人間総合研究センター所長 外山 紀子
現代社会は数多くの困難で複雑な問題をかかえています。毎年のように平均気温は上昇し,「地球沸騰化」といわれるほど温暖化が進んでいます。21世紀になったいまでも戦争・紛争は絶えず,年齢や性別,障がい,出自などによる差別も一向に解消されません。経済格差は教育や健康の不平等を生み,多くの子どもが安心して安全に育つ環境を奪われています。人間総合研究センター(人総研)は,こうした諸問題の解決に資することをめざし,研究活動を展開しています。
人総研は人間科学部・人間科学研究科とともに人間科学学術院を構成していますが,人間科学学術院の研究・教育の特徴は学融合性にあります。先にあげた諸問題はどれも,ひとつの分野の知見だけでは解決できません。あらゆる分野の研究者が一丸となって,それぞれの先端的な知見を持ち寄り,協働してその解決に向けて取り組む必要があります。人総研に所属する研究者の専門分野は他に類をみないほど多岐にわたっており,この資源を最大限に活用すべく,研究プロジェクト方式で学融合的な研究活動を行っています。
人間科学学術院のもうひとつの特徴は社会との連携です。研究成果は社会に還元されることで大きな価値を生んでいきます。人総研では,学外機関からの受託研究・共同研究をすすめると共に,所沢キャンパスが位置する埼玉県所沢市をはじめ,全国のさまざまな地域との連携も積極的に行っています。
問題解決に資する研究というと,すぐに応用可能な研究成果が求められがちです。しかし,後に大きな価値を生む研究の多くは,研究者自身の純粋な興味と探究心によって駆動された基礎研究が出発点となっています。人総研は潜在的価値をもつこうした地道な研究を取りこぼすことなく,研究に取り組める環境をつくります。さらに近年,力をいれている研究支援活動のひとつに,次代を担う研究者の育成があります。研究力向上のためには,未来の研究を支える研究者の育成が不可欠です。学部学生が研究に興味をもち,研究してみたいと思えること,大学院生が将来の不安なく研究活動に打ち込めること,そしてアーリーキャリアの研究者が研究に対して高いモチベーションを保ち続けられること,これらはいずれも重要な課題です。人総研では,キャリア初期研究者が他分野の仲間と共に取り組む研究申請事業を立ち上げたり,研究助成金の申請書執筆レクチャーを開催したりといった具体的取り組みを通して,人類の未来を担う研究者の育成につとめています。
専門分野という枠,大学という枠を超え,複雑化する社会の要請に優れた研究で応えていくことが人総研の使命です。これを果たすべく,研鑽を重ねてまいります。
(2024年9月24日)