2023年度開講科目早稲田大学ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:障害と教育
受賞者:堤 英俊
堤先生が教える「障害と教育」は、文学学術院の教育学コースで開講されている授業である。障害に関わる広範な問題を扱いながら、教育との関係を考えていくのが特徴だ。受講する学生はさまざまで、中学校や高校の教員を目指す者もいれば、就職活動を進める中で障害や教育に関心を持つ者もいる。そのため、授業では学校教育に限定せず、障害と社会の関係を含めた多様な視点を取り入れるように設計されている。授業では、学生に考えさせる問いを投げかけながら議論をうながし、学生の「もやもや」に応える工夫もされている。過去に特別支援学校教師をされていた堤先生の実務経験も交えながら、学生の興味関心を引き出す授業を行っている。
リアクションペーパーと「もやもやピックアップ」で学びを深める仕掛けを
授業の特徴の一つとして、毎回のリアクションペーパーの提出がある。授業の最後にリアクションペーパーの時間が確保され、学生たちは「今日の学び」を振り返る。単なる感想文ではなく、「授業を通して考えたこと」と「疑問や違和感(もやもや)」を書くことが求められる。
このリアクションペーパーによって、学生の考え方の違いが可視化される。たとえば、教員志望の学生は「学校現場でこの問題をどう扱うべきか?」という視点を持つことが多い。一方で、そうでない学生は「障害と就労の関係」や「社会制度のあり方」について疑問を抱くこともある。堤先生はリアクションペーパーを通じてこうした違いを把握し、次回の授業に反映させていく。
リアクションペーパーの中からいくつかの「もやもや」をピックアップし、次回の授業の冒頭で共有する「もやもやピックアップ」という仕組みもある。ここでは、特定の学生の疑問や違和感が取り上げられ、それについて教員が解説を加えたり、学生同士で意見交換を行ったりする。「必ずしも教育の話ではないものも取り上げることで、視点の違いを考えるきっかけになっている」と堤先生は語る。
この「もやもやピックアップ」には、学生の関心を広げる効果もある。たとえば、ある学生が「アルバイト先で障害のある人と接するときにどうすればいいかわからなかった」と書いたとする。この問いが共有されることで、他の学生も「自分はどう考えるか?」を改めて考えることになる。堤先生が私見を交えながら「みなさんはどう思いますか?」と問いかける場面もあり、授業は単なる知識の伝達ではなく、双方向的な学びの場となっていく。
リアクションペーパーを通じて、新たな「もやもや」が生まれ、次の授業につながっていく。このサイクルによって、授業は単なる知識の伝達にとどまらず、学生が主体的に問いを持ち、学びを深めていく場となっている。
考えさせるクエスチョンで議論をうながす
授業では、リアクションペーパーや「もやもやピックアップ」に加え、問いを中心に据えた学びが重視されている。講義の中で、「このケースではどのような対応が考えられるか?」といったクエスチョンが提示され、学生たちはそれに対してグループで話し合う。単なる知識の確認ではなく、「自分ならどうするか?」という具体的な視点が求められるのがポイントだ。
グループワークの進め方にも工夫がある。通常、学生たちは慣れ親しんだメンバーと話しがちだが、授業では教員が歩き回りながら、3〜4人の小グループをその場で編成する。これによって、普段あまり関わらない人と意見を交わす機会が生まれ、多様な視点を取り入れながら議論を深めることができる。「少し強制的な部分もあるが、普段関わらない人と話すことで新たな気づきが生まれる」と堤先生は言う。こうした問いやグループワークは授業内で1〜2回程度取り入れられ、講義と対話がバランスよく組み合わされている。
学生たちの反応も興味深い。教員を目指す学生と、企業への就職や公務員を志望する学生とでは視点が異なるため、意見のバリエーションが生まれやすい。さらに、障害当事者の学生からは体験を交えた発言が出ることもある。授業では、プライバシーを尊重しつつ、「話したい人は話してもよい」というスタンスを取ることで、多様な声が共有される場が作られている。
「障害と教育」の授業をとおして、学生は考える力を養うことができる。ただ情報を受け取るだけではなく、問いを持ち、議論し、さらにその学びを次につなげる。このような学びの仕掛けが、学生たちの視野を広げ、障害と教育をめぐる多様な課題に対する理解を深めることにつながっていく。