Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

オリジナルテキストの活用と、Moodleでの課題提出により、学生が各自のペースで学習することが可能に

2022年度秋学期早稲田ティーチングアワード
総長賞受賞
対象科目:代数学序論

受賞者:永井 保成

 

 

数学のなかでも抽象度が高い「代数学序論」。よくある市販の教科書を指定しても、どのように勉強して良いかペースをつかめない学生が多いと永井教授は感じていた。そこで以前からオリジナルテキストを活用。講義ではテキストに沿って解説をする形にした。また、オンライン授業になったのを機に、課題をMoodle上で提出するようにした。このことにより、学生たちが最後まで課題に取り組んで提出するようになり、学習効果の向上に結び付いた。

抽象的な概念を、学生が無理なく学習できるよう工夫したオリジナルテキストを活用

「代数学序論」は代数学数学の主要分野である代数・幾何・解析のうち代数学の現代的扱いの基礎を学ぶ科目である。数学科二年次の通年専門必修科目で、数学科以外の学生も選択するため履修人数は80名程度である。一年次で学ぶ計算主体の数学とは異なり、非常に抽象的な概念を学ぶ内容なので、学生にとって習得するのは容易ではない。そこで永井教授は講義においてさまざまな工夫を施し、特に各学生が自分のペースで学ぶことができるように配慮した。結果として、学習効果が高まっただけでなく、学生からも非常に高い評価を得た。

永井教授は2011年から早稲田大学で教鞭を取っている。当初は簡単なレジュメを配布していたが、3、4年目頃からオリジナルテキスト冊子を配布することにした。2020年以降オンライン講義に移行した期間はPDFテキストに変更した。2022年秋学期は、例外的にZoomで授業をした場合以外は、教場での講義に戻っており、教授は教場で学生の方を向いて、タブレットを使い、背後のプロジェクターにスライドを映し,そこに細かな議論を板書さながらに書き込む方法で講義をした。「この科目で扱うものは抽象度が高いので、画面上に一気に説明が書いてあるものを見せると、学生は嫌になってしまうんですね。そこで、例えば、ある命題を学習する回だとして、命題の内容だけを記し,残りは空白スライドを用意します。講義では,余白部分に私がタブレットに説明や証明を書き入れながら解説していきます。学生は、今理解しなければいけないことに集中し,理解に必要な手順を時系列で体験できます。ノートを取れば、それを自分で紙に書く作業を通じて、再確認できるという利点もあります」

教える側としても、この形式での講義には利点が多かった。「プロジェクターを使うと、学生の方を向いて話せるんです。従来のように板書すると、学生の方に顔を向ける時間が少なくなってしまいがちなのですが、タブレットだと顔を上げればすぐ学生たちの様子が見えるので、学生たちがどんな顔をして聞いているのかよく見えるようになりました」

講義の様子は録画して、特に編集などはせずMoodleで復習用に配信した。学生はそれぞれのペースに合わせて視聴できる。人によっては1.5倍速で見たり,わからない部分を繰り返し見たりしている様子だという。「従来の授業の良さも残しつつ、オンラインで学習することによる利点も取り入れることができました」

提出課題をMoodle上で受け付けたことが学習効果の向上につながった

学生たちには毎回課題が与えられ、二週間後の授業までに提出することが求められる。好きな時間に自分のペースで課題をこなすことで、無理なく学習に取り組める仕組みだ。提出時はPDFでMoodle上にアップすることになっている。ワープロソフトでは数式を入力するのが大変なので手書きで作成したものをスキャンして提出することを勧めている。提出物のチェックはTAが行った。「この講義の内容は抽象度が高いので、『問題を解け』と言われてもどうしたらいいかわからない学生が多いんです。そこで、毎回講義の最後にちょっとしたヒントを与えています」

コロナ禍でオンラインに移行する前に行っていた授業時間中の問題演習と比較すると、オンラインで行っている提出課題の方が学習効果が高まったと、永井教授は考えている。「以前は、ヒントを与えたあと『じゃあやってみて』と言うと、手が止まってしまう学生がいました。ヒントだけを写して、提出して帰る者も多かった。しかし、Moodleで提出するとなると『とにかくなんでもいいから最後まで答案を作らなきゃ』という気持ちになるようです。今後もこの方法は続けていくつもりです」

成績評価は平常点評価30%、レポート(試験)70%とした。2022年秋学期は、試験はオンラインで行った。一限の授業だったので、試験当日の8時55分に試験問題がMoodleにアップされ、10時25分までに回答するという形式だった。「一時間半、一生懸命やれば、学生の力量が反映された答案が出てくると思います。2023年度は教場での試験に戻していますが」

いろいろな立場の学生がいる。彼らに寄り添った形で授業をすることを心がけていきたい

学生授業評価アンケートの自由回答欄に、「タブレットを使って、何も書いてないところに、ちょっとずつ丁寧に証明を書き込んでいってそれを見ながら勉強していくと、本を読むのとは違って隅々までよくわかった」という趣旨のコメントがあった。授業時間には、ライブのように数学の議論を追体験することに集中してほしいという永井教授の意図が、学生によく伝わった例と言えるだろう。

「数学を学ぶ学生は、この科目だけ勉強しているわけではなく、ほかにも学ぶことはたくさんあります。いろいろな立場で学習する学生がいます。それをふまえて、なるべく授業への参加態度のあり方には幅を持たせて、学生に寄り添った形で授業をすることを心がけています。学生にかかる負荷を大きくしすぎないよう配慮すると同時に、もっと学びたい、より突っ込んだことを聞きたいという学生の話は丁寧に聞くようにしています。毎回授業の最後の時間に質問の時間を取っているのですが、自分では質問をしないけれど、他の学生が質問する様子をただ聞いている学生もいます。それでもいいと思います。学生たちには、私の担当する授業以外のことでも,あるいは極端なことを言えば大学の授業でなくても、これがおもしろいなと思うことを見つけて、一生懸命打ち込んでほしいと思っています」

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