Admissions Center早稲田大学 入学センター

News

ニュース

【Global Leaderに聞く】
小川 洋子さん(作家)

読書を通して国境を軽々と越え
広い世界を知る最初の足がかりに

OG_ogawa

早稲田での日々が作家人生の原点

子どもの頃から本が好きで、学校の図書室は私にとって最も自由になれる場所でした。自分でも書きたいという気持ちがいつしか自然に芽生え、小説を書くことを学びたくて早稲田に入りました。3年生になると小説家でもあった故・平岡篤頼先生のもとで学び、課題とは別に短編を書いては先生の研究室へ持って行くことを繰り返していました。先生はいつも、同じ「書く者」の視線で丁寧に目を通してくださいました。今思えば、自分の若さゆえの図々しさに恥ずかしくなりますが、その図々しさが小説を書くエネルギーでもあったと思います。
多種多様な学生で混沌としたキャンパスには、人の目を気にせずに好きなことに打ち込める自由さがあり、そこに早稲田の「懐の深さ」を感じました。一方で、人が大勢いることで同じ趣味嗜好を持つ人も見つけやすく、所属していたサークル「現代文学会」では時間を忘れて語り合うこともよくありました。多くの人と出会い、文学に触れる喜びや尊さを知った早稲田での日々は、小説を書き続ける私の人生の原点と言えます。

書くことの意味を、物語に教えられる瞬間

あの頃、小説を書くことは難しいと感じていましたが、30年以上が経って、難しさは増すばかりです。経験を重ねるほど、目的に向かう道筋も増えて迷いが大きくなるのは、どんな仕事も同じかもしれません。今も新しい作品を書くたび、暗闇の中をさまよう時間が続きます。それでも一行また一行と書き進めるうちに、行き先をぼんやりと照らす光がどこからともなく差し、「この物語を書く意味は、そういうことだったのか」と感じる瞬間があります。これは作者にしか味わえない幸福です。
私の場合、小説の題材との出会いはいつも偶然で、普段から意識して探すことはありませんが、例えば何か対談の企画がある場合、できるだけ文学とは遠い世界で活躍している方をリクエストするようにしています。全く違う分野の話でも、必ずと言っていいほど、小説に還ってくるものがあり、それぞれを深く掘り下げていくと根本のところで人間の問題に通じる。そこに面白さを感じます。

人生を豊かにするための礎の時間を

「知の集積に触れられる」ということ以外に、私がみなさんに本を読んでほしいと思う理由が二つあります。一つは、コミュニケーションの機会を増やすことにつながるからです。見ず知らずの人とも、あるいは多少ウマが合わない人とも、同じ本を読んだ経験さえあれば、大いに語り合うことが可能になるはずです。二つ目は、本を読むことは、国境を最も容易に越える手段となるからです。外国文学を読むことで、実際には訪れるのが難しい遠くの国々に瞬時に行くことができ、世界にはいろいろな人が生きていること、国が違っても変わらない人間の普遍的な営みがあることを知るきっかけになるでしょう。世界に触れる最初の一歩として、文学を活用してほしいですね。
読書にしても授業にしても、「専門とは違うから」「興味がないから」と切り捨てず、むしろ興味とはかけ離れている分野にこそ足を踏み入れてみてください。一見、役に立ちそうもないこと、知ったところで何の得になるか分からないようなことが、実はその人の人生を豊かに形づくる礎となるのだと思います。


小川 洋子
作家

Profile
岡山県出身。1984年、早稲田大学第一文学部(当時)文芸専修卒業。88年『揚羽蝶が壊れる時』で第7回海燕新人文学賞を受賞し作家デビュー。90年『妊娠カレンダー』で第104回芥川賞受賞。主な著書に『博士の愛した数式』(04年、第55回読売文学賞、第1回本屋大賞)、『ブラフマンの埋葬』(04年、第32回泉鏡花文学賞)、『ミーナの行進』(06年、第42回谷崎潤一郎賞)、『ことり』(13年、第63回芸術選奨文部科学大臣賞)など。現在、芥川賞、読売文学賞の選考委員を務める。

※掲載情報は2014年度内の取材当時のものです。

Related Articles 関連記事

Page Top
WASEDA University

早稲田大学オフィシャルサイト(https://www.waseda.jp/inst/admission/)は、以下のWebブラウザでご覧いただくことを推奨いたします。

推奨環境以外でのご利用や、推奨環境であっても設定によっては、ご利用できない場合や正しく表示されない場合がございます。より快適にご利用いただくため、お使いのブラウザを最新版に更新してご覧ください。

このままご覧いただく方は、「このまま進む」ボタンをクリックし、次ページに進んでください。

このまま進む

対応ブラウザについて

閉じる