Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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知識産業を基軸としたまちづくりの研究
山村 崇 講師

知識産業のまちづくりに求められる「ナレッジ・ティストリクト」の発想

私はこれまで、「脱工業化・脱成長の時代」のまちづくりについて、多角的に研究してきました。直近では「知識産業」を基軸とした地域経済開発と、それを下支えする都市環境のあり方に焦点を合わせて研究活動を行っています。また民間企業と連携して、産業活動に関するミクロデータ等を用いて特定地域の開発ポテンシャルを分析し、業務市街地における具体的な課題解決に取り組んでいます。

産業活動は、いつの時代も都市の形姿を規定する大きな存在です。産業の性質が変われば都市の姿も否応なく変化します。日本の地域開発においては、戦後長らく「工業化」が中心的トピックであり、その中で国土の姿が形作られてきました。しかし昨今は、脱工業化と「知識化」が進展し、知識の生産を専らとする「知識産業」が、都市の発展を牽引する存在となっています。そうした中で、知識社会に対応した都市=「ナレッジシティ(KC)」を標榜する都市が急増しています。ところが、KCを具体的にどのように実現していくべきかを指し示す「計画理論」はまだ十分に確立されていません。私自身は、「シティ」の規模では大きすぎて具体的な計画に落とし込むことが難しいため、より小さな「ナレッジ・ディストリクト(KD)」スケールの発想で、計画を進めていくべきだと考えています。

知識産業の立地メカニズムを捉える

KDの戦略的形成の観点からは、知識産業の誘引とクラスター化促進が重要な鍵を握りますが、そのためには都市圏内部スケールで知識産業の立地メカニズムを把握しておく必要があります。そこで、日本標準産業分類を用いて知識産業を定義し、その東京都市圏での集積傾向を、一般的なサービス産業の立地傾向と比較しながら分析しました。その結果、知識産業が都心部への極めて強い集積傾向を持つことが明らかになりました。またその結果を深掘りするために、アンケート調査によって立地選定理由を調査したところ、知識産業が都心部に集積する主な要因が、「都市化の経済(異種企業の集積によって生じる利益)」「フードアメニティ」「ナイトライフアメニティ」であることも分かってきました。これら3つの要素は、高度に都市化した空間で相互依存的に形成されると考えられるので、統合的な概念が必要と考え、「Urbanity Capital(アーバニティ資本)」と名付けました(図1)。

図1 知識産業の立地を誘引するアーバニティ資本(Urbanity Capital)の概念図 (Urbanity Capital:アーバニティ資本、Food Amenity:フードアメニティ、Nightlife Amenity:ナイトライフアメニティ、Economies of Industrial Agglomeration:都市化の経済、Urbanized Space:都市空間)

KDのケース・スタディを通して計画のあり方を考える

日本におけるKDの好例といえるのが、東京都品川区の「天王洲」地区です。天王洲は都心に隣接する臨海部埋立地の再開発でできた業務市街地で、1990年前後をピークに多くのオフィスビルが建設されました。ここでは、「ボンドストリート」と呼ばれる街路を中心として、地権者らが「アートのまち」をテーマとしたまちなみ整備を進めて賑わいを創り出し、かつて流通倉庫が並んでいた頃のうらぶれた雰囲気を払拭して、知識産業を惹きつけるアーバニティ資本に溢れた魅力的なまちなみを生み出しています。

その結果、情報通信業、インターネット関連業、広告デザイン業、アパレル・ファッション業など、デザインやクリエイティブ性の高い企業が集まってきて、流通・卸売がメインのまちから、知識産業のまちへと変貌を遂げました。また、醸造所を併設したブルワリーレストランやベーカリーカフェなどの「フードアメニティ」「ナイトライフアメニティ」も強化されつつあります。このエリアについての新聞記事中のキーワードをテキストマイニングによって解析したところ、この十年で「アート」や「ギャラリー」などが多用されるようになっており、「アートのまち」をテーマとした整備により、地域イメージの刷新に成功していることが窺えます(図2)。

図2 民間セクター主導によりアートのまちをテーマとした整備が進む「ボンドストリート」エリア。 水上レストランや倉庫を生かしたミュージアム、ウッドデッキなど、開放的でおしゃれなアートのまちに生まれ変わった。

現在進行中の研究

目下、知識産業の立地に関してさらなる分析を進めています。旧来型の事業にテクノロジーを組み合わせて新たな価値を提供する「X-tech(クロステック)ビジネス」の立地決定因子に関する分析もその1つです。X-techといえば、スマホ決済や仮想通貨などに代表される、「金融(Fin)」と「技術(tech)」を組み合わせた「Fin-tech」が有名ですが、その他にも、ファッションと技術を組み合わせた「Fashion-tech」、広告と技術を組み合わせた「Ad-tech」など、多様なX-techがあり急速に成長しています。これまでの分析で、一部のX-techには、既存産業を活性化させる「触媒」としての役割が備わっていること、一度立地すると長く留まろうとする「地域粘着性」を有していることなど、興味深い傾向が明らかになっています。X-techの詳細な立地メカニズムを解明することで、地域ごとの個性を最大限に生かしたKDやKCの計画と、理論構築に繋げていきたいと考えています。

取材・構成:四十物景子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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