Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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Newsletter Vol. 21(2021年冬号)

新所長・副所長紹介

2020年9月より、当研究所の所長・副所長に以下の3名が就任し、新たな体制となりました。

所長   有村俊秀(政治経済学術院教授)  研究分野:環境経済学
副所長  尾形哲也(理工学術院教授)    研究分野:知能ロボティックス
副所長  山本聡美(文学学術院教授)    研究分野:日本中世絵画史

当研究所は、既存の学術院に属さない独立した研究所として2006年9月に設立されて以来、次世代を担う研究者が、人文科学、社会科学、自然科学といった従来の分野にとらわれず幅広いテーマにわたって創造的・先進的な研究に取り組む機関として活動してきました。新たな体制のもと、引き続き若手研究者の切磋琢磨と学内教員との協働の機会の提供、海外研究者の受け入れ、学際的研究プロジェクトの推進等に取り組みます。

有村所長挨拶

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、私たちは未だかつて経験したことのないような混迷した状況下に置かれ、高等研究所の活動も大きな影響を受けました。高等研究所は自由闊達で国際的・学際的な機関として、これまで若手研究者が対面にて、様々な分野の研究者と活発に意見を交わし刺激を受け合う多くの場を設けてきましたが、コロナ禍にて一変し、交流はすべて遠隔での実施となりました。また、毎年行っていた海外からの訪問研究員・招聘学者の受入れについても延期・中止を迫られました。

一方で、このような中でも、全世界からの若手研究者採用を実施し、学術機関として新型コロナの問題にアプローチする自然、社会、人文科学の研究者の活動を紹介するセミナーシリーズを開催するなど、独自の取り組みも進めています。また、環境・サステナビリティをテーマにした新たな研究プロジェクトを開始し学内外の研究者と連携し、学際的アプローチを試みています。

今後も引き続き新たな生活様式下での活動が想定される中、副所長のおふたりと協力し、これまでの伝統を生かしつつ、ニューノーマル時代の新たな研究所のあり方について模索し、若手研究員が活躍できる場を提供できるように努めていきます。

研究プロジェクト紹介

当研究所では、学内外の研究者との協働を通した若手研究者の育成、学内で国際的に競争力のある研究分野の強化、研究分野を越えた異分野融合研究の推進、将来的な外部資金獲得を見込んだ研究拠点の形成を目指し、2020年度より以下の2つの研究プロジェクトを開始しました。

1.グローバル・ヒストリー研究の新たな視角

2017 年度~2019 年度の3年間にわたって行われた、研究プロジェクト「新しい世界史像の可能性」を発展させたもので、前プロジェクトでは中世・近世、あるいは近世・近代など、時代区分をまたいだ時間軸を射程において、新たな世界史の見方を提供してきました。具体的には、民主主義や資本主義が、移民や文化衝突、政治的・経済的・軍事的緊張のグローバルな広がりにより、社会主義(ソーシャリズム)の台頭とも相まって、危機に直面している状況の中、人文科学のみならず社会科学も解決策を見いだせないことに鑑み、今一度、自明の前提としてきた「近代」なるものを見直そうとする発想にもとづいていました。

2020年度から始動するプロジェクト「グローバル・ヒストリー研究の新たな視角」では、主権国家・国民国家が形成されていく 19 世紀を中心とし、軍人や知識人など、「人」の直接的・間接的接触や、そのグローバルな移動によって形成された人的ネットワーク、ならびに現在の人文科学を基礎づけた近代的学問研究の翻訳や、その書物のグローバルな流通・受容という分析視角から、「学知」に光を当て、グローバル・ヒストリー研究への新たな視角を提供することを目指しています。

2.分野横断型・環境サステナビリティ研究プロジェクト

気候変動を中心とした環境・サステナビリティの問題は、混迷した21世紀において最も緊急を要する問題の一つです。環境・サステナビリティの問題は多面的であり、その対策(温室効果ガスの削減等)や、適応(被害への対応)は、社会科学、人文科学、理工学の学際的なアプローチが必要となります。そこで、本研究では、環境・サステナビリティの問題に学際的に取り組む早稲田大学各学術院の教員と高等研究所の研究者による研究チームを構築し、多様なバックグラウンドの研究者の連携を進め、日本における環境・サステナビリティの真の拠点を形成して国際的な研究発信をすることを目指します。また、同時に、早稲田大学の若手研究者や大学院生の参加を促進することで、若手育成にも貢献します。

