Waseda Weekly早稲田ウィークリー

大相撲が投影する日本とその時代 “スー女”ブームでも女人禁制の謎

ハマり方は人それぞれ 意外と「スー女」は通好み?

激論! 「大相撲」鼎談。後編も、早稲田と縁深い3人の好角家ーー漫画家で元日本相撲協会外部委員のやくみつるさん(商学部卒)、女性スポーツアナウンサーの草分け・宮嶋泰子さん(第一文学部卒)、そして、スポーツ社会学の研究者で相撲部部長も務めるリー・トンプソン教授(スポーツ科学学術院)が、ワイドショーやネットニュースでは語られない“大相撲の本当の姿”を語り尽くします。

暴行事件や女人禁制問題など、さまざまな問題が取り沙汰される中、本場所は連日の満員御礼。そんな相撲人気再燃のきっかけとも言われている女性の相撲ファン、いわゆる「スー女」の存在。また、「実は大相撲は時代の変化に柔軟に対応してきた」ということを裏付ける、SNSの活用やPR戦略など「大相撲の新しい波」について。日本の伝統「大相撲」の明るい未来のために、本当に必要なことはいったい何なのか? これから大相撲と向き合いたい若い世代へのメッセージとは?

前編で相撲は「伝統は守りつつ、時代やメディアの変化に柔軟に対応してきた」との話がありましたが、「スー女」についてはいかがですか?

やく
最近何かと話題の「スー女」のみなさんですが、実は彼女たちはとても古風なんですよね。「スー女」なんていう言葉の響きから連想されるようなハメの外し方をするわけでもなし。むしろ、オヤジたちの方がよっぽどハメを外しますから(笑)。それに比べて「スー女」の皆さんは、全体的に「回帰しているな」という印象を受けます。
宮嶋
回帰、というと具体的にどんな動きがあるのですか?
やく
最初、この「スー女ブーム」が起きたときは、ほとんどの推しメンが「遠藤」だったわけです。
土俵入りする遠藤関。最高位は小結(2018年5月現在/共同通信)。
遠藤関は確かにイケメンだし、清潔感はあるし。それで最初は「キャーッ」って追いかけていたんですけども、スー女がどんどん拡大していくにしたがって、新たな好みを派生させ、遠藤一点主義じゃなくなったんです。

それぞれに渋好みな力士を見つけて、その上で、ちゃんと居住まいを正しながら見たりとか。観戦方法として「これは失礼にあたる」というようなこと…例えば、場所中にはサインを求めたりしないとか、そういった暗黙の了解もしっかり守っている。
楽しみ方はそれぞれだけれども、これはやっていい・やってはいけない、というのをしっかりわきまえている人たちという認識を持っています。
宮嶋
相撲協会のアピール方法も変わってきていますよね。広報部が力士のみなさんのかわいらしい写真をSNS上にアップしたり、チャーミングな寝顔やケーキを持って笑っている顔をアップしたり。
やく
千代丸の寝顔ですね。
宮嶋
そうそう、千代丸さん。かわいらしい寝顔ですよね! あれも結構、たくさんの方に刺さってるんじゃないかと思っているんです。
やく
確かに今、さも若い相撲ファンが増えている、と喧伝(けんでん)されていますけども、実際にはまだまだお寒い状況ですよ。先日、大学生約300人を前に講演する機会をいただいたんですが、ちょうど本場所中だったので、「みなさん、相撲中継は見ていますか?」と質問したら、挙手してくれたのは2〜3人でした。

やれ、スー女だなんだと言われているのは、一部の熱をすくい上げているだけだなと思いましたね。日常的に友達同士で相撲の会話をしたり、相撲場に行ったりという状況にはまだまだ程遠いんだ、と。

