秋学期の始まりを迎え、就職活動や将来について考える早大生も多くなっているのではないでしょうか。今までの生活を振り返ったり、自身を振り返ったりと、不安を持っている人も多いかもしれません。
しかし、人生や働き方の多様化が進む昨今、大学での発見が思わぬ形で働き方につながったり、新たな自己像の形成に役立ったりすることもあります。本企画は、新たなキャリアの可能性を探ってみようという思いで始まりました。
今回は、佐藤真結さん (2017年国際教養学部卒)にお話を伺いました。早稲田大学卒業後に医学部に進学し、文系から医師というキャリアを選択された佐藤さん。医学の道に興味のある方や、これから新たな一歩を踏み出そうとしている早大生の皆さん、必見です。
どのような経緯で医師を志したのでしょうか?
医療系の職種についている家族が多く、私自身長年通院していたこともあり、医学は身近な存在でした。大学受験では医学部進学も選択肢の1つとなっていましたが、英語で生命進化について学びたいと思いSILSに入学しました。医学に対するアプローチとしては、臨床面だけではなく研究面からもあると思っていました。そのため、大学3年時に大学院進学等について考えていたとき、医学部に入って生命の根幹について勉強するのも面白いかもと思い、医学部進学を志しました。志した矢先、祖母が末期がんと診断されたことや、海外旅行中、飛行機の中で医師である父が患者さんを助ける姿を目にしたことなどをきっかけに、臨床医を目指すようになりました。
↑佐藤さんの仕事の相棒たち。研修医生活で必須のステート(聴診器)、アイゴーグル、パソコン
医学部進学という新たな挑戦を目の前に、どのような準備をされたのですか?
3年生の夏から受験勉強を始めました。最初は学士編入での入学を考えていました。ただ、(編入と一般の)どちらに転んでもいいように、大学レベルの勉強と一般試験のための勉強をしていました。大学3年生の時に模試や医学部の一般入試を受けたり、大学4年生で編入試験を受けたりしたのですが、私の場合は大学では物理や数学を本格的に勉強していなかったので、このまま学士編入を目指すのは難しいかもしれないと思いました。それであれば、高校生の皆さんと肩を並べて一般入試で入学した方が早いなと思い、大学4年生の夏からは完全に一般入試の勉強に舵を切りました。
(文系ではなく)理系というこれまでマナでいたのとは異なる分野で、6年間の大学生活が新たに始まることへの不安や焦りはありましたか?
そうですね、まず新しい勉強を始めることについてはそんなに不安はなかったです。英語は得意でしたし、理系の科目も苦手ではなかったので、医学部に入ってからのことはあまり心配していませんでした。確かに6年間という期間はかかるのですが、「大学を卒業してから研究の道に進んだらこのぐらいは勉強しているだろうな」と元々思っていたので、焦りもありませんでした。また、両親からは「好きなことはなんでもやっていいけど、30歳までには道が決まっているようにしなさいね」と言われていて。そうすると、24歳までに入学していれば間に合うなと思っていました(笑)。
現在研修医として勤務し、佐藤さんよりも前に医学部に入学していた同年代の方と関わる中で、不安や焦りを感じることはありますか。
同年代でも、私よりもキャリアが上の先生ということはよくあります。医学部は年齢にバラエティーがある学部ですし、何浪もして入っていらっしゃる方もいるので、そんなに不安に思わなかったですね。 確かに経験の差を感じることはありますが、人の価値はそれだけでは決まらないと思っています。また、早稲田には「稲門医会」という組織があります。早稲田大学在学中や卒業後に医学部や薬学部、看護学部に進んだ方々とお話しすると、私のような進路を選んだのは私一人ではないということがよく分かり、そんなに焦りは感じませんでした。むしろ早稲田でバックグラウンドの異なる人と関わったり、政治経済や国際情勢などを学んだりしてきたことが、患者さんのよりよい理解につながるかなと今は思っています。 実は、早稲田からは文系学部出身の医学部進学者も多いです。私にとって早稲田大学での4年間は遠回りではなくて、財産になりました。
早稲田大学在学中にどのようなことに取り組まれていましたか?
理系科目以外にも、GECの副専攻で環境学を学んだり、コンセントレーション制度で言語学を履修したりするなど、分野をまたいで授業を履修していました。また、当時は教師になることも目指していたため、途中まで教職課程の科目も履修していました。英語にも興味があり得意だったため、英語の先生をしながらライフワークとして研究をする道も残しておきたいと思ったからです。 他にも、主に生命進化学に関する外部の講演会やシンポジウムに参加したり、MOOCs(大規模公開オンライン講座)と呼ばれるシステムを使って海外大学のオープン講座を受講したりしていました。
これまで様々なことに挑戦されてきた佐藤さんだからこそ、早稲田大学在学中にやっておいてよかったと思うことはありますか?
