【Authors Alive! 特別企画】光芒のごとく 〜ラジオマン作家・延江浩の制作と文学〜(2026/6/12)レポート
2026.08.05
Authors Alive!の特別企画として、2025年4月に逝去されたラジオプロデューサーで、作家でもあった延江浩さんの足跡をたどるイベントを開催しました。
延江さんは、1982年にエフエム東京に入社後、村上春樹さんがパーソナリティを務めるラジオ番組「村上RADIO」など、数多くの音楽番組やドキュメンタリーを手掛け、放送界の各賞を受賞されました。イベント開演前に、会場内のBGMとして放送した「村上RADIO 戦争をやめさせるための音楽」(2022年3月18日放送回)は、第59回ギャラクシー賞ラジオ部門優秀賞、2022年民放連賞ラジオ準グランプリを受賞しています。また、早稲田大学文化推進部参与として、国際文学館の開館当初から館の発展に大きく貢献されました。
本イベントは、当館顧問のロバート キャンベルさんが企画構成を手がけるとともに司会進行も務め、延江さんと公私ともに親交のあった劇作家で俳優の長塚圭史さん、ギタリストで音楽プロデューサーの佐橋佳幸さん、エフエム東京経営管理局総務部長の杉本昌志さんが登壇しました。また、俳優で日本舞踏家の藤間爽子さんには、長塚さんとともに延江さんの著作を朗読いただき、作家の川上未映子さん、ミュージシャンの坂本美雨さんからはビデオメッセージが寄せられました。
まず、佐橋さんが映画『ティファニーで朝食を』で主人公が歌う「Moon River」をギターで演奏するところからイベントはスタートしました。演奏を終え、「延江さんは、文学はもちろんですが、映画や音楽もお好きだったので」と話す佐橋さんに続き、キャンベルさんが延江さんの来歴を紹介。「1990年代から、ラジオのあり方そのものを刷新する新たな表現を追求し、ラジオの魅力を世の中に広めてこられました」と語りました。

そして、佐橋さんのギター演奏をバックに、長塚さんと藤間さんが、延江さんの著作『J』を朗読します。同作は、85歳の女性作家Jが、IT企業の経営者・母袋晃平と出会い、人生最後の恋をするというストーリーで、実在の人物をモデルにしたといわれます。長塚さんは朗読で自身がJを、藤間さんが母袋役を演じた理由を、「当初は女性がJのパートを読むことも考えたのですが、配役の性別を変えることで、激しい描写もある作品が少し客観的にみえる効果があると考えました」と説明。一方、藤間さんは、「昨年(2025年)1月頃に、延江さんと『朗読をやりたいね』という話をしていたので、延江さんの文章を読むことができ、夢が叶ってうれしいです」と述べました。

続いて、佐橋さんと延江さんのトーク&音楽番組「さはしひろし」(interfm)から、延江さんが「村上RADIO」を立ち上げた時の裏話を明かした回が放送されます。
この番組は、架空のロックバーを舞台に、音楽を切り口として、さまざまな文化や時事問題について二人が自由に語り合うトーク番組です。実際、佐橋さんが延江さんから出演の依頼を受けた場所は都内にあるロックバーだったといいます。「延江さんから突然、『一緒にラジオ番組をやろう』と言われて、最初は断ろうと思っていたんです。ところが、そのバーに続々とエフエム東京のスタッフが現れ、ついには社長までがやってきて……」と、佐橋さんは笑いながら、番組を引き受けることになった経緯を説明しました。

すると、長塚さんも同じような状況で、大役を担うことになった過去を明かします。
「延江さんから突然、連絡があり、『東京・立川にある国文学研究資料館というところに、日本の古い文学の書籍が置かれている特別な場所がある。そこに行くと、いいことがあるよ』と言われて、見学するつもりで訪れてみたら、キャンベルさんをはじめ、館の方たちがずらっと並んでいて……」と長塚さん。そして、長塚さんは当時、キャンベルさんが館長を務めていた国文学研究資料館の「ないじぇる芸術共創ラボ」(文化庁助成事業)で、江戸期の戯作者・山東京伝の黄表紙を題材に、古典籍を現代演劇として再創造するワークショップを実施。新作戯曲を書き上げ、朗読上演されました。
「黄表紙は風刺が効いた大人向けの漫画のような世界で、僕はこのラボをきっかけに、こうした世界感に興味を持ち、その後も黄表紙的発想を活用した作品を作っています。延江さんが出会いの場をつくり、キャンベルさんと引き合わせてくれたおかげで、今の活動にもつながっていると思います」。