具体的な取り組みとして、1年目は学外から講師を招聘して研究セミナーを開催し、環境学、サステナビリティ学の動向について最新の知見を深めていきます。分野横断型、学際的アプローチによる環境研究を行うために、多様な分野の専門家を招聘することに力点をおき、早稲田大学各学術院の若手研究者に積極的な参加を求めていきます。また、高等研究所の研究者、研究所の兼任研究者となっている各学術院の教員の研究報告も予定しています。これらの研究セミナーを通じ、分野横断型の学際研究等、参加メンバー間の共同研究の可能性を探ります。

活動紹介

公開シンポジウム『インド思想研究の最前線』(2020年9月12日)

当研究所主催の公開シンポジウム『インド思想研究の最前線』が2020年9月12日(土)にオンラインで開催されました。開催者である眞鍋智裕講師が概要をお伝えします。

眞鍋智裕講師(2021年3月現在)

本シンポジウムは、髙橋健二博士(日本学術振興会海外特別研究員/ナポリ東洋大学)が近年提唱されている「アディヤートマ思想」を中心テーマとして、髙橋博士に加え、張本研吾博士(マヒドン大学人文社会系准教授)、近藤隼人博士(筑波大学人文社会系助教)に講演をいただき、その後のディスカッションでは、加藤隆宏博士(東京大学人文社会系研究院准教授)を司会に迎えて、「アディヤートマ思想」の内実や今後のインド思想研究における「アディヤートマ思想」想定の利点等に関して議論を行いました。ディスカッションの前半では講演者と司会による意見交換を行い、後半は講演に関する質疑応答など参加者を含めた全体討論を行いました。

講演では、髙橋博士より「アディヤートマ思想」を提唱するに至った経緯、「アディヤートマ」(adhyātma)の語義、「アディヤートマ思想」の指示範囲、その後世における具体的な思想的影響について解説をいただき、続いて張本博士より、古代インドの文献上に現れる「ヨーガ」(yoga)の用例を中心に、紀元後パタンジャラによって確立された「ヨーガ・スートラ」によって「ヨーガ」がインド医学や仏教・ジャイナ教、また文法学派の思想や実践を総合した「ヨーガ哲学」へと結実する過程、およびその核となる「ヒラニヤガルバ・ヨーガ」と呼ばれるヨーガの伝統を保持していた集団を、個人存在を探求する「アディヤートマ思想」の保持者と想定することの有効性についてお話しいただきました。最後に近藤博士より、広範囲にわたる文献に見られる「アディヤートマ」の用例とともに、「アディヤートマ思想」を奉じていたと見られる集団においては近藤博士の専門分野であるサーンキヤ哲学との思想的類似性が見られるため、サーンキヤ哲学との類似点と相違点から「アディヤートマ思想」の特異性を浮き彫りにする報告をいただきました。

その後のディスカッションでは、様々な意見が飛び交い、議論がされましが、「アディヤートマ思想」は古代インドの思想家が共通して抱いていた思想傾向であるものの、保守的なブラフマニズムであるヴェーダ思想とは一線を画するものであったのではないかとの結論にひとまず達しました。

本シンポジウムは、未だ斯学界において未だ確立していない新説を中心テーマに、その是非や有効性を問う挑戦的なものでしたが、研究者・一般参加者からも多くの意見をいただき、最新のインド思想研究について議論する貴重な機会となりました。

ノーベル物理学賞受賞者による特別講演会(2020年11月25日)

当研究所共催のノーベル物理学賞受賞者による特別講演会が2020年11月25日(水)にオンラインで開催されました。準備および開催に関わった木村蘭平講師が概要をお伝えします。

木村蘭平講師(2021年3月現在)

