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筋萎縮性側索硬化症(ALS)においても運動昇圧反射は残存する
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- Thu, 04 Jun 2026
概要/Abstract
受動的に手首を屈曲させると健常者では血圧は上昇し,これを運動昇圧反射と呼びます.本研究では、ALS患者でも運動昇圧反射が観察されました。この結果はALS患者における運動昇圧反射に関連する感覚神経および自律神経の機能の残存を示すものです。
これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)/Research Background
運動時には、神経およびホルモンの影響で血圧が上昇します。神経の要因の1つに活動筋の機械的刺激に反応する筋機械受容器反射があります。筋機械受容器反射は、動物および健常者を対象にした研究で昇圧応答が確認されています。
先行研究では、下肢よりも上肢での運動の方がより大きな昇圧応答を示すことが報告されています(Hayashi et al. 2001)。ヒトの筋機械受容器反射による血圧の上昇を同定する手法としては、前腕に痛みを感じない強度での受動的な手首の背屈が提案されています (Nakamura et al. 2023)。運動昇圧反射は感覚神経および自律神経の機能の関与があって成り立ちます。健常者では昇圧応答がみられますが、例えば神経変性疾患の1つである筋萎縮性側索硬化症(以下ALS)の患者では不明でした。
ALSは運動神経の進行性喪失を特徴とする神経変性疾患です。筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる運動神経が障害を受けるため、病状の進行に伴って全身の筋力低下が起こります。
今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと/Findings
本研究の目的は運動昇圧反射を引き起こす神経機能がALS患者においても残存するかを確認することでした。人工呼吸器を装着した後期ALS患者7名を対象に、痛みを感じない強度で手首のストレッチを実施し、昇圧応答が引き起こされるかどうかを調べました。その結果、手首のストレッチで、心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧および、平均血圧が有意に上昇しました(p<0.05)。
そのために新しく開発した手法/Methods developed
ALS患者の人たちでは筋力低下がみられるので,自発的な運動に伴う生理応答を観察することは困難です.そこで,本研究では受動的な運動に伴う応答観察するとともに,感覚神経と自律神経の残存について検討することとしました.
研究の波及効果や社会的影響/Research implications to the society
後期ALS患者の生理学的知見はわずかです。後期ALS患者においても、運動昇圧反射に関与する感覚神経および自律神経機能の一部が残存していることは、ALS患者の循環系機能,自律神経機能の理解やリハビリテーションへの応用に貢献できることが期待されます。
今後の課題/Future issues
本研究では,先行研究の若年健常者の運動昇圧反射と同程度の応答が得られたことから結論を導きました.研究対象者が少なく、健常者の対照群を設定できなかった点は今後の検討課題として残っています.
後期ALS患者の感覚神経や自律神経機能に関しては見解が一致しない点も多く,多くの点を解明する必要があります。
研究者のコメント/Researcher’s Comment
研究に参加頂いたALS疾患の患者の方々に感謝申し上げます.筋が動かなくなる難病にも関わらず,研究に貢献頂きました.こうした研究の積み重ねによって,疾患に伴う機能の特徴の理解が進み,リハビリテーションに応用できるような知見が増えれば幸いです.
スポーツ科学では,運動できる方々を対象とした研究がメインです.一方で,運動をできない方々についての理解が進むことを期待しています.
用語解説/Terminology
※1 筋萎縮性側索硬化症(ALS)
進行性神経筋疾患難病の1つです。1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり平均2.2人です。日本においては令和5年度の特定医療費(指定難病)医療受給者証所持者数によると9,727人がこの病気に罹患しており、徐々に増加しています。
※2 後期ALS
ALSの病状は進行とともに発症から数年で人工呼吸器の装着や経管栄養への移行が必要になります。人工呼吸器装着以降の病期について、後期ALSと表現しています。よって、後期ALS患者とは、本研究では人工呼吸器装着、経管栄養での栄養摂取、歩行不可、寝たきり、日常生活動作の全面介助が必要な患者を指します。
論文情報
雑誌名/Journal:Scientific Reports
論文名/Title:Exercise pressor reflex in Amyotrophic lateral sclerosis patients
執筆者名・所属機関名/Authors and Affiliated Organization:
Authors: Yuko Saeki¹, Nobuhiro Nakamura², Naoyuki Hayashi²
¹Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa, Saitama, Japan
²Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa, Saitama, Japan
Publishment Date(Local Time):09 March 2026
Publishment Date(Japan Time):09 March 2026
(オンライン掲載の場合/For online publication)
URL:Exercise pressor reflex in Amyotrophic lateral sclerosis patients | Scientific Reports
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-026-43367-1
林 直亨