Waseda Weekly早稲田ウィークリー

カミナリまなぶ×ジョイマン高木×サンキュータツオ 普通の大学生ってなんだ

「入学した途端に燃え尽きた」それぞれの理想の学生生活とのギャップ

「こんなはずじゃなかった…」キラキラした大学生活を夢見ていたはずなのに、実際の生活は全然違う…。毎年1万人あまりの学生が入学する早稲田大学においては、そんな理想と現実とのズレに当惑し、心が折れてしまう人も少なくありません。

今回登場していただいたカミナリ 竹内まなぶさん、ジョイマン 高木晋哉さん、そして米粒写経 サンキュータツオさんの3人は、それぞれ思い描いていた大学生活からズレてしまった早大出身のお笑い芸人たち。中退の道を選んだまなぶさんと高木さん、14年にわたって大学に在籍し続けたタツオさん。「普通」の大学生とはちょっと違う生活を送った彼らは、しかし、その大学時代を「後悔していない」と語ります。

当初の理想とかけ離れた大学生活は、お笑い芸人として彼らの人生に、どんな影響を及ぼしたのでしょうか? まずは、希望に満ちた入学当時からお話を伺っていきましょう。

今回、鼎談(ていだん)に参加していただいたまなぶさんは6年半で中退、高木さんは3年で中退、そしてタツオさんは博士課程まで14年にわたって在籍するなど、誰も「4年で卒業」という、世間では当たり前に思われている大学生活を歩んでいません。まず早稲田に入学した経緯から伺っていきたいと思います。

まなぶ
僕は昔から漠然と、早稲田という大学に対して憧れの気持ちがありました。高校生くらいから芸人をやりたいと考えていて、将来はテレビに出ることを思い描いていた。それで早稲田ならば、タモリさんをはじめ数多くの有名人が学んでいたし、放送関係を目指している友達がいっぱいできるはずと考えたんです。

2浪してようやく政治経済学部に合格することができましたが、いざ入学すると待っていたのは勉強を全くしない大学生活でした…。「早稲田に入学すること」が目的になってしまっていたんです。就職をする気持ちもなかったから、授業に出て単位を取る理由も分からない。結局ずっと遊び続けていましたね(笑)。
高木
僕も1浪して入学したのですが、まなぶくんと同じく「早稲田に入学する」ことが目標になっていた。受験生の頃は、バンカラで自由な早稲田の校風が自分に向いていると思っていましたが、入学した途端にいわゆる「燃え尽き症候群」になってしまったんです。
最初は授業にも出ていたのですが、内容が全く頭に入らず、だんだんと出席しなくなって…。けれども、実家暮らしだったので、ずっと家にいたら授業に出ていないのがバレてしまいます。そこで、とりあえず大学に来てはいましたが、中央図書館にずっとこもっていたんです。

なぜ、図書館を居場所にしていたのでしょうか?

高木
サークルにも所属していないし、学部に友達もいません。周りの大学生がキラキラとまぶしく見え、そこから目を背けたかったんです。中央図書館のAVルームで、昔の映画やミュージックビデオをずっと見ていましたね。デヴィッド・リンチ監督の『ツイン・ピークス』を全話見たのを覚えています(笑)。
まなぶ
僕はオールラウンドサークルに入っていたから、友達はたくさんいました。
高木・タツオ
え!? 満喫してるじゃん!
まなぶ
インカレサークルだったので、女子大の子もいっぱいいたんです。ただ、サークル内では「恋愛禁止」と言われていたので、ちゃんと守り続けていました。けれども、卒業パーティーのときに、みんな普通にサークル内恋愛しまくっていたことが明らかになったんです!!!
一同
笑。
「リセットしたい」「タイミング逸した」「昔から…」三者三様、お笑いを志した理由

早稲田にはお笑いサークルもたくさんありますが、そういったサークルに入ろうとは思わなかったのでしょうか?

まなぶ
全く考えていなかったですね。相方(石田たくみさん)とお笑いをやろうとは思っていたのですが、ネタも作っていなかったし、ライブにも出ていません。2011年に相方が大学を卒業した後、今の事務所に所属して、大学に通いながら芸人を始めたんです。
高木
僕の場合、まなぶくんのようにキラキラした学生生活を送っていたら、お笑いをやっていなかったですよ…。

高木さんは在学中にはお笑いをしていたのでしょうか?

高木
全くやっていませんでした。僕の在学中は、小島よしおさん(2004年教育学部卒)も在籍していた「WAGE」っていうサークル(現在解散)の人気が高かった時代。お笑いに対して憧れを持っていたものの、自分で一歩踏み出すこともできずに悶々としていただけです…。
お笑いを始めたきっかけは、成人式のときに中学校の同級生だった相方(池谷和志さん)が「吉本興業の養成所に行ってみたい」と話していたことから。そこには、同じく中学校の同級生だったシンガー・ソングライターの秦基博くんがいて、彼が「一緒にお笑いやりなよ」と背中を押してくれたんです。それで決心をし、親に一言も相談せずに退学届を出しました。

極端すぎる行動ですね…。

高木
考えたら大学に籍だけ残しておいてもよかったかもしれませんが、当時は大学に行く気力すら出なかったんです。バイトもしていなかったから、このままではちゃんとした社会生活も送れないかもしれない…という焦りばかりが広がっていた。「今までの生活を全部捨てたい」「リセットしたい」という衝動に突き動かされたんでしょうね。

「リセット以前」となる大学時代は、高木さんにとって“黒歴史”なんですね…。

高木
正直、思い出したくもないです…。いい思い出は、当時早稲田に在籍していた広末涼子さんを一回見たことだけかな(笑)。

サンキュータツオさんは中退したお二人とは異なり、博士課程まで14年間、早稲田に在学していました。なぜ早稲田に入学したのでしょうか?

