題も多く残りますが、これらが解消されれば、教育環境は大きく変わるでしょう」(松居教授)

こうした変化を踏まえ、松居教授は人間に求められる能力、AIと共生する方法について考察を述べます。

「AIの進化は、過去になかった仕事やサービスの創出、人間だけでは不可能であった質の獲得を実現します。一方、人間の仕事の喪失、情報格差の拡大、認知能力の低下など、多くの問題も孕んでいます。生体や医療、行動や学習など、個人的なデータが抽出される“情報の過剰な可視化”など、議論が必要な部分も多いです。では、人間はどうすべきか。『人間本来の強みを意識する』『過去の情報に依らず新規性の高い問いを立てる』『大量の情報から適切なものを評価・選別する』『非論理思考やトップダウン思考を許容する』など、AIと共生する上では、さまざまな能力が求められます。特に教育・学習領域では、人格の完成、人間の尊厳を重視したアプローチが重要になるでしょう」(松居教授)

ロボット、アバター、デジタルソサイエティから、未来社会を考える 

シンポジウムでは、3つのプロジェクト研究所が個別のテーマを立て、研究者と学外関係者による対談を実施しました。「ヒューマノイド研究所」のパートでは、所長の高西淳夫教授と株式会社インフォコーパスの田名瀬崇氏が、「これまでのヒューマノイド、これからのヒューマノイド」について意見を交わします。

高西淳夫教授(写真左)×田名瀬崇氏(写真右)

「早稲田大学の故・加藤一郎先生は、1973年に史上初のヒューマノイドロボット『WABOT-1』を開発しました。『日本ロボット研究の父』と称される先生は、私や田名瀬さんを含む研究者・エンジニアの輩出にも貢献しています。今日、世界ではAIとロボットの融合が進んでいますが、中心を担っているのは私たちの次の世代です。日本は遅れをとっているものの、『小さなネジにも魂が宿る』といった文化的特性を生かせば、海外が真似できないヒューマノイドロボットを開発できるはずです」(高西教授)

「中国ではヒト型ロボットの開発が加速していますが、安全性や耐久性の側面では日本にも強みがあります。また、我が国では少子高齢化による人手不足を背景に、仕事、家事、社会的弱者の支援などでロボットのニーズが高まっており、ビジネスとしての土壌も形成されつつあります。精密部品、特許の蓄積、実績と信頼性、文化的伝統などを生かせば、日本にも勝算はあるでしょう」(田名瀬氏)

 

「現代死生学研究所」は、株式会社ローソンの月生田和樹氏をお招きし、アバター接客を導入する同社の事例を通じ、所長の森岡正博教授と対談しました。

森岡正博教授(写真左)×月生田和樹氏(写真右)

「ローソンでは、一部店舗でアバター接客サービスを導入。セルフレジの画面横にアバター画面を用意し、操作方法などのサポートをお客さまに提供しています。アバターを動かすのは、遠隔地にいる人間です。労働人口の減少が叫ばれる中、温もりのある接客を模索してきた当社は、『高齢の方や障がいのある方は、実はもっと働ける』と考え、プロジェクト始動に至りました。『人(対面)』『人が動かすアバター』『AIが動かすアバター』それぞれの特性を比較し、今後もビジネスに生かす方法を追求したいと考えています」(月生田氏)

「『人が動かすアバター』は、人間とAIの間に位置するユニークな形態です。地方や病院などでも操作でき、障がいのある方の社会参画にもつながります。アバターは、私が研究する『アニメイテド・ペルソナ』という概念にも通じるのかもしれません。夜中に日本人形を見て怖さを感じるのは、人のような存在を自覚しているからだと私は考えます。では、ローソンのお客さんは、喋っている対象をどう捉えるのか。画面か、生身の人間か、AIか。リアルな接客に近づけることはベストか、むしろ逆効果か。非常に興味深いテーマだと感じます」(森岡教授)

