“Letters from the Haruki Murakami Library”―ヘバ・バクル(Heba Bakr) “Letters from the Haruki Murakami Library”―ヘバ・バクル(Heba Bakr)

“Letters from the Haruki Murakami Library”―ヘバ・バクル(Heba Bakr)

“Letters from the Haruki Murakami Library” は「早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)を訪れて、だれかにお手紙を書くとしたら?」という発想で、国際文学館に滞在いただいた方に執筆いただくシリーズ企画です。
「国際文学館翻訳プロジェクト」で2026年6月に当館に滞在いただいた、エジプト在住の翻訳者ヘバ・バクル(Heba Bakr)さんに日本語で手紙を書いていただきました。


 

親愛なる夫、アフマドへ

元気にしてる?子どもたちも元気かな。みんなに会えなくて、本当に寂しいよ。

私は今、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)の研究室で、この手紙を書いています。日本に来て、もう三週間が経ったね。

まず最初に、一番伝えたいことを書かせてね。

本当にありがとう。

このレジデンシーに応募してみたらどう?って背中を押してくれたのは、あなたでした。もしあの時あなたが励ましてくれなかったら、きっと私は応募する勇気を持てなかったと思う。そして、今こうしてこの研究室であなたに手紙を書くこともなかったと思う。

だから今、一番に伝えたいのは感謝の気持ちです。

本当に応募してよかった。そして、日本に来ることができて本当によかった。

この三週間、本当にたくさんの経験をしてきたよ。翻訳者としても、一人の研究者としても、このプログラムに参加していなかったら、きっと経験できなかったことばかりだったと思う。

そういえば、出発する前に「Translators Talk」というイベントで、エジプトやアラブ世界における日本文学の受容と翻訳について発表するって話したのを覚えてる?

あの頃は、本当に緊張してたよね。少しでも正確な情報を伝えたくて、資料を集めたり、プレゼンテーションを何度も見直したり、「ちゃんと伝えられるかな」って何度も不安になってた。

でも、無事に発表を終えることができたよ。

本当に素晴らしい経験だった。そして何より嬉しかったのは、発表を聞いてくださった方々の反応だった。「エジプトやアラブ世界で日本文学がどのように読まれ、翻訳されているのか初めて知った」「日本文学がアラビア語に翻訳された作品の朗読を聞いたのは初めてだった」と声をかけてくださる方がたくさんいて、その言葉を聞いたときは本当に胸がいっぱいになった。

私が日本で、エジプトやアラブ世界のことを少しでも伝えられたことが、とても嬉しかったよ。

それから、「翻訳勉強会」にも参加してきたよ。いろいろな国や地域で活躍している翻訳者の方々と出会って、それぞれが取り組んでいる作品や、翻訳についての考え方を聞くことができた。

正直に言うと、最初はみんなのこれまでの実績を聞いて、「私はまだまだだな」って少し圧倒された。でも、不思議と落ち込むことはなくて、「私ももっと頑張ろう」「帰ったらもっとたくさんの作品を翻訳したい」っていう気持ちのほうがずっと大きくなった。

このレジデンシーは、私に新しい知識だけじゃなくて、「これからも翻訳を続けていきたい」という自信と勇気までくれた気がする。

そうそう、伝えたかったことがもう一つあるよ。

私、本当に村上春樹先生に会えたの。

出発する前から「もしお会いできたらいいな」って話していたでしょう?まさか本当にその機会をいただけるなんて、自分でも信じられなかった。

お会いできた時間は短かったけれど、とても楽しくて、今でも夢みたいな出来事だったなと思う。それに、先生のサインもいただいて、大切な宝物がまた一つ増えたよ。

帰国まで、あと一週間。

あと一週間でみんなに会えると思うと、本当に嬉しいよ。この一週間は、あなたが応援してくれたこの貴重な機会を最後まで大切にしながら、できるだけ多くのことを学んで帰りたいと思ってる。

この一週間は、できるだけたくさんの本屋さんを回って、本を手に取って、これから翻訳してみたい作品や、研究に役立ちそうな資料を探そうと思ってる。時間が足りないなあって何度も思うけれど、最後までできるだけ多くのものを持ち帰りたい。

あと一週間したら、みんなに会えるね。

本当に会いたい。

帰ったら、この一か月の出来事をゆっくり聞いてね。

またすぐ会おう。

愛をこめて

ヘバ


ヘバ・バクル(Heba Bakr)

エジプトのアイン・シャムス大学言語学部日本語学科専任講師。専門は日本文学・比較文学。修士課程および博士課程では日本の古典文学・近代文学を中心に研究を行い、現在は日本文学とエジプト文学・アラブ文学との比較研究にも取り組んでいる。また、日本文学のアラビア語翻訳にも携わり、国際交流基金カイロ日本文化センターとカイロ大学文学部日本語日本文学科共催の「第1回アラブ世界若手翻訳大会」にて最優秀賞を受賞。梶井基次郎、坂口安吾、小泉八雲などの作品を翻訳し、2026年1月には翻訳作品二冊を刊行、カイロ国際ブックフェアでも紹介された。教育活動においては、翻訳をテーマとした卒業研究指導にも携わり、日本文学翻訳の実践的教育にも取り組んでいる。日本文学の研究と翻訳を通して、日本とエジプトの文学・文化交流の架け橋となることを目指している。

 

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