Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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重力波を使って、回転する中性子星の物理に迫る
大川博督 講師

「重力波天文学」への興味

宇宙で起こる現象には、メカニズムがわからないものがたくさんあります。そのような場合、理論に基づいてモデルをつくり、モデルのふるまいを計算します。これをシミュレーションといい、シミュレーションによって現象が再現されれば、モデルが正しかったのだろうと考えられます。

例えば、私はこれまで、重い星が最期を迎える時に起こす「超新星爆発」のメカニズムを探っていました。超新星爆発は、爆発前の大質量星の中心部で発生する衝撃波が、星の外縁部に達することで起こります。その衝撃波が爆発を引き起こすメカニズムとして有力な「ニュートリノ加熱機構」説に注目し、スーパーコンピューター「京」を使ってシミュレーションを行い、爆発を再現しようと試みてきました。

私は現在、「重力波天文学」に興味を持っています。「重力波」とは、重い天体などが動くときに、その重力の影響で生じた時空のゆがみが光速の波となって、さざ波のように周囲に伝わる現象のことです。重力波は、ブラックホール合体など電磁波では観測できない天体現象や激しい天体現象の中心部を直接観測する手段になり、生まれたばかりの宇宙の姿を探る重要な手掛かりになるとも期待されています。

重力波の検出と理論値計算

重力波の存在はアインシュタインが1916年に一般相対性理論で予言していましたが、初の直接観測は2015年9月と、最近のことです。アメリカの研究機関LIGO(Laser Interferometer Gravitational-wave Observatory)によって「ブラックホール-ブラックホールの合体」による重力波が観測されました。その後も重力波は何度か観測され、2017年には、中性子星連星の合体の際に発生した重力波も初観測されています。

重力波を含む観測データは大きなノイズも含むため、検出のためにはたくさんの理論的な波形を用いて実際の重力波信号を取り出す必要があります(図1)。ひとたび重力波が検出できれば合体前の星の情報は詳しくわかります。しかし、現状の観測精度では、合体後に回転している星が落ち着くまでの情報はそれほど詳しく得られていません。そこで、合体後の回転運動を理論的に計算し、観測データから有益な情報を得たいというのが、私の研究の1つのモチベーションです。

図1 2016年に観測されたブラックホール-ブラックホール合体による重力波の観測データ(taken from the Gravitational Wave Open Science Center (https://www.gw-openscience.org)) 横軸は時間、縦軸は振幅(振幅は時空のゆがみを表す)、波の間隔は振動数。赤は観測データ、青は理論波形。重力波の検出には2地点での観測が必要だが、その一方のHanfordでのデータを示す。波形は、グラフ上部のようなブラックホールの運動に対応している。ブラックホールどうしの合体の場合は、合体後の理論波形の計算が比較的容易だが、中性子星どうしの場合は状態方程式など未知の情報に強く依存するため難しい。

超新星爆発によって生じる原始中性子星(proto-neutron star)

一方、超新星爆発の後には、中性子星のもととなる原始中性子星が誕生します。しかし、それが中性子星となるためにはニュートリノや重力波を放出して数十秒間冷却される必要があります。このような長時間の現象は、動的なシミュレーションで細かく追うことは現実的ではなく、段階的な計算による手法が有効です。つまり、「ある平衡形状にある星から抜けるニュートリノの量を計算し、抜けた分を考慮したあとの平衡形状にある星を構築し、その星から抜けるニュートリノを計算する」ということを繰り返すのです。しかし、一般的な条件のもとで平衡形状の回転星を構築する手法は未だ存在していません。

新たな計算方法「W4」の開発

上の2つの問題に共通するのは、一般相対性理論に基づいて、回転する中性子星を解析することです。そのためには、非線形偏微分方程式を解かなければなりません。非線形偏微分方程式は差分法やスペクトル法によって非線形連立方程式になります。これまで非線形連立方程式を数値的に求める手法として、ニュートン-ラフソン法(NR法)が使われてきました。しかし、NR法は、初期値が解から遠いと解けないという欠点があり、そもそも解を求めたいのに解に近い初期値を入れなくてはいけないという難点もあります。

そこで私が考えたのが、「W4法」という計算法です。NR法は「今の情報と1つ前の情報(微分)」が「次の情報」を得るために使われていきますが、そこに「2つ前の情報(2回微分)」も加えたのがW4法です。比較的簡単な方程式を、さまざまな初期値からスタートしてNR法とW4法で解いてみたところ、NR法では解に到達できないような初期値の範囲が広くありましたが、W4法では、そのような領域の初期値から計算を始めても、解を得ることができました。

図2 NR法とW4法の比較 左上に示す非線形連立方程式の解は、左下の赤い円と青い2本の曲線の交点である。右上は、NR法とW4法の解法。右下の2つの図は、NR法とW4法でこの範囲の初期値から計算を始めたときの結果を示す。どちらも×は解で、赤、青、橙、緑の色分けは、4つの解のどれに到達するかを示す。NR法では、黒で示した領域の初期値からは解に到達できないのに対し、W4法では、初期値をどこにとっても、4つの解のいずれかに到達する。

この計算方法を一般相対性理論の計算に適用することで、回転星の平衡形状が解けるのではないかと考えています。現在予備的な計算をしていますが、手応えは上々です。将来は、このような天体からの重力波を観測し物理的な情報を引き出したいと思っています。

取材・構成:四十物景子
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

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