2020年11月25日に、東北大学研究推進・支援機構知の創出センター主催、早稲田大学高等研究所共催のもと、”ノーベル賞受賞者による特別講演会「時空のさざなみ・重力波〜その初観測までとこれから〜」”がオンライン(YouTube live)で開催されました。当講演会では梶田隆章教授(東京大学宇宙線研究所所長)、および、Rainer Weiss教授(マサチューセッツ工科大学名誉教授、ルイジアナ州立大学特任教授)の2名に重力波に焦点を当て講演いただき、日本語・英語で配信し、国内にとどまらず海外の研究者、また研究関係者のみでなく一般視聴者の参加もあり、合計200名超に視聴いただきました。

梶田隆章教授は1998年に大気ニュートリノの観測により、ニュートリノに質量があることを発表し、2015年にノーベル物理学賞を受賞されております。講演の前半では、ニュートリノがどの様な粒子なのかを説明していただき、梶田教授が先導された実験装置スーパーカミオカンデによりどのようにニュートリノを観測したかを説明していただきました。後半では、現在、研究代表を務められている大型低温重力波望遠鏡計画(KAGRA計画)に関する大変興味深いお話を今後の進展等含めてしていただきました。Rainer Weiss教授はレーザー干渉計を用いた重力波検出装置を発明し、この貢献により2017年にノーベル物理学賞を受賞されています。講演の前半では、アインシュタインの一般相対性理論から予言される重力波がどのように発生し、我々の元に届くかを、数値シミュレーションに基づいたアニメーションでわかりやすく説明していただきました。後半では、アメリカのリビングストンおよびハンフォードに設置されたレーザー干渉計の重力波検出器LIGOの仕組み、そして、人類初となった重力波の観測の瞬間のお話までしていただきました。また、質問コーナーでは、一般視聴者からの重力波に関する様々な質問に両教授が丁寧に答えてくださり、一般の方の重力波への理解を深める機会にすることもできたと思います。講演後にお二人の対談セッションを用意し、今後の重力波・宇宙物理に関する大変貴重なお話、そして、お二人がなぜ研究者の道を辿ったのかなど、普段お聞きすることができない裏側のお話までしていただきました。

梶田教授、Weiss教授、ご視聴者の方々、そして、オンライン開催にご協力してくださったスタッフの方々に御礼申し上げます。

講演会『細胞膜損傷を起点とする細胞老化の分子基盤』(2021年1月13日)

当研究所丸山剛講師が企画した講演会『細胞膜損傷を起点とする細胞老化の分子基盤』が2021年1月13日(水)にオンラインで開催されました。沖縄科学技術大学院大学(OSIT)の河野恵子准教授をお招きし、老化の制御に関わる研究につきお話しいただきました。講演の要旨は以下のとおりです。なお、本講演は高等研究所員をはじめとした学内研究者の将来的なロールモデルとなるような研究者や、企画する所員の専門分野をリードするような研究者(トップランナー)を講演者として招聘したセミナー、“Top runners lecture collection”の一環として開催されました。

丸山剛講師(2021年3月現在)

体を構成する細胞は、絶えず表面に穴を作ってしまうような損傷やストレスを受けており、その細胞の損傷やストレスが蓄積することにより、疾患や不調へと繋がります。細胞の形を司る一番外側を構成する細胞膜の損傷は筋ジストロフィー症など様々な疾病に関与します。細胞を細胞たらしめている最も重要な構造の一つである細胞膜が重要であることは自明ですが、細胞膜が損傷したときにどのように修復されるかについては、意外にもあまり知られていません。河野先生の研究グループでは細胞膜損傷に対して、細胞がどのようにこの応答を制御するかを理解するために、解析が容易な出芽酵母*¹をもちいることで、細胞膜損傷が細胞の寿命を制御することを見つけました。細胞膜損傷は、出芽酵母の寿命を短くしました。また、ヒトが歳を重ねるように、細胞も老化することがわかっています。この細胞老化に関わる分子がp53*2というタンパク質ですが、正常ヒト線維芽細胞への細胞膜損傷はこのp53を介して急激な老化を誘導することがわかりました。また興味深いことに、細胞膜損傷は突起(Scar)を残すことがわかり、この老化細胞の細胞膜に形成したScarを除去することで酵母の寿命が延長することを見出しています。以上より、Scarの蓄積は新たな細胞老化の特徴であり、細胞老化促進に寄与すると考えられるということです。

