2020年度秋学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:パワー半導体デバイス
受賞者:犬石 昌秀
北九州キャンパスの情報生産システム研究科で、修士1年生以上を対象とする「パワー半導体デバイス」。
テーマは大容量の電力変換などを扱うパワー半導体デバイスだが、担当する犬石教授には、
半導体の基礎から理解しなければ応用には結びつかないという信念がある。
そこで、授業内で基本の重要性を繰り返し伝えると共に、毎週の演習課題で学生の理解度を確認。
翌週の授業で、補足説明や補足資料を用意するなど丁寧な指導を心がけている。
進捗スピードの調整など、オンラインでも着実に学べる授業を工夫。現地参加の留学生にも配慮
北九州キャンパスの情報生産システム研究科では、東アジアを中心に多くの留学生が学ぶ。「パワー半導体デバイス」も同様で、2020年度秋学期は履修者33名中、30名が中国人留学生だった。その全員がコロナ禍で来日できず、現地からオンラインで授業に参加した。その中には、犬石教授の研究室に所属する5名の学生もいたという。「『オンラインでどう教えていくのか』が、2020年度秋学期の最大の課題でした」と犬石教授は振り返る。特に、研究室所属の学生については、今後の研究につながっていく授業にしなければと考えたそうだ。
授業は、学生の反応を直に見られるリアルタイム配信形式を選択した。オンラインでも対面と同じように伝わるのか不明な部分もあり、「授業の進捗スピードは、例年より緩やかにしました。例えば、毎年12章分進んでいるところを、2020年度秋学期は11章分にするというように内容を若干絞り、とにかく理解してもらうことに力点を置きました」。対面の授業では犬石教授はやや早口だというが、オンラインではなるべくゆっくり話すように意識した。
また、シラバスでは使用言語を「日英併用」としているが、2020年度秋学期の授業は「英語のみ」とした。理由は、中国人留学生の多くが秋入学で、春入学の学生に比べると日本語が不得手だからだという。「英語と日本語の両方で説明すると、オンラインでは時間が足りなくなるのではと考えました。英語のみの授業で、2名の日本人学生は少し大変だったかもしれませんが、英語の勉強にもなったようで、特に困ったという声はありませんでした」。
半導体の理論を基礎から理解してもらうための、授業⇒演習問題⇒添削⇒補足の流れ
一方、授業の根幹に関わる部分は、オンライン授業になっても対面のときとまったく変えていない。犬石教授が授業でもっとも重視しているのは、パワー半導体を基礎から理解するということだ。かつては半導体メーカーに勤務し、新人教育を担当することもあった犬石教授は、当時の経験から「基本を理解していなければ、応用には進めない」ことを実感していた。
「学部時代に半導体を学んだ学生も3割程度はいますが、深く掘り下げるところまではやっていなかったり、情報系やソフトウェア系の学生の場合はこれまで半導体をまったく学んでこなかったりと、どちらにしても基礎からしっかり学ぶ必要がありました。そこで、授業の各章で基礎や基本的な考え方を説明すると共に、その基礎を学ぶことがどのように応用につながるのかを、繰り返し説明しました」
授業では各回の内容について解説し、授業後には毎回、演習問題を課した。提出された答案は犬石教授が採点し、一人ひとりに対して添削をした上で返送。採点・添削の中で学生の理解度をチェックし、理解の足りないところを把握し、次回の授業の冒頭では説明を追加したり、補足資料を用意するなどして、わからないことをそのままにしないようにした。採点や添削には毎回7時間程度を要するというが、「答案を添削されると、きちんと見てくれていると感じるでしょうし、学生のモチベーションにもつながるので大切だと思っています」。
また、授業中も「一方通行」にならないように、ビデオは常にオンの状態にさせて、折に触れて質問を投げかけ、挙手あるいは指名によって学生に答えさせるようにした。「オンラインでも顔を見ていれば、表情から理解できているかどうかがわかるので、スムーズに授業を進めることができました」。
基礎から応用を意識させた授業が、高い評価につながった。今後も学生の熱意に応えたい
前述のとおり、半導体の知識について学生のバックグラウンドは多様だったが、授業や演習課題を通して基礎から学ぶことで、どの学生もどんどん力を付けていったそうだ。「演習問題を解くと理解が深まることは学生も実感していたようで、過去には『もっと演習問題を解かせてください』と言われたこともありました。また、演習課題はシラバスで評価の対象にすると明記しているので、学生にとってはそれも一つの学習のモチベーションになったかもしれません」。
さまざまな工夫により、「パワー半導体デバイス」の授業は、学生授業アンケートの5項目すべてで高く評価され、特に「この授業の内容をよく理解できましたか」「総合的に見てこの授業は有意義だった」の2項目については、5.84点(6点満点)の高評価を得た。その理由について犬石教授は、次のように推測する。「演習問題で力を付けられたことに加えて、やはり習っている基礎的な内容が、社会でどのように役立つのかを繰り返し聞いて、目的を意識できたこともよかったのではないでしょうか」。
2016年度秋学期からこの科目を担当している犬石先生だが、学生の理解が足りなかった部分については、毎年教材を改訂したり、演習問題の内容を見直している。今後も、この見直しは続けていくつもりだという。「授業をしていると、毎年何かしらアイデアが出てくるからです。どの学生はみんな真剣に授業に取り組んでいるので、学生の『理解したい』という熱意にはこれからも応えていきたいですね」。