Waseda Institute for Advanced Study (WIAS)早稲田大学 高等研究所

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新たな重力理論の探求
~宇宙の加速膨張の起源を探る~
木村蘭平 講師

膨張する宇宙

宇宙は加速膨張していることが知られていますが、何が宇宙の加速膨張を引き起こしているのかはまだ解明されていません。私は宇宙の加速膨張の起原を探るための、新たな重力理論の構築に取り組んでいます。

宇宙が膨張していることがわかったのは1929年、エドウィン・ハッブルらによる研究からです。ハッブルらは銀河の観測により、「遠い銀河ほど地球から遠ざかる速度が速い」ことを発見し、宇宙全体が風船のように膨張し続けていることを突き止めました。「宇宙は静止している」という当時の常識を打ち破る、驚くべき発見でした。

それから約70年後の1997年、ソール・パールマッター、ブライアン・シュミット、アダム・リースは、Ia型超新星を観測した結果から、宇宙の膨張がどんどん速さを増していることを明らかにしました。これが宇宙の加速膨張です。この発見を受け、3氏は2011年にノーベル物理学賞を受賞しています。

なぜ宇宙膨張は加速するのか

宇宙は約138億年前に、高温高密度の状態から、急激な爆発的膨張により誕生したと考えられています。いわゆるビッグバンです。そして現在に至るまで膨張を続けています。

物質同士は互いに引き合う性質をもっているため、宇宙の膨張は、やがて勢いを失うはずです。しかし先述の通り、実際はその逆で、宇宙の膨張は加速していくという不可解な観測結果になりました。

そこで考えられたのが、我々がまだ捉えられていない未知の巨大なエネルギー「ダークエネルギー(暗黒エネルギー)」の存在です(図1)。通常の物質は重力により互いに引き合いますが、ダークエネルギーは逆に物質同士が離れようとする斥力の重力を及ぼします。その力は通常の物質による引力の作用を打ち消してしまうほどの巨大なエネルギーと考えられます。

図1:物質だけの宇宙とダークエネルギーも存在する宇宙の膨張史(提供:木村講師)(図中の風船はhttps://www.nature.com/news/cosmologist-claims-universe-may-not-be-expanding-1.13379より改変)

観測によると、ダークエネルギーは現在の宇宙の全エネルギーの約70%を占めていると考えられています。宇宙全体に満ち満ちているにもかかわらず、ダークエネルギーの正体はまったく分かっていません。現在、世界中の研究者がダークエネルギーを解き明かそうとしています。

加速膨張を説明する新たな重力理論

宇宙の膨張は、1915年にアルバート・アインシュタインが提唱した一般相対性理論で記述することができます。一般相対性理論は以下の式の黒字部分の方程式で記述されますが、前述の通り、収縮に向かう宇宙を予言してしまいます。しかし、赤字の部分を加えることで宇宙の加速膨張を説明でき、観測結果と一致することがわかっています。この赤字の部分を「宇宙項」と呼びます。しかし、今のところこの宇宙項の物理学的根拠はわかっていません。

一般相対性理論は太陽系スケールでの様々な実験・観測で検証されており、疑う余地がありません。しかし、それよりも大きなスケールで適用できるかは未だ分かっていません。もしかすると、一般相対性理論よりもっと広い枠組みの理論が存在し、その理論が宇宙の加速膨張を説明できるかもしれません。そこで、私は現在、宇宙の加速膨張を記述する新しい重力理論の構築に取り組んでいます。

重力波の観測による理論の検証

近年、宇宙論研究における大きなインパクトとなったのが、「重力波」の存在が証明されたことです。重力波とは、時空のゆがみが波のように伝わっていく現象のことです。2015年、レイナー・ワイス、バリー・バリッシュ、キップ・ソーンは、重力波観測装置LIGOにより重力波の検出に成功しました。この功績により、3氏は2017年にノーベル物理学賞を受賞しています。重力波についても、アインシュタインは一般相対性理論からその存在を予言していました。アインシュタインの予言から100年経ち、やっと重力波の存在が証明されたのです。

重力波の検出が可能になったということは、今までとは異なる新たな観測手段が手に入ったということです。例えば、一般相対性理論では重力波の伝わる速度は光の速度と同じであることが知られています。しかし、別の重力理論では、光の速度から異なる場合があります。

このことは、新しい重力理論を構築する上で、大きな意味をもちます。理論をつくる際には、構築した理論を用いて、様々な予言をし、観測結果と比較して、理論が正しいかどうかを検証します。観測結果と合わなければ、理論を修正し、その理論を用いて予言をし、観測結果と比較して検証し…と繰り返すことで、正しい理論に近づいていきます。したがって、これまで用いられていたIa型超新星の観測などに加えて、重力波の観測のデータを用いることで、構築した理論の検証をより強固にすることができます。これにより新しい重力理論を導いていくことで、未知なる宇宙の姿が明らかになってくると期待できます。

現実的にはまだまだ時間がかかりますが、宇宙の誕生から現在、未来まで、全てを知るというのが、私の目指していることです。物理でどこまで宇宙を理解できるか、研究を通して明らかにしていきたいと思います。

取材・構成:秦 千里
協力:早稲田大学大学院政治学研究科J-School

 

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