2023年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:事業承継コンサルティング入門・実践
受賞者
村上 裕樹/生子 洋輔/小松原 稔通/大沼 蔵人
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「事業承継コンサルティング入門・実践」の授業は、大学院会計研究科の学生を対象に、学生が将来、公認会計士や税理士などの専門家となり、非上場会社のオーナー経営者の事業承継における課題検討に関わっていく際に必要となる基礎知識の習得に加え、コンサルティング実務の様々なケースについて実践的な視点を学ぶことを目的としている。この授業は、「公認会計士の資格試験等に直結している科目ではありませんが、会計研究科が会計プラス1として会計分野と隣接した専門領域の修得を掲げています。このため、私たちは、学生が将来専門家として必要となり得る事業承継コンサルティングに関して、専門家になったつもりで基礎知識を身につけてもらうことを目的としており、実際の現場で求められる視点を磨くための授業」と位置づけられている。
授業は、前半の講義と後半のケーススタディで構成されており、「なるべくコンサルティング実務で実際に生じる事例を取り上げて、分かりやすく説明することを意識しています」。学生は実際の事例をもとに、個別ワークやグループワークを通じて「事業承継の課題をどのように解決できるか」を考え、発表するという。
また、公認会計士や税理士が実務において「事業承継の相談を受けた際に、基本的なアドバイスができるようになること」が授業のゴールである。そのためには、税法はもちろん、会社法や民法など、幅広い知見を身につけることが重要となる。なお、資格を目指していない方も、事業承継問題は自分の問題になる可能性があるため、前提知識がなくてもついていけるように授業は工夫されている。
実務現場を意識した授業づくり
「公認会計士2次試験に合格した方はまず監査法人に就職してキャリアをスタートすることが多いと思いますが、その後のキャリアとして独立した場合など税務業務に関わる場面が増えると、事業承継や相続といった課題を検討する機会が増えます。そのときに、知識だけでなく、オーナー経営者の想いを理解した上で、専門家としての考えを伝えながら伴走していく実践的な対応ができることが求められます。」と先生方は語る。
そのため、「授業では講義として伝えるインプットだけでなく、コンサルティングの現場で実際に起こるケース(オーナー経営者が直面している課題など)を取り上げ、グループワークを通じて学生が現場(課題に対する対応策の提言)を疑似体験できるよう工夫しています」とのことだ。「一方通行の講義ではなく、学生同士が話し合いながら学ぶことで、より実務に近い感覚を身につけてもらうことを意識した授業づくりをしています」。
また、「事業承継の問題は経営者の想いや他の株主を含む事業承継の環境によって異なり、正論だけが通用しないことも多い。そのため、実際のケースを取り上げ、複数の視点から検討することが大事」だと先生方は指摘している。
学生にとって身近な例を取り上げ、学生のモチベーションを高める
この授業では、学生のモチベーションを高めるためにさまざまな工夫が施されている。「事業承継の問題は、自分自身や家族にも関わることが多いとのことだ。授業の最初に『あなたの身近な人が事業を引き継ぐとしたら、どんな課題があると思いますか?』と問いかけることで、学生が授業のテーマを自分ごととして捉えられるようにしています」。
また、「単なる知識のインプットではなく、実際の企業の事例や時事問題を絡めて説明することで、学生の興味を引くように」しており、例えば、「最近のニュースで話題になった企業の事業承継問題を取り上げることで、授業の内容により一層興味関心を持ってもらえるよう」工夫しているそうだ。
さらに、「発表の機会を多く設けることで、学生自身が学んだことをアウトプットしやすい環境を作っています。また、学生同士でディスカッションしているグループワーク中なども、講師が各グループを巡回し質疑がしやすい雰囲気をつくることで、学生の議論への参加意識を高めることを心掛けている」とのことだ。
今後はさらに現場に即した実践力を習得させる授業づくりを
この授業は6年目を迎え、毎年改良を重ねながら進化している。「これまでの授業では、理論と実務のバランスを意識してきましたが、今後はさらに現場に即した実践力を身につけられるような形にしていきたい」と、先生方は今後の展望を語る。
特に、「学生のアウトプットの機会を増やし、インプットされた内容の定着を図りつつ、より実践的な提案力を養う場を作ること」が今後の課題の一つ。「現状でもグループワークや発表の機会を設けていますが、もう少し個人の意見を深掘りし、より具体的な提案を考えられるような仕組みを取り入れたい」とのことだ。
また、「授業のフィードバックをより充実させることも重要です。最終回では学生の期末課題発表に対して講師陣がフィードバックを行っていますが、個別のアドバイスを充実させ、より学生の成長に繋がるアドバイスができるようにしていきたい」と述べている。
最後に今後の抱負をいただいた。「授業を受けた学生が将来、実際に事業承継のコンサルティングに関わる場面が増えていくことを願っています。そのときに、この授業で学んだことが少しでも活かされるよう、今後もより良い授業を提供していきたい」。