2024年にアメリカの作家ポール・オースターが亡くなったことは記憶に新しいですが、延江さんはこの時、特別番組「ポール・オースター追悼 RADIOブルックリンー再会の夏ー」(TOKYO FM)を企画しました。それはラジオを愛したオースターが、一夜限りのラジオ・パーソナリティを務め、ゲストとしてオースター作品の翻訳を手がけた柴田元幸さんが登場するという番組。この時、長塚さんはオースター役を務めていますが、その依頼も突然だったそう。「延江さんから、『お盆に、ポール・オースターと柴田元幸さんが出会うんだよ』と、僕には全く理解できない電話があったんです。よく話を聞いてみたら、僕がオースターになって、即興で柴田さんと話をするということでした。即興ですよ!ちょっと待ってって!」。
そこで、キャンベルさんが「あれは、ノンフィクションとフィクションの境を行ったり来たりするような、とても良い番組でした」と感想を述べると、佐橋さんが「あの時、実は僕のところにも、『ポール・オースターが亡くなったけど、佐橋くん、何かできない?』と連絡が来ましたよ」と発言。会場内に笑いが起こりました。

一方、エフエム東京の杉本さんは、同じラジオ局の一社員としての延江さんについて語りました。
「延江さんは入社以来、ずっと制作・報道・事業といったクリエイティブの畑で仕事をされてきた方。会社は皆で目的にむかって役割分担する仕組みですから、組織として周囲がサポートしてきました。そんななかで、延江さんはクリエイティブワークに集中でき、さまざまな賞を受賞され、会社にも貢献されたんです」。

ラジオ番組でクリエイティビティを発揮する一方で、音楽や文学、演劇など、さまざまな場面でその知識や人脈を生かし、新たな文化の創出につなげた延江さん。その人柄について、登壇者の意見は一致していました。
「延江さんはさりげなく、大きな出会いの場をつくってくれる人でした。人と人とを絡み合わせて、出会わせて、それが発展するのを見て喜んでいました」と長塚さん。藤間さんは、「年代の違う私とも、分け隔てなく気さくに接してくれ、出会いを大事にしてくれる方だと思いました」と語りました。
佐橋さんは、「とにかく人間力があった。魅力的な人だからこそ、皆が付いてくるし、部下にも愛されている。そして、キャラが濃い人でもあった。だから、作る作品もキャラクターがはっきりしていて、魅力的でした」と述べ、杉本さんは、「ラジオというメディアにおいては、コンテンツがベースなので、そこに新しい風を吹かせる人が必要です。延江さんは、その先頭を走り続けられた方であり、まさに、ザ・ラジオプロデューサーでした」と話しました。
イベントの終盤、佐橋さんはオリジナル曲「さはしひろしのテーマ」を演奏。そして、キャンベルさんが、本イベントの構成を一つのラジオ番組として考えたことを明かします。
「延江さんはお酒の席や旅先など、ラジオとは関係のないところでよく『これってラジオだよね』と言っていました。最初は意味がわからなかったけれど、何度か話すうちにラジオがどういうことなのかを教えてもらった気がします。放送で、声質や語り方がきれいにまとまりすぎると、人は聞き逃してしまうし、深まりは出ません。そこで、きれいにせず、ざらっとした傷のようなものを残す、いわば、余白を残すということでしょうか。それが、延江さんの流儀でした。このイベントをどう締めくくるのに、延江さんなら『そこはきれいに終わらせなくていい、フェイドアウトでしょう』と言うと思います」。