「デジタル・ソサエティ研究所」の対談テーマは、「AIと働く、その先へ -AI時代に、人は何を生み出すのか-」。所長の三友仁志教授が総務省大臣官房審議官の吉田恭子氏と、AI時代の働き方や社会について議論しました。

三友仁志教授(写真左)×吉田恭子氏(写真右)

「今後の社会に向けては、AIディバイド(格差)が課題化しています。海外ではAIサービスを無償提供する事例もあり、ユニバーサルAIは日本でも重要になるはずです。無料でAIサービスを提供する社会では、教育の役割も大きくなるでしょう。AIが社会の基盤となる中で、私たちはどのように戦略を描くべきでしょうか」(三友教授)

「ユニバーサルAIは、格差是正のみならず、国産AIの発展にも寄与するかもしれません。我が国でも議論が活発化する可能性があります。政府では、ガバメントAI『源内』を全省庁で導入しており、今後は国産LLMも選定していく予定です。私たちは、政府が自らAIを活用し、業務変革、政策領域でのAI展開を先導し、信頼性の高いAIの価値提供を目指したいと考えています。未来社会では、資料に美しく物事を整理する力よりも、考える力、対話する力が求められるでしょう。そうした人材の育成は、大学にも期待しています」(吉田氏)

人間とAIの共生では、問う姿勢が出発点になる

シンポジウムの後半には、登壇したプロジェクト研究所の所長が分野を横断し、フリーディスカッションを実施。参加者を交えた質疑応答も行われ、深いテーマも議論されました。

「記号処理されたものに意味を与えていく力は、AIにないとされます。人間本来の強みとして解釈や意味づけなどが挙げられますが、それらを突き詰めると、不完全な情報を文脈の中で補完しながら思考し、情報として立体化することに行き着くかもしれません。日常の中で人間本来の強みを意識することは、今後ますます重要になるでしょう」(松居教授)

「AI倫理学の一部には、『AIは人間の奴隷であるべき』という立場もあります。AIがどこまで賢くなっても奴隷として扱い、人間の尊厳を守るべきという主張です。AIの進化は著しく、人類を脅かす可能性も指摘されるようになりました。しかし科学史を振り返ると、遺伝子操作やクローン人間のように、人類社会がモラトリウムとして技術を規制した例もあります。AIの場合は複雑な国際関係も絡みますが、AIとの共生のあり方そのものも、見つめ直すべきです」(森岡教授)

「制御工学の観点では、人間でも機械でも、何かを入力し、反応し、その結果が目的と一致しているかどうかを検証して、フィードバックするループを繰り返します。ここにAIが入ると、膨大なパワーと時間を要することから、不安定で危険な発振現象を起こします。その際、人間はどのように不安定を回避しているのか。実はフィードバックのループを避ける小脳が果たす役割が大きく、自分自身のモデルと逆のモデルを、生涯を通じて学習しつづけているのです。AIの議論や開発にも、小脳的な制御機能の視点を取り入れるべきだと思います」(高西教授)

「皆さまの話を聞くと、やはり重要なのは人間であり、人間がAIを使って望ましい未来のビジョンを描くことだと感じます。その出発点となるのは、単に“答え”を受け容れるのではなく、われわれが主体的に“問う”ことです。今後さまざまな変化が起こる中で、暮らし、仕事、学びを考える上では、問いがいっそう大切になります。何よりそれは、私たち大学の使命でもあるはずです」(三友教授)

シンポジウムの最後は、総合研究機構で機構長を務める川上泰雄教授が閉会挨拶を述べました。

川上泰雄教授

「私たち総合研究機構は、産官学連携、領域横断型の研究・議論の場として活動しています。今日改めて感じたのは、融合が重要なキーワードであることでした。世界人類に貢献する技術や理論、それらを支える倫理観などを討議する場となるように、今後も本学の活動の一端として、総合研究機構の取り組みにご理解を賜りますよう、お願い申し上げます」(川上教授)

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