リチャード&ミカ・ストルツマン @ The Haruki Murakami Library レポート
2022.07.30
- 文学・芸術
リチャード&ミカ・ストルツマン @ The Haruki Murakami Library(6月15日)レポート
6月15日、「早稲田大学国際文学館 キャンパス・ライブ リチャード&ミカ・ストルツマン @ The Haruki Murakami Library」と銘打って、クラリネット奏者のリチャード・ストルツマンさんと、マリンバ奏者のミカ・ストルツマンさんご夫妻によるコンサートが開催されました。
国際文学館では、昨年10月の開館以来、昨年度は6回、今年度は4月から6月までに3回、朗読などのイベント「Authors Alive!」を開催しています。さらに今年から、様々なアーティストのライブ演奏等をお楽しみいただく「キャンパス・ライブ」を実施しています。
今回はその第3弾です。
今回の会場は、1Fの「ギャラリーラウンジ」。部屋の中央にある長机の左右に客席を設けました。
橋本周司・当館顧問(本学名誉教授)が主催者挨拶を行い、ストルツマン夫妻と親交の深いロバート キャンベルさん(当館顧問、本学特命教授)が全体の司会進行にあたりました。
冒頭、キャンベルさんは、お二人について紹介するとともに、3年ぶりで1か月半ほどの来日公演が行われているなか、どうして村上春樹ライブラリーでこのライブが実現することになったのか、を説明しました。
リチャードさんは今年7月12日に80歳になるクラリネット界のレジェンドで、グラミー賞を2度受賞され、数多くのオーケストラと共演を重ねてきています。6月下旬には80歳を記念したソロアルバム『ラスト・ソロ・アルバム ――フロム・マイ・ライフ――』がリリースされました。
ミカさんはクラシックとジャズを縦横無尽にクロスオーバーする、ニュージャンルのマリンバ奏者で、ニューヨークのカーネギー・ホールで何度もリサイタルの成功を収め、世界各地で公演しています。
村上春樹作品のファンでもあるお二人は、昨年秋に出た雑誌『BRUTUS』の「特集 村上春樹(下) 『聴く。観る。集める。食べる。飲む。』編」をボストンで入手し、リチャードさんがユニットを組んで作った1978年のアルバム『TASHI』を、村上さんが興味深く紹介しているのを知ります。その感激が、数年前から交遊のあったキャンベルさんに伝えられたのが、今回のきっかけになjりました。
この日のために編曲された2曲を含む特別のセットリストによるコンサートで、全体のコンセプトが「反戦」だということをキャンベルさんは紹介しました。今年の3月18日にオンエアされた「村上RADIO 【特別編】~戦争をやめさせるための音楽~」を、お二人もボストンで聞いたそうで、
「音楽に戦争をやめさせるだけの力があるのか? 正直言って、残念ながら音楽にはそういう力はないと思います。でも聴く人に『戦争をやめさせなくちゃならない』という気持ちを起こさせる力はあります。」
という村上さんの言葉を受けとめ、さらにご自分たちの思いをこめた構成・演奏だということが、参加者に静かに伝えられました。そして、1曲目「イマジン」が始まりました。
2曲続けて演奏した後に、国際文学館という場所の感想を求められたリチャードさんは、数日前に文学館を訪れたときのエピソードを披露。「一番自由に息が伝わる場所」を探してクラリネットを吹きながら館内全体を回ったが、書物に囲まれたギャラリーラウンジで一つ音を出したとき、すぐに「ここだ」と思えた、とのことでした。マリンバ演奏について訊ねられたミカさんからは、2曲のアレンジについて説明がありました(「イマジン」のアレンジはマリンバも演奏をするピアニストの太田美奈子さん、「亡き王女のためのパヴァーヌ」はミカさん本人による)。
3曲目は、深い交遊のあった武満徹の最晩年の作品でしたが、曲名「エアー」から受け取れる思いとして、「何もないような空間が実は空白でなく、その中に音楽がある」と解釈しているとリチャードさんは語り、演奏に入りました。
3曲目に続いて4曲目「シャコンヌ」になりましたが、18分近い大曲を見事に演奏しきった後に、ミカさんはヴァイオリンが多い同曲をマリンバにアレンジしたいと思ったきっかけや、実際の苦労を明かしました。
終盤に入って、冒頭で紹介されていた『ラスト・ソロ・アルバム』収録曲も演奏されました。友人でもあるジョン・ゾーンさんがパンデミックの隔離状況で書き下ろした「アニマ」(5曲目)と、ジャズ作曲家の狭間美帆さん編曲による「ミシェル」(7曲目)です。2曲の間は「ノルウェイの森」で、ビートルズ作品を6・7曲目に連続させる流れでした。
『ノルウェイの森』を含む多くの村上春樹作品に囲まれた空間での演奏の感想や、愛読作品の話題になり、リチャードさんはいま読んでいる『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』について、「楽しいけれど怖い部分もあって、自分には大人すぎるかも」とユーモラスに答え、ミカさんは『1Q84』や『騎士団長殺し』を挙げるとともに、「村上さんのエッセイが自分のバイブル」と答えていました。
第二次大戦の影が色濃く反映された映画「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマが最後の曲となりましたが、同曲が収められた最新アルバムのブックレットには村上春樹さんも寄稿されているとのこと。その末尾に「できればこの『ラスト・ソロ・アルバム』が、彼にとっての最後のソロ・アルバムにならないことを、僕としては祈りたいのだが。」とあることが紹介されて、終演となりました。
演奏曲
- ジョン・レノン「イマジン」
- ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」
- 武満徹「エアー」
- バッハ「シャコンヌ」
- ジョン・ゾーン「アニマ
- ビートルズ「ノルウェイの森」
- ビートルズ「ミシェル」
- エンニオ・モリコーネ「ニュー・シネマ・パラダイス」
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