実際、私は早稲田大学相撲部の後援のお手伝いもさせていただいていますが、部員集めには苦労しているようです。女子マネージャーの入部動機にいたっては、部を後援しているデーモン閣下のファンという、ブームとは何もかすっていない理由だったりしますからね(笑)。
トンプソン
私も相撲部の部長ですので、相撲部についてはよろしくお願いしますと言いたいですね。もちろん、どのスポーツを楽しむかは個々人の自由ですが、せっかく日本に生まれて、暮らしているのですから、日本発祥の重要なスポーツである相撲に、もっと関心や理解を持ってほしいなと思います。
やく
そうそう。先ほど名前の出た遠藤といえば、以前私がNHKの中継ゲストに呼んでいただいたときが、ちょうど幕内に上がってきたころでした。遠藤って足の構えがきれいなんですよね。膝を曲げて前へ攻める際、内側にきれいな五角形ができてるんです。
宮嶋
はいはい、確かに。
やく
これを私、「遠藤ペンタゴン」と名付けて紹介させていただいたところ、解説の音羽山親方(元大関・貴ノ浪)に得心していただきました。「遠藤ペンダゴン!」って(笑)。

でも後日、ある親方に聞いたところ、遠藤ペンタゴンは横への動きには強いみたいなんですが、前進力には劣る、と。だから遠藤は突進の相撲が取れないんだと気付かされました。素人目には理想形に違いない、「遠藤ペンタゴン」は大発見だと思ったんですけどね(笑)。
音羽山親方のお墨付きをもらった「遠藤ペンタゴン」を実演するやくさん
トンプソン
じゃあ、理想的な構えはどんな形か、教えていただけたんでしょうか?
やく
白鵬が出てきたときに、「理想的なガニ股だ」と指摘して、いろいろ意見を交わした記憶があります。「ガニ股美」とまで言われるくらいにきれいなガニ股だ、と。
トンプソン
確かに、白鵬が塩を取りに行くときのあの歩き方なんて、かなり独特なガニ股ですよね。
やく
立ち姿とか、様式美とかはいろいろな考え方がありますが、面白い例を挙げると、何年か前のNHK大河ドラマ「平清盛」で、当時の兵庫県知事から「画面が汚い」とクレームが入ったことがあったんです。時代考証を忠実に再現した結果、全体的にトーンが暗くなったんでしょうけど、「その言い方はなんだ!」と炎上する騒ぎになりました。

ただ、このドラマで逆に「きれいだ」と評判になったことがあって、それが当時の現役力士、豊真将(ほうましょう)。リアルを求めるドラマだったからこそ、現役力士を劇中での相撲シーンに起用したんですが、この豊真将のお辞儀がまぁきれい。汚い画面でお辞儀がきれいと評判になるのも、また一つの様式美の成せる技なのかなと。
宮嶋
私は様式美とはまた違うんですけれども、今ってモンゴル勢だけでなく、栃ノ心のようなジョージア出身力士、その前にはブルガリア出身の大関などもいましたよね。
以前と比べて力士の体つきも手足の長さも、実にバリエーション豊かですし、それぞれの力士が個性的で味があります。その中で、どういう相撲を取って、どう自分の力を出し切るのかを見るのが私はすごく好きなんです。それは、昔からの相撲の楽しみ方とは違うのかもしれませんが。
やく
何が美しい、何がいいと捉えるかは、もちろん何か型のようなものがあってそこにハマるかどうかという捉え方もありますけども、大前提としては自分がきれいだと思えれば、それでいいと思うんです。

絵だってそうですよね。自分が感じるものを信じればいいんですよ。先ほど(前編の)「Abema TV」のくだりで、若者に対して相撲の面白さをどう伝えるかという話題がありましたが、私の場合は様式美なんですけれど、自分で美しいというものを、相撲の中で見つけていけばいいんじゃないでしょうか。
「なぜ立場よりも“女性”を優先するのか」 日本はジェンダー・ギャップ指数114位

女性ファンが増え、自由な楽しみ方が広がる一方で、やはり女人禁制問題など「伝統」の捉え方については今後もついて回りそうですね。

宮嶋
「女人禁制」について、私も一言。あれは後付けだったからこそ、「女人禁制」みたいなものがより強調されたのかな、と私なんかは思うんです。先日の土俵上で救命措置をした女性にしても、優先順位は何か、プライオリティーをどこに置くかさえはっきりしていれば、非常時であってもきちんと対処できることだと思うんですね。