まずは、歴史や政治、文化をはじめとする人文系の授業を履修したことです。医学生時代、海外臨床実習でハワイに渡った際には、早稲田の授業で得たアメリカ政治や戦争に関する知識、多文化への理解が役立ちました。また、GEC設置科目やSILSの授業で他学部の学生とディベートやディスカッション、プレゼンテーションの経験を積んだことも、やってよかったことの1つです。早稲田大学は多様なバックグラウンドをもつ学生も多く、自分とは異なる価値観を学んだり、視野を広げたりすることができます。医学部入試では,筆記試験の他に小論文や面接、ディスカッションによる選考が行われることも多いのですが、私は心配なく取り組むことができました。また、入学後や研修医になってからもディスカッションやプレゼンテーションをする機会があり、学んだことが役立っています。本当にどこで何が役立つか分からないです。楽な授業はタイムマネジメントとして有効ですが、それを取りつつも自分の興味の湧いた分野に飛び込むことが大事だと思います。
様々なことに挑戦する際に意識されていることはありますか?
興味があるならまずはやってみようというような意識でいます。ただ、何でもかんでも挑戦するのではなく、ある程度将来のビジョンを見据えてから足を踏み入れるようにしています。例えば、医学部だったら今入学したら30歳までには医師になる資格が得られるなとか、教員免許を取っておいたら将来教師として働きながら研究もできるなという感じです。そして、やりきれなくてもそれで終わりではないと思っていました。そうなったら、またその時に違う道を考えればいいな、と。なので、一つモデルコースのようなものを自分の中では作っているんですけど、でも途中でそこから外れたからといって心配することはないなと思いながらやっていました。
↑趣味で弾いているヴァイオリンと楽譜。ピアノ譜をアレンジしたり耳コピをしたりして弾くことも。
新しいことに挑戦するうえで大切にしている考え方などはありますか?
新しいことに挑戦しようと特に意識している訳ではなく、せっかくチャンスがあるなら楽しんでやってみようと思っています。絶対に失敗してはいけない時を除けば、何か新しいことをする時に最初は出来なくて当然だと思います。まずは無駄になる経験はないと思って、そのチャンスをエンジョイすることが大切だと思います。本当につらいことであれば別ですが、やっているうちに面白くなることも多いです。
挑戦したいけど躊躇している、これから新たな一歩を踏み出そうとしている大学生にメッセージをお願いします。
まずはやってみないと上手くいくか分かりません。その道を選んだ自分を信じることが大事です。やってみて違うと思えば変えればいい。ある程度のところまで進むと、道を変えることには覚悟が必要ですが、自分の心の準備さえあれば、いつでも道は変えられると思います。人生に無駄な時間なんてないです。新しい道に進んだからと言って、これまでの積み重ねがなくなるわけではないと思います。思わぬところで自分の強みになったり助けられたりすることもあります。なので、皆さんには悔いの残らぬ選択をしてほしいと思います。そして、早稲田大学の卒業生には多様な道で活躍されている方がたくさんいらっしゃいます。早稲田で学んだ誇りを胸に、頼りになる同窓生がたくさんいること、一人じゃないことを忘れずに頑張ってほしいです。
↑久しぶりに馬と触れ合った際の様子。医学部在学中は馬術部に所属。
【ご参考】
稲門医会とは?
早稲田大学出身の医師・歯科医師・薬剤師・看護師・公認心理師を正会員とする早稲田大学校友会の一つ。会員同士の親睦・交流会だけではなく、医療に関する社会への情報発信、健康分野における研究・教育面での大学との連携、地域稲門会・学生・校友との連携など、様々な観点からの活動を展開している。異分野を知る医療従事者として、本会会員は日本に・世界に向けて常にアンテナを張り、発信し続けている。
Instagram:https://www.instagram.com/tomon_med/
HP:http://tomonmed.com/
【インタビュー感想】
経験の差を感じても,人の価値はそれだけでは決まらないという佐藤さんの考え方がとても印象的でした。将来私が何か新しいことに挑戦する際,他者と比較して劣等感を感じることがあるかもしれません。その時に,「きっとどこかで自分の強みを生かせる場所がある」と考えられる広い視野,自分を信じる力を持たせていただいたように感じました。これらを糧にし,今後も様々なことに臆せず挑戦していきたいです。SCV4年 村上愛佳
佐藤さんの、「無駄になる経験はない」という言葉に背中を押されました。私自身の大学生活を振り返ると、忙しさや失敗する可能性を言い訳にして挑戦を諦めてしまうことが多々ありました。しかし、臆さずに様々なことに挑戦してきた佐藤さんからこの言葉を聞いたとき、新しいことを始めるハードルが下がり、前向きな気持ちになりました。また、佐藤さんの考え方だけでなく、学業への取り組み方にも大変刺激を受けました。残りの大学生活を悔いなく過ごすために、自分のやりたいことに全力で向き合っていきたいです。SCV3年 川本優梨子