このキャンベルさんの言葉が、約200人の観客の胸に響いたところで、終幕となりました。
(早稲田大学国際文学館 橘晶子)
長塚圭史
1996年演劇プロデュースユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」を旗揚げし、作・演出を担う(2017年劇団化)。2011年ソロプロジェクト「葛河思潮社」、2017年「新ロイヤル大衆舎」を始動。2021年4月、KAAT神奈川芸術劇場芸術監督に就任し、『王将』-三部作-(構成台本・演出・出演)、『夜の女たち』(上演台本・演出)、『アメリカの時計』(演出)、『花と龍』(演出・出演)などを手掛ける。このほか近年の作品に、舞台『チ。―地球の運動について―』(脚本)、阿佐ヶ谷スパイダース『さらば黄昏』(作・演出・出演)、彩の国シェイクスピア・シリーズ2nd『リア王』(演出)など。
佐橋佳幸
1983年、ロックバンド「UGUISS」でデビュー。解散後はセッションギタリストとして、数多くのレコーディングやコンサートツアーに参加。高校の後輩でもある「渡辺美里」のプロジェクトをきっかけに活動の幅を広げ、「小田和正/ラブ・ストーリーは突然に」、「藤井フミヤ/TRUE LOVE」など数多くのヒット曲への参加や、幅広いプロデュースワークで高い評価を得る。2025年には、ザ・フィフス・アヴェニュー・バンドの中心人物であるピーター・ゴールウェイとのコラボレーションアルバム「EN」をリリース。同時に、40年以上にわたるキャリアを振り返った書籍「佐橋佳幸の仕事1983-2025 EN」を発売するなど、現在も精力的に活動を続けている。
藤間爽子
俳優、日本舞踊家。幼少期より祖母・初世家元藤間紫に師事し、21年には三代目藤間紫を襲名。日本舞踊家として活動する一方、劇団「阿佐ヶ谷スパイダース」に所属し、舞台「半神」(2018)、「ハムレット」(2023)、「砂の女」(2026)などに出演。映画やTVドラマでも活躍。主な出演作に「ブギウギ」(2023/NHK)、「マイファミリー」(2022/TBS)、「silent」(2022/CX)、映画「アイミタガイ」(2024)主演ドラマ「つづ井さん」(2024)、「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」(2025/NHK)など。
杉本昌志
株式会社エフエム東京経営管理局総務部長。早稲田大学人間科学部卒、同大学院経営管理研究科修了(MBA)。1998年、エフエム東京入社。大阪拠点での放送企画営業からスタートし、営業管理、セールスプロモーション、イベント事業、サテライトスタジオ統括などを担当。2013年より新規事業開発に携わり、関係会社の経営企画室長や取締役を兼務。その後、事業部門にて営業推進管理部門長、デジタル事業開発部門長、経営企画部門などを経て、2021年より現職。
ロバート キャンベル
早稲田大学特命教授、早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)顧問、せんだいメディアテーク館長、東京大学名誉教授。ニューヨーク市出身。専門は江戸・明治時代の文学、特に江戸中期から明治の漢文学、芸術、思想などに関する研究を行う。 主な編著に『戦争語彙集』(岩波書店)、『よむうつわ』(淡交社)、『日本古典と感染症』(角川ソフィア文庫、編)、『井上陽水英訳詞集』(講談社)、『東京百年物語』(岩波文庫)等がある。
川上未映子
2008年、『乳と卵』で芥川賞、2009年、詩集『先端で、さすわ さされるわ そらええわ』で中原中也賞、2010年、『ヘヴン』で芸術選奨文部科学大臣新人賞および紫式部文学賞、2013年、詩集『水瓶』で高見順賞、『愛の夢とか』で谷崎潤一郎賞、2016年、『あこがれ』で渡辺淳一文学賞をそれぞれ受賞。2019年、『夏物語』で毎日出版文化賞を受賞。最新作『黄色い家』は読売文学賞を受賞。このほかにも、村上春樹との共著『みみずくは黄昏に飛びたつ』など著書多数。
坂本美雨
1997年、「Ryuichi Sakamoto feat. Sister M」名義で歌手デビュー。1999年、高倉健主演映画『鉄道員(ぽっぽや)』の主題歌「鉄道員」を担当。2011年よりTOKYO FM/JFN系全国ネットのラジオ番組『坂本美雨のディアフレンズ』でパーソナリティを務め、2024年4月からはNHK Eテレ『日曜美術館』の司会に就任。2025年、李相日監督作品の映画『国宝』主題歌「Luminance」の作詞を担当。2021年「東京2020パラリンピック」開会式でパラ楽団のヴォーカルとして歌唱。2025年11月、森山開次演出の舞台『TRAIN TRAIN TRAIN』に出演。長年動物愛護活動にも携わるほか、児童虐待を減らすためのプロジェクト『こどものいのちはこどものもの』の発起人の一人。さらに、ガザへの人道支援を目的としたアーティストによるオークション《Watermelon Seeds Fundraiser》を2024年に開催。
【開催概要】
・開催日時:2026年6月12日(金)18時30分~20時
・会場:早稲田大学小野記念講堂
・主催:早稲田大学国際文学館
※募集時の案内はこちら
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