倒れた市長がもし亡くなられたら、一体、誰が責任を取ったというんでしょう? もちろん、土俵にハイヒールはダメとかはあるでしょうけど、そんな些細(ささい)なことならすぐにでも対応できることじゃないですか。
トンプソン
女人禁制問題で不思議なのは、“女性”として土俵に上がろうという人なんて、一人もいないんです。
宮嶋
そうそうそう。
トンプソン
土俵に上がってあいさつをする、あるいは表彰をする、そのような立場にいる人であれば、性別で断るなんてことは、世の中の人たちが納得しないのは明らかです。
宮嶋
世界経済フォーラムが毎年、各国における男女格差を測る「ジェンダー・ギャップ指数」を発表していますが、日本は男女格差が大きく、2017年は144カ国中、114位。もちろん国会議員の女性割合など、さまざまな側面から出ている数字ではありますが、やはり大相撲に関する騒動は象徴的な出来事なのかな、と。大相撲がスポーツであれば、男女平等じゃなきゃいけない時代です。

シンクロナイズドスイミングはアーティスティックスイミングと競技名を変え、男子選手も台頭し始めています。新体操にも男子選手が出てきています。ありとあらゆるスポーツで「男女一緒に」が世界的な流れであり、国際オリンピック委員会が特に取り組んでいることです。だからこそ感じてしまうのが、「あー、やっぱり日本は114位の国なのね」ということなんです。
トンプソン
改めて、相撲は「神事」か「スポーツ」か「興行」かという話ですが、大相撲は紛れもなく「興行」として存続しています。「興行」としてお客さんがお金を払って見に来てくれる。あるいは、グッズを購入したり、テレビ中継を見ることでお金の流れが生まれ、その資金で部屋が運営でき、力士を養うことができるわけです。

逆に考えれば、どういう相撲ならお客さんはお金を払ってでも見に行くのか。そこから、未来の大相撲像が決まるはず。ですから、女人禁制の大相撲は見たくないという人がたくさん出てくれば、おのずと変わっていくはずなんですが、お客さんの入りは変わっていないのが現状です。
時代の移り変わりを反映する大相撲 「大学生はあと80年も楽しめる」
やく
「女人禁制」については取っ払ってしまえ、というのが私の考えですが、それ以外の相撲のこととなると、原理主義者。がっちがちの保守です。最近、幕張あたりで人気の「大相撲 超会議場所」のような演出過多の巡業に若い衆がたくさん押し寄せていると聞くと、あまりいい気はしませんね。

「大相撲 超会議場所」とは?

やく
「ニコニコ超会議」主催の派手な演出の巡業企画があるんです。赤だの青だのライトで照らしちゃったりして、冗談じゃないよ! と。若者にすり寄っていくんじゃなくて、自分たちの土俵にいかに引き入れるかの方が大事でしょ、という感覚が私にはあります。
トンプソン
「大相撲が今後どうあるべきか」というのは、私が口を挟むことでもありませんが、現在、多くのプロスポーツが何で稼いでいるかというと、放映権とスポンサー料です。ですから、大相撲だってもっと稼ごうと思えばいくらでも稼げると思うんですよ。

例えば、外国に放映権をどんどん売り出せばいい。ただ、そのためには何か新たに工夫しなきゃいけないこと、変えなきゃいけないことも出てくる可能性があります。ただ果たしてそれは、大相撲にとって必要なことなのかどうなのか。
やく
私は必要ないと思いますけどねえ。
トンプソン
大相撲が他のプロスポーツと比べても特異な点は、協会トップから現場を切り盛りする担当者まで、すべて元力士たちによって運営されているということです。

これはある意味、見習うべき点のあるやり方なのかもしれません。他のスポーツでオーナーになるような人は、ほとんどが競技経験のない、金もうけだけを考えてるような人たちばかりですから。
宮嶋
残念ながら、そういう例もありますね。
トンプソン
そういう人たちは、そのスポーツのことを本気で考えているのか? と思ってしまうんですね。ですから、いろいろやればもっともうけることができるかもしれませんけども、現状、収入の面で間に合っていると考えると、現状維持も一つの選択肢なのかなと思います。
宮嶋
私がぜひやってもらいたいのは、外国人向けに説明・解説しているような初歩的な相撲の魅力を、日本人向けにも作ってほしいということです。例えば、まわし2枚取ったときと1枚とではどう違うのか? やくさんには笑われてしまうくらい基礎的なことでも、実況アナウンサーが使う「手を絞る」ってどういうこと? といった言葉の定義を伝える企画なんかもいいと思います。

