Center for Higher Education Studies早稲田大学 大学総合研究センター

授業動画を作り込み、「質」の高いオンデマンド授業を提供。
毎回のレポート実施で、学生の意見も反映できた

2021年度春学期ティーチングアワード総長賞受賞
対象科目:サブカルチャー論
受賞者:千田 洋幸

日本のアニメ作品を通じて、歴史や文化、社会などを考察する「サブカルチャー論」。

担当する千田洋幸先生は、学生に人気の高い「アニメ」を扱うからこそ、

「楽しさ」や「面白さ」だけで終わらないように授業の構成などを工夫した。

また、フルオンデマンド授業でも学生の意見を取り入れる工夫もしたことなどにより、

2021年度春学期のティーチングアワードの学生授業アンケートでは、

理工3学部の科目の中でもっとも高い評価を受けた。

「楽しかった」だけで終わらないように、作品の選定や構成、参考文献などを十分に検討

理工3学部では2021年度春学期に初めて科目を設置した「サブカルチャー論」。しかし、過去には教育学部や他大学でも同様の科目を教えていて、アニメを取り上げることもあり常に高い人気だったそうだ。今回も、定員100名に対して200名の履修希望者がいるという人気ぶりで、やむなく抽選で人数を絞ったという。

「履修者にはアニメ好きの学生が多く、モチベーションは最初から高い。学生の関心を引くための苦労は、この授業の場合にはありません」と千田先生は語る。「ただし、学生がアニメを見て楽しかったという感想だけで終わっては困ります。そこで、授業の目的が『アニメを媒体として日本の歴史や社会、文化を考察すること』である点は、初回の冒頭にまず伝えました」。

授業の目的を達成できるように、15回の授業の構成や取り上げるアニメ作品は十分に検討したという。前半8回については1970年代以前~2010年代まで、歴史的な流れを順に追うようにした。「各年代を代表する、あるいは論ずるに足るような作品を選び、内容と表現を考察しつつ、その時代の社会や文化などにも言及しました。一方、後半の7回分では、身体性の問題やポリティカルコレクトネス、災害といった比較的新しいトピックを扱いました。たとえば災害との関係であれば、作品でいうと『君の名は。』や『シン・ゴジラ』などです。15回を通して、日本のサブカルチャーの大きな見取り図を描けるように配慮しました」。

また各回の授業では、アニメ作品だけでなく関わりのある文献なども紹介した。「アニメ研究は、まだ体系的な学問として確立しているとは言えません。文学研究や社会学といったさまざまな学問の知見を取り入れることで、アニメを学問の対象に高めることが可能になります。授業では、どのような文献や理論を用いればいいのかについても解説し、アニメから文化・社会を読み解く力を養うことに努めました」。

授業の「質」を最優先して、リアルタイム配信ではなくフルオンデマンド授業を選択

これまで、同様の科目を担当した際には対面授業だったという。「授業では、毎回15~20分程度のアニメの動画を引用して、それを見た上で解説や考察をしていきます。学生の生の反応を見たいので、本当は対面授業が望ましいと考えています」。しかし、コロナ禍で2021年度春学期はオンライン授業に。学生の反応を見るならリアルタイム配信のほうが適していそうだが、千田先生はフルオンデマンドの授業を選択した。

「確かにオンデマンドでは学生の反応は見られませんし、学生同士のディスカッションもできません。ただ、オンライン初年度ということで、まずはオンラインでの授業の完成度を上げることを最優先としました」。事前に配布するレジュメ、授業内で引用するアニメ作品の映像などをしっかりと準備して、大きなモニターに表示させながら解説するスタイルを取った。途中でアニメ映像を流す時間などもあるため、細切れにはせず90分の授業を1本の動画に仕上げたという。

フルオンデマンド授業だったが、教員が一方的に授業を進めるだけにならない工夫も施した。毎回、授業後に数百文字程度のレポートを全員に課し、Waseda Moodle経由で提出された感想や意見、質問などに耳を傾けた。「もっと声を張って話してほしい、あの作品のあのシーンを見たかったといった要望もあれば、資料に関する質問もありました。また、取り上げたアニメ作品に対する学生の反応もレポートで確かめていました。重要な質問などは、次の回で回答する場合もあるため、毎回レポートを読んでから次回の授業動画を収録していました」。

授業後のレポート共有や全員アンケートの実施で、学生がお互いの考えを知る機会を創出

授業では、毎回ではないが学生がお互いの意見や考えを知る機会も設けた。具体的には、『新世紀エヴァンゲリオン』を取り上げた回の後に少し長めのアンケートを書いてもらい、それを全員が見られる場所にアップしたという。また、フェミニズムや性に関わる内容を取り上げた回では、セクシュアルな要素を含んだアニメキャラクターや現代美術作品など、さまざまな作品、コンテンツについて、「性差別である(アウト)」「性差別ではない(セーフ)」「どちらとも言えない(イエローカード)」の3択で答えさせるというアンケートを取り、全員でその結果を確認した。

「ただ、学生同士が直接コミュニケーションを取る機会は設けませんでした。そこまで手が回らなかったというのもありますが、1回くらいはリアルタイム配信で1つの作品について議論するような時間を作れたらよかったと思っています。学生からも、『もっと交流する時間があればよかった』という要望が寄せられました」

次年度は、学生ともっとコミュニケーションを取る工夫をしていきたいと千田先生。過去の対面授業では、ツイッターで「#木3限サブカル論」といったハッシュタグを用意して、学生は授業中でも意見や感想をつぶやいてよいとしたことがあったという。

「とても盛り上がりましたが、これは同時に授業を受けていてみんなが同じときにつぶやくからで、フルオンデマンドの授業では難しい。とは言え、オンデマンドでもSNSを活用する余地はありそうだと思っています。また、ニコニコ動画のように教員の講義映像の上にコメントを付けられるツールもあります。オンデマンド授業の質を上げる部分についてはだいぶわかってきたので、次年度はコミュニニケーションの部分も含めて、もっと何ができるのかをいろいろ検討していきたいですね」。

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