数学応用数理専攻 博士課程の飯田 祥樹さんが、2024年4月から2024年7月まで、ダルムシュタット工科大学に留学しました。Matthias Hieber教授の指導の下でprimitive方程式の数学的研究に取り組みました。
1. 滞在場所
ドイツ・ダルムシュタット、ダルムシュタット工科大学
2. 滞在期間
2024年4月から2024年7月
3. 主なホスト教授
Prof. Dr. Matthias Hieber (ダルムシュタット工科大学)
4. 派遣プログラムの内容・目的について
私の研究テーマであるprimitive方程式の数学的研究を推進することを目的として、ドイツ・ダルムシュタット工科大学のMatthias Hieber教授を訪問しました。このprimitive方程式は、地球上の大気や海洋のような大規模な流体の運動を記述する非線形偏微分方程式系です。Hieber教授は、関数解析学の手法を用いた偏微分方程式に対する数学的研究の第一人者であり、primitive方程式の研究においても多くの研究成果を出版されています。今回の滞在は、昨年度の流体数学特別講義と国際ワークショップ:Recent Toppics on Mathematical Fluid Mechanicsをきっかけに実現しました。
5. 研究活動・学習成果について
現地では、Matthias Hieber教授、ポスドクのArnab Roy博士、及びHieber教授の学生のTarek Zöchling氏と共同で圧縮性primitive方程式系の一意可解性に関する研究を行いました。ここからは専門的な話になりますが、この方程式系は地球上の大気の運動を記述しており、質量保存則を表す連続の式、流体の水平方向の成分の運動量保存則、流体の静水圧平衡を表す式からなります。これを数学的により解きやすくするため、我々は(通常よく用いられるものとはやや異なる)Lagrange座標系を導入し、準線形方程式への書き換えを行いました。すると$L^p$-空間の枠組みで時間局所的な、また小さなデータに対して時間大域的な解の一意存在が言えることが分かりました。その応用として、大気と海洋の挙動をそれらの界面での相互作用を含めて記述するCAO (Coupled Atmosphere and Ocean) モデルの一意可解性についても考察しました。以上の研究内容について現地で議論を重ね、現在は論文の執筆作業中です。
また、Hieber教授のお誘いにより、滞在中にBad Boll(バートボル)という街で開催されたHerbert Amann先生の85歳を記念する研究集会「Nonlinear Analysis -A workshop in Celebration of Herbert Amann’s 85th Birthday」へ聴講参加する機会に恵まれました。流体数学を研究している人間ならば何度も耳にするような先生方の講演を聴くことができ大変有意義でした。
6. 海外での経験について
ダルムシュタットは、フランクフルト空港からバスで約30分で来られるとてもアクセスの良い街です。街中ではトラム(路面電車)とバスを使って移動ができ、いずれも本数が多く便利です。また食料品店がいくつもあり、私にとっては不自由なく生活できる環境でした。一方で、外食すると安くとも一食15~20ユーロくらいはかかってしまうので、昼食は研究グループのメンバーとMensa(メンザ)と呼ばれる学生食堂で摂ることがほとんどでした。
また滞在期間の最後の1ヶ月間は、4年に一度開催されるサッカーのヨーロッパ大会EURO2024が、滞在先のドイツで開催されていました。そのためこの時期は、ダルムシュタットの街中も例外なくその熱気に包まれていました。
7. 今後の進路等への影響、今後の目標等
今後もprimitive方程式や粘性流体の運動を記述するNavier-Stokes方程式をはじめ、流体の運動を記述する方程式の数学的研究を継続してまいりたいと思います。Hieber教授はじめ研究グループの皆様からは、先行研究や数学的手法についても多くのことをご教授くださりました。現地で教わった内容を積極的に活用してまいりたいと考えております。また、今回の共同研究が将来さらに発展すれば望外の喜びです。
8. 謝辞
本海外派遣の機会をくださったHieber教授と指導教員の小薗教授に心より御礼申し上げます。また、Hieber教授と早稲田大学SGU数物系科学拠点から旅費・滞在費の援助を頂きました。この場をお借りし、重ねて御礼申し上げます。また、今回の訪問を快く受け入れてくださったダルムシュタット工科大学数学科Analysis Groupの皆様に感謝申し上げます。
最後に、渡航に係る事務手続きについて、早稲田大学SGU数物系科学拠点の石崎由香利様、小薗研究室秘書のアジズ幸子様、ダルムシュタット工科大学のRenate Drießer様には大変お世話になりましたことに深く感謝申し上げます。