2022年度秋学期早稲田ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:光工学
受賞者:高橋 淳子
反射や屈折といった光学現象の基礎から、光デバイスや光学装置などの技術、研究への応用分野までを学ぶシステム研究科の「光工学」。担当する高橋淳子教授は、光工学の知識を効率的に理解できるように、身近な現象などと結びつけながら授業を展開。2カ国語併用であることも理解度向上にうまく結びつけ、学生授業アンケートでは、「教員は学生の理解を深めるための工夫をした」が6点満点中5.92点など、各項目で高い評価を受けた。
基礎知識をしっかりと習得させるために、「生活者の視点」を意識して説明する
「光工学」は、北九州キャンパスの情報生産システム研究科の1年生以上を対象とした科目で、授業はZoomのリアルタイム配信で実施。同キャンパスは外国人留学生が多く、2022年度秋学期は54名の学生全員が留学生で、そのほとんどが中国人だった。「2021年度秋学期の履修者は留学生3名と日本人1名の4名だったので、大幅に人数が増えました。4名のときは、授業の終わりに一人ひとりの学生にコメントをもらっていましたが、オンラインで50名以上となると同じ方法は難しかったですね」。後述するように、2023年度は新たな方法で学生とのコミュニケーションを図っている。
授業は、日本語と英語を併用した。2022年度は外国人留学生のみだったが、実は日英の併用は学生の理解度向上に貢献しているという。「同じ内容を言語を変えて、2回説明することになるので、学生の理解がより深まると感じました。日本語だけ、英語だけより授業のスピードも多少ゆっくりになり、そういう意味でも日英併用は意味があると思います」。そもそもアジア圏からの留学生が多く、中には英語より日本語が得意な学生もいるため、両方の言語で説明することは必須だという。
「また授業の際には、基本的に学生側のカメラをオンにしてもらいました。学生の生の反応を見たいと考えたからです。学生の表情を見て理解度などを確認できるのは、リアルタイム配信ならではのよさですね」。授業の最後には質問タイムも設けたが、「たくさん人がいるとそこで質問をするのは恥ずかしいようで、後からメールで質問をする学生のほうが多かった印象です」。さらに、リアルタイム配信した授業データはWaseda Moodleにアップして、わからないことがあれば後から学生が確認できるようにした。
授業では、光工学の基礎知識を効率よく習得できるように、取り上げる話題や関連付けを工夫した。「『習得』とは、単に知識の記憶を指すことではないと考えています。学んだことを深く理解して、それを使って他のことを考えられることが重要です」。そのために高橋教授が意識したのは、「生活者の視点」で解説をすること。「たとえば、光現象は物理化学的な現象ですが、それをただ説明するのではなく、日常的に使っている長さの単位メートルは、光の速度により決められている等、『これって私たちの生活ではどのように役立っていますか?』のように、日常生活に関連付けて説明するようにしました」。また、自動運転で用いられるライダー技術(レーザー光を使ったリモートセンシング技術)のように、ニュースなどで触れられている光工学に関わる最新の話題も積極的に取り入れるようにした。学生授業アンケートの自由記述では、「面白かった」という声も寄せられていて、高橋教授の授業の工夫が評価につながったことがうかがえる。
具体的な復習の指示⇒3回のレポート課題で、基礎力を定着させて応用力も高められる
授業後は、学んだ知識の定着を目指して学生に復習を促した。シラバスには「30~60分くらい」と、具体的な復習の目安時間も記載した。「ただし、復習の内容を提出させるようなことは、特にはしていません。そこは自主性に任せていますね。この科目は、図を描いて数式を立てて解くというのが基本ですが、授業ではすべて解説できない部分もあるので、『復習の際には、こういう風に解いていくといいですよ』と、解き方のポイントを伝えるようにしました」。
提出させなくてもしっかり復習ができていることは、学生に課しているレポート課題の内容を見ればわかると高橋教授。「光工学」ではテストは行わず、全3回のレポートと平常点で成績を評価している。レポートは授業中に課題を発表し、1~2週間の間にWaseda Moodleにアップしてもらう。「レポート課題は、基礎知識の理解を確認して、応用力を深めることが目的です。講義で説明した基礎的な内容を組み合わせて、応用問題を解いてもらっています」。そして、「レポートではみんなきちんとできていると感じました」。
理解度の確認と学生とのコミュニケーションのために、ショートクエスチョンを新規導入
2022年度秋学期を最後に、「光工学」は科目自体が廃止になった。そのため、2022年度の授業で課題だと感じた点を、同じ科目で改善することは残念ながらできない。しかし高橋教授は、2023年度春学期に担当している別の科目で、改善策を試しているという。「学生数が多い授業で、個々の学生の理解度を確認すると共に、学生とのコミュニケーションを図るための新たな試みをしています。具体的には、講義中に2回、ショートクエスチョンを取り入れるようにしました」。
人数が多いと一人ひとりにコメントをもらうのは難しいため、選択制で答えられる問いを投げかけて、「①~④の中で正解だと思うものに挙手」といった方法で確認しているという。正解が多ければ、大体の学生が理解していることがわかる。「2023年度春学期は対面で授業をしているので、学生たちは教室で手を挙げることになります。ただ、他に人がいるのが恥ずかしいのか、挙手をしない学生もいます。まだ改善の余地はあるようです」。
ちなみに、2023年度は対面授業になったが、高橋教授はオンライン授業より対面が必ずよいとは一概に言えないと考えている。「もちろん、対面のよさはありますが、学生の利便性という意味ではオンライン授業にもメリットがあります。また、オンライン授業でも他の人の意見は聞けますし、逆に対面だと恥ずかしがってしまう学生もいます。対面でもオンラインでも、うまく学生のモチベーションを上げることが最重要だと考えています」。