SGU数物系科学コースの特別講義として、柴田良弘教授(前数物系科学拠点長、基幹理工学部 数学科)により行われた“流体数学特別講義”の内容が下記のように書籍として発行されました。
![]() |
![]() |
『流体数学の基礎 上』ISBN 978-4-00-029858-2 『流体数学の基礎 下』ISBN 978-4-00-029859-9 岩波数学叢書、岩波書店、2022年11月11日発行 |
内容紹介
本書は、本拠点初代リーダー柴田良弘教授の「流体数学特別講義」に基づく専門書であり、非圧縮性粘性流体の運動を記述するナヴィエ・ストークス方程式の数学解析を解説したものである。特に、粘着境界条件の場合と自由境界問題についての厳密な取扱いが本書の特色である。その方法論は、1960年代にロシア学派によるストークス作用素に対する最大正則性原理を嚆矢とするが、その新時代を画する発展は、Jan PruessによるH∞-calculus理論および著者によるR有界性理論によってなされたものである。
上巻では関数空間、フーリエ変換、補間空間、半群理論など、偏微分方程式の解析の基礎を復習したのち、ストークス方程式における最大正則性原理をR有界性理論に基づいて解説している。実際、全空間、半空間、摂動半空間でのモデル問題に対する最大正則性原理を用いて、一般領域での最大正則性原理の証明を詳細に与えている。特に、非局所的な性質をもつ圧力項の局所化理論への帰着法が一つのハイライトであり、世界的にも類のない解説書となっている。
下巻はナヴィエ・ストークス方程式の導出、レイノルズの定理、表面張力を記述するラプラス・ベルトラミ作用素の導入から始まる。そして粘着境界条件に対する基礎理論としての加藤・藤田理論の詳細な解説へと続く。次に、一般領域の自由境界問題に関する時間局所解の一意存在定理が、ストークス作用素の最大正則性原理を用いて示されている。さらに、有界領域での表面張力付き問題と外部領域での表面張力を考慮しない場合の自由境界問題の時間大域解の一意存在と解の漸近挙動に関する一連の定理が与えられている。これらの証明にはストークス問題の減衰評価と最大正則性原理をいかに組み合わせるかという方法論が本質的であるが、そこに著者のオリジナルの考え方が多く含まれており、本書の特徴を際立たせている。上巻とともに下巻も独創的で充実した内容をもち、著者の熱意が伝わってくる。
ナヴィエ・ストークス方程式と同様に、時間発展を伴う非線形偏微分方程式は、数理物理の様々な問題に現れる。例えば、磁気流体力学、多成分流体、液晶などの領域の問題を記述する方程式も、同種のものである。本書の方法論は、数理物理に現れる放物型方程式系および放物型・双曲型混合型方程式系における初期値・境界値問題の未解決問題への挑戦の礎となるものである。
(小澤 徹/先進理工学部応用物理学科 教授)