特に、Harvard University, David Pellman Labの所属時に見出した生命科学現象(出芽酵母におけるScar形成と老化)について紹介いただき、最近確立されたmammalian細胞*³を用いた最新の情報を説明いただきました。特に出芽酵母での現象がmammalian細胞で保存されている点などは非常に興味深く、今後の発展が期待されます。また、in vivo解析については予備実験の段階ですが、長寿命かつほとんど発がんしないハダカデバネズミを用いた研究に展開しようとしているなど、将来的に生体における老化制御が可能となる可能性を示唆する重要な研究結果を紹介いただきました。

*¹ 出芽酵母は、パン酵母として知られ、基礎研究のために広く利用されています。出芽酵母はゲノムがすべて解読されており遺伝子操作がしやすく、研究室で扱いやすい。
*² タンパク質の一種、DNA損傷のセンサーの役割を果たす。
*³ 哺乳動物細胞

ウェビナーシリーズ『ポストコロナの社会:学際的アプローチ』(2020年6月~8月)

2020年6月から8月にかけてポストコロナ社会をテーマに当研究所が開催したウェビナーシリーズについて報告します。

コロナ禍で社会全体が委縮しつつあった2020年5月、当研究所として一石を投じることはできないかとの思いから、当研究所顧問の宮島英昭理事を中心に、前所長の前田恵一教授及び現所長の有村俊秀教授がオンラインウェビナーシリーズを企画しました。趣旨は以下のとおりです。

新型コロナウイルスによる感染症(COVID-19)による、「新型コロナ問題」が世界を席巻しています。人類の健康生命だけではなく、世界経済、人々の生き方にまで大きな影響を及ぼしています。しかも、私たちはこのコロナに対して、長い戦いを強いられる可能性もあります。ウェビナーでは、「グローバル化」、「感染症検査」や「リスクコミュニケーションと意思決定」といった研究テーマで、毎週異なる研究者がオンラインで登場します。私たちはどう対峙し、どのような社会をつくっていくべきなのか。新型コロナ問題に早稲田の研究者が様々な分野からアプローチします。

発案から1月足らずのうちに本学田中愛治総長をはじめとする学内外の研究者がこの趣旨に賛同し、6月19日に最初のウェビナーを開催することができました。その後8月まで毎週開催された全9回のウェビナーシリーズは、延べ約1300名の参加者を数え、成功裡に幕を閉じました。各回とも所長もしくは副所長が司会をつとめ、討論者が議論や質問を促す構成としたこともあり、参加者からの質問が多数寄せられ、意義のあるウェビナーになりました。また、技術的にもリアルタイム配信(ZoomウェビナーとYou Tubeでの同時配信)とアーカイブ化などオンラインでの研究成果発信のひな型を構築する取り組みができたのも、ひとえに当研究所に集う教職員の力によるものと思います。

各回のテーマは以下のとおりです。一部はアーカイブ化されており視聴可能です。

第1回 「コロナ後のグローバル化のゆくえ」
第2回 「感染症の社会経済史的考察:新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大への含意を念頭に」
第3回 「感染症検査を改善するための教育学部伊藤研究室の取り組み」
第4回 「ポストコロナにおける企業統治:新たな課題と展望」
第5回 「コロナ問題についてのリスクコミュニケーションと意思決定」
第6回 「新型コロナウイルス(COVID-19)とバイオメディカル研究の今後」
第7回 「日本社会における”科学的助言”のありかた」
第8回 「積極的に身体を動かすチャンスの到来!」「色とパズルでバランスのよい食事を簡単に」
第9回 「コロナ・パンデミックに対する早稲田の理念と方針、およびポスト・コロナの時代の教育のあり方」

アーカイブ参考:https://www.waseda.jp/inst/wias/news/2020/06/08/6997/


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