異世界を創った担い手たち #4 「設計事務所と職人をつなぐ――リノベーションのエピソードを聞く(外観編)」
2021.06.17
- 文学・芸術
設計事務所と職人をつなぐ――リノベーションのエピソードを聞く(外観編)
5月のある日、国際文学館(村上春樹ライブラリー)の建設に携わった丹野 賢一さん(熊谷組 首都圏支店 第3工事部)と再会した。施工管理者の丹野さんとは竣工時の引き渡し以来なので、2ヵ月ぶりだ。この日に焼けた笑顔に触れると、あらためてお礼を伝えずにはいられなくなる。工事中にお邪魔するたび、いつだってスタッフの人数分のヘルメットをきちっと並べて、時間どおりに待っていてくださる方だった。熊谷組は、建設業の代表的企業の一社であるが、新型コロナウィルス蔓延による影響により、時間的に余裕がない中での工事となった。関係者のみぞ知る4号館リノベーションに関わるこぼれ話とは。

真っ白に生まれ変わった4号館。建物に沿うように、うねりのある木のトンネルが、メインエントランスまで続いている。丹野さんは「造作上、最大限に配慮したのは、この木のトンネルですね」と口を開いた。「トンネルに使われている細長い板状のルーバーですが、幅は均一ではなく、実は幅の広いものが混ざっています」。なるほど。よく観察してみれば、一部の部材の幅が広くなっている。「実は、『モックアップ』と呼ばれる実物大の模型を使った検証の際、隈研吾建築都市設計事務所より、木部の存在感が薄い、との指摘がありました。土台の鉄骨の方が目立ってしまっていたわけです。木部を主役として引き立たせるため、より幅広のルーバーを部分的に採り入れることが決まったのです。なぜ部分的かというと、同一幅のルーバーが整然と並んでいると、きれいではあるのですが自然ではない。幅をランダムにすることで、均質さをあえて排除しているのです」と説明が続く。

丹野さんは、トンネルが直角に近いカーブを描くところに立った。「ここのルーバーに注目してみてください。他の部分のルーバーと違い、直線の板ではありません。カーブ型に切っています。その上で、アーチ型にしならせているわけです」。そのようなものづくりの工程の細やかさに舌を巻いた。

丹野 賢一さん(熊谷組 首都圏支店 第3工事部)
「『モックアップ』時の突然の変更があると、現場にはどのように伝えられるのですか」と質問すると、「原(げん)設計の段階で製作していた施工図をできれば即日で描き直します。合わせて三次元の造作用の図面も用意します。それをもとに、現場の職人と完成形のイメージを擦り合わせていきます」と話した。こういった突然の変更は、現場では大なり小なり起こっているそうだが、毎日のように、その日の職人の顔ぶれが入れ替わることもある工事現場において、即時対応の柔軟性が要求されるチームを作るコツは何かと尋ねた。丹野さんは「職人さんとのコミュニケーションに尽きます。僕は実際に何かをつくることができません。ものづくりをされている当事者が、気持ちよく力を発揮できるよう留意しています」と返ってきた。その迷いのない言葉には、数十年の年月に渡り、現場の信頼関係を第一に従事してきたことが表れている。
工事現場の入り口に、清潔に保たれ、並べて置いてあったヘルメット。これは、スタッフが訪れる時だけ特別な準備ではなく、その日、現場に入る職人の方々に対する日常的な敬意と感謝の表現にほかならない。丹野さんはそれをずっと貫いてきているのだ。(館内編に続く)
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