かつては、祖父母だったり親兄弟から教わったことが、今の時代は伝承されていないわけですよ。まずはそういった地道なことから始めるのも必要なんじゃないでしょうか。
やく
「これから大相撲を見てみよう」というみなさんには、ぜひ長いスパンで楽しんでほしいということをお伝えしたいですね。昨今、外国人力士全盛時代なんて言われたりもしますが、長い大相撲史からすれば10年・15年の短いピリオドの話。またすぐに群雄割拠の時代が来たり、いろんな相撲が楽しめるはずです。
相撲には時代が反映されます。だから、あまりその時々の状況に一喜一憂せず、次はどんな世の中が来るんだろうなあくらい鷹揚(おうよう)な気持ちで見た方がいいと思います。人生100年時代が近づいている今、学生のみなさんは今後80年も大相撲を楽しめるわけです。相撲を通して、いろんな時代を見てもらえたらうれしいですね。
プロフィール
やくみつる
1959年、東京都生まれ。漫画家・コメンテーター。早稲田大学商学部卒業。新卒で出版社に勤めながら各誌に漫画を連載。1996年に「文藝春秋漫画賞」を受賞。代表作に『パロ野球ニュース』『やくみつるのガタガタ言うゾ!』『やくみつるのマナ板紳士録』『やくみつるのギャグ+1』がある。また、時事ネタに強くコメンテーターとして「ミヤネ屋」(日本テレビ系)、「けやきヒルズサタデー」(Abema TV)など、テレビ出演の機会も多い。好角家としても広く知られ、2007年には日本相撲協会の外部委員を務める。
宮嶋 泰子(みやじま・やすこ)
1955年、富山県生まれ。テレビ朝日スポーツコメンテーター、元同局アナウンサー兼ディレクター。早稲田大学第一文学部仏文科卒業。1977年に全国朝日放送株式会社(現・テレビ朝日)にアナウンサーとして入社。日本で最初の女性スポーツアナウンサーとなり、「ニュースステーション」(1985年-2004年)から、後継番組の「報道ステーション」まで、リポーター・ディレクターとして30年以上に渡りトップアスリートへのインタビューやドキュメンタリーを制作。1980年のモスクワ五輪から2018年平昌五輪まで19回の五輪現地取材を務める。他に早稲田大学スポーツ科学部で非常勤講師、文部科学省中央教育審議会スポーツ・青少年分科会委員、財団法人日本障がい者スポーツ協会評議員、JOCや日本体育協会の委員などを歴任。現在も「報道ステーション」でディレクター兼リポーター、BS朝日「ザ・インタビュー~トップランナーの肖像~」でインタビュアーを務める。
リー・トンプソン
1953年、米国オレゴン州生まれ。1987年、大阪大学大学院人間科学研究科博士課程単位取得満期退学(社会学専攻)。学術博士。大阪大学人間科学部助手、大阪学院大学国際学部助教授を経て、2003年より早稲田大学スポーツ科学学術院教授。専門はスポーツ社会学、コミュニケーション論で、相撲、プロレスの研究者として知られる。主な著書に『Japanese Sports: A History』『力道山と日本人』『講座・スポーツの社会科学1 スポーツの社会学』ほか(いずれも共著)。ほかに、NHK教育テレビへの出演やラジオDJも務める。
取材・文:オグマナオト
2002年、早稲田大学第二文学部卒業。『エキレビ!』『野球太郎』などを中心にスポーツコラムや人物インタビューを寄稿。また、スポーツ番組の構成作家としても活動中。執筆・構成した本に『福島のおきて』『爆笑!感動!スポーツ伝説超百科』『木田優夫のプロ野球選手迷鑑』『高校野球100年を読む』など。7月に『ざっくり甲子園100年100ネタ』『甲子園レジェンドランキング』を刊行予定。
Twitter:@oguman1977
撮影:加藤 甫
編集:Camp 横田大
取材・撮影協力:早稲田大学 東伏見キャンパス 相撲道場
早稲田大学相撲部( https://www.waseda.jp/inst/athletic/club/sumo/


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