先進理工学研究科・物理学及応用物理学専攻 博士課程の草場 竜之介さんが、2024年9月から2025年3月まで、Cotutelleプログラム(博士論文共同研究指導プログラム)の一環でピサ大学に留学しました。Vladimir Georgiev教授の指導の下、消散型波動方程式に関連する問題の研究に取り組みました。
1. 滞在場所
イタリア・ピサ、ピサ大学
2. 滞在期間
2024年9月から2025年3月
3. 主なホスト教授
Prof. Vladimir Georgiev (ピサ大学)
4. 派遣プログラムの内容・目的について
Cotutelleプログラム(博士論文共同研究指導プログラム)の一環でイタリアのピサ大学に留学し、Vladimir Georgiev教授の指導の下、消散型波動方程式に関連する問題の研究に取り組みました。
5. 研究活動・学習成果について
今回の滞在では、Georgiev先生と共同で中尾の問題の研究に取り組みました。中尾の問題とは、非線形消散型波動方程式と非線形波動方程式の連立系に対する解の時間大域的存在・非存在を隔てる臨界指数を決定する問題です。消散型波動方程式は、波動方程式と同じ双曲型に分類されるにもかかわらず、熱方程式に近い性質を持つことが知られています。熱方程式は放物型に分類され、その性質は双曲型と全く異なります。このことから、中尾の問題の解決は双曲型方程式が放物型の性質を獲得する機構の解明に繋がると期待されています。この問題に対する先行研究として、時間大域解の非存在に関する結果はいくつか存在します。実際、私も修士1年のときに、北海道大学の喜多航佑先生との共同で、解の有限時間爆発の研究に取り組みました。一方、時間大域解の存在に関しては先行研究がほとんどありません。近年、Georgiev先生と喜多先生は、空間3次元の場合に消散型波動方程式に対する解の時空間重み付き各点評価を導出し、その応用として中尾の問題に対する時間大域解の構成に成功しました。そこで本研究では、空間2次元の場合に焦点を当て、時空間重み付き各点評価を基礎とした中尾の問題に対する時間大域解の構成を目標にしました。研究はまだ完成していませんが、滞在中にいくつかの部分的な成果を得ることができました。
また、滞在中に研究発表する機会を2回いただきました。
Asymptotic expansions with optimal convergent rates for the convection-diffusion equation, Analysis Seminar, University of Pisa, November 21, 2024.
Commutation relations between the complex Ginzburg–Landau semigroup and monomial weights and their application, Workshop Dispersive Equations of Math Physics, University of Pisa, March 4, 2025.
特に、Workshop Dispersive Equations of Math Physicsでは、研究発表するだけでなく、世話人として研究集会を運営する機会をいただきました。このような貴重な機会を与えてくださったGeorgiev先生に改めてお礼を申し上げます。
6. 海外での経験について
ピサは北海道旭川市と大体同じ緯度ですが、冬は寒すぎず比較的生活しやすい環境でした。クリスマスの時期には街中がライトアップされており、川沿いの広場には大きなクリスマスツリーもありました。また、トスカーナ州の州都であるフィレンツェに行った際には、サンタ・クローチェ聖堂の前でクリスマス・マーケットが開催されており、ホットワインや豚の煮込み料理などが屋台形式で販売されていました。
7. 今後の進路等への影響、今後の目標等
今後もGeorgiev先生と中尾の問題の研究を継続し、消散型波動方程式の解析を通じた双曲型方程式と放物型方程式の間に潜む階層構造の解明に努めてまいります。また、多くの研究者と交流し、自身の研究に関する知識の幅と視野を広げていきたいです。
8. 謝辞
Cotutelleプログラムに参加し、イタリアのピサ大学に留学する機会を与えてくださった小澤先生とGeorgiev先生に深く感謝いたします。また、渡航に際する申請費等の補助をしていただいた早稲田大学SGU数物系科学拠点に厚くお礼申し上げます。