
私たちは「心臓が悪い」「臓器が弱っている」と聞くと、臓器そのものの異常を思い浮かべがちです。それは間違いではありませんが、臓器は無数の細胞が集まってできた一つの“社会”です。つまり、病気の本質はしばしば「細胞の中で何が起きているか」に隠れています。
私はこの“細胞内から病気を捉える”という視点で研究を続けてきました。特に注目しているのが、細胞内でエネルギーを作る小器官、ミトコンドリアです。
発電所は便利だが、壊れやすい
細胞が働くためにはエネルギーが不可欠です。細胞内には、そのエネルギーを生み出す“発電所”があり、それがミトコンドリアです。ただし、この発電所には副作用もあります。酸素を使ってエネルギーを作る過程では、いわば“火花”のような副産物として酸化ストレス(例:活性酸素種)が生じ得ます。通常は細胞内に備わっている抗酸化作用や修復機構によって副産物が取り除かれますが、病態時や過剰なストレスが加わるとこの均衡が崩れ、ミトコンドリアの障害や細胞機能の低下、細胞死につながることがあります。
ここで重要なのは、ミトコンドリアが単純な装置ではないという点です。ミトコンドリアは周りの環境(エネルギー需要やストレス刺激など)に応答して、融合と分裂を繰り返し、ダイナミックに形や配置を変えながら、ダメージを調整しようとしているのです。分裂は「壊れる」というイメージを持たれがちですが、状況によっては傷んだ部分を隔離して立て直すための“保護的な分裂”として働く場合もあります。
私の研究は、ストレス下でミトコンドリアを保護する新たな仕組みを発見し、それが細胞内でいつ・どこで・どのように働くのかを分子レベルで明らかにすることを目的としています。
特に、ミトコンドリア機能を支える可能性のある因子として GJA1-20k と呼ばれるタンパク質に注目しています。現在、この因子がストレス下でミトコンドリアの状態をどのように整え、細胞の保護やストレス耐性にどう結びつくのか、そのメカニズムを解析しているところです。
ミトコンドリアの形態制御
ミトコンドリアの不調は、多くの病態で共通して見られる現象です。もし細胞が持つ“守る仕組み”を理解し、薬でその働きを支えられるようになれば、病気を単に「壊れた状態」としてではなく、「壊れないように支える」「回復を助ける」という視点で捉え直せます。すなわち、ストレス環境でミトコンドリアがどの段階で崩れ、どの段階なら立て直せるのか、またどの分子が保護に寄与するのかを理解できれば、将来的に新しい予防・治療のアイデアにつながる可能性があります。私はその入口として、ミトコンドリアの分裂の制御機構に着目しています。
今後は、GJA1-20kを含むストレス応答の仕組みをさらに深く掘り下げ、ミトコンドリアを守る戦略を、特定の臓器に閉じない“共通言語”として発展させたいです。細胞が働くためにはエネルギーが必要で、エネルギー産生の安定は生命現象の根幹です。ミトコンドリアという“小さな主役”が健康や病気にどう関わるのかを直感的に理解してもらえるよう、研究と発信の両方を大切にしていきます。