タツオ
こんな風に言うと、ひんしゅくを買ってしまうかもしれないのですが、僕の通っていた高校では、早慶は落ちこぼれが行くような大学と言われていました。早稲田に入った時点でバカにされるし、政治経済学部や法学部ではなく文学部を選んだ時点でダメ人間のような扱いで…。

けれども僕は、どうしても文学部に入って内田百閒(※大正〜昭和にかけて活躍した夏目漱石門下の小説家。代表作に『阿房列車』『ノラや』など)の研究をしたかったんです。そして、内田百閒や夏目漱石が落語好きだったことから、落語研究会(公認サークル)に入って今の相方(居島一平さん・社会科学部中退)に出会いました。

文学研究の延長として、お笑いを始めたんですね。

タツオ
学内のイベントなどで漫才をしていたんですが、大学4年のときに浅草キッドさんがやっていた「浅草お兄さん会」というライブにネタ見せに行きました。そこで、浅草キッドさんに気に入られ「次も来い」と誘ってもらったことから、芸人としての活動がなんとなく始まります。実は、当初芸人になりたいなんて1ミリも考えていなかったんですよ。

そうなんですか!?

タツオ
毎日が発見の連続で、芸人仲間の発想力や人間力は、これまで周囲にいた人たちとはまるで違う価値観でした。よほど人間的で、楽しかったんです。結局、芸人を辞めるタイミングを逃したまま、流れに身を任せることにして、今に至っているんです(笑)。

そういう意味では、タツオさんも“理想の大学生活”を送ったわけではないんですね。

タツオ
学部に5年、修士で3年、博士で6年在籍していましたが、友達も全然いませんでしたからね…。
「早稲田が誇らしかった…」事後報告で伝えた中退、両親の反応

学部卒業後は博士課程まで進み、『漫才における「フリ」「ボケ」「ツッコミ」のダイナミズム』『笑いとことば--漫才における「フリ」のレトリック』といった論文まで執筆しています。

タツオ
僕の専門とする領域は、笑いにおけるレトリック(修辞法、弁論術)の研究です。けれども、芸人仲間からは「研究なんてしても何も分からない」と言われるし、研究をしている人たちからは「お笑いなんてやらずに研究に専念した方がいい」と言われ、どちらにも居場所がなかったですね。

周囲の誰も理解してくれなかったにもかかわらず、お笑いと研究の両方を続けられたのはなぜだったのでしょうか?

タツオ
学部の頃にお世話になった平岡篤頼教授や大学院で指導してくださった中村明教授は、「研究と実践は常に両輪なんだ」とおっしゃっていました。平岡先生は2005年に亡くなられましたが、フランス文学を研究しながら自分で小説を書き、芥川賞候補にもなった方です。研究と実践を行うことは、一昔前までの早稲田の伝統だったんですよ。
平岡先生に「お笑いを続けるかどうか迷ってます…」と相談したときには、「両方やった方がいい」と背中を押していただきました。あの時、もし先生から「やめておけ」と言われていたら、おそらくお笑いは続けていなかったでしょう。

現在は、お笑い芸人としての活躍はもちろん、早稲田大学、一橋大学、成城大学で非常勤講師として講義をしたり、先日改訂された「広辞苑 第七版」(岩波書店)では、アニメ、BLなどサブカルチャー分野の執筆を手掛けました。タツオさんの他の芸人の方とは全く違うキャリアが、独特のポジションを生み出しているんですね。

タツオ
僕は昔から、自分はこの二人のようなポップスターにはなれないという自覚があった。だから、メジャーシーンで活躍しようとか、若い人に知ってもらおうという気持ちがありません。
いまだにネタ見せに行くと、「難しい」「子どもでも分かるようにしろ」と言われますが、落語のように大人がしっかりと楽しめるエンターテインメントとしての漫才があってもいいのではないかと考えています。

そんなこんなで僕はずっと大学にいたわけだけど、高木くん、まなぶくんは中退を後悔することってある?
高木
今になって親には申し訳ないことをしてしまったと痛感しますが、後悔はしていませんね。その期間がなければ芸人をやることもなかったし、こういう場所でお話をすることもなかったんですから。

突然の中退という決断を報告し、ご両親はどのような反応をされたのでしょうか?

高木
「大学をやめた」という事後報告と同時に「お笑いをやるために養成所に行く」という決断の報告でしたから、当然親父には殴られました。ずっと授業料を支払っていたのに勝手に中退した揚げ句、よく分からない道に進むというんですから親不孝ですよね…。テレビに出られるようになるまで、数年にわたって勘当されていました。
まなぶ
僕も、親に退学を伝えるときはつらかったですね…。なかなか言い出せなくて、そのストレスなのか、どつき漫才でたたかれているせいなのか、当時10円ハゲができました。たたかれている所とは逆側でしたけど(笑)。

2浪して大学に入学し、6年半も通わせてもらった末の中退です。うちの親の場合はお笑いの道を応援してくれましたが、大学をやめることについてはやっぱり悲しんでいましたね。
田舎なので「早稲田に入った」ということが、とても誇らしかったようです。いまだに、僕がテレビで笑いを取っていることよりも、「早稲田大学中退」と紹介されているときの方が笑顔になるんですよ(笑)。
高木
何単位くらい取ったの?
まなぶ
6年半で40単位です。
タツオ
ダメ過ぎだろ!

では、高木さんの取得単位は?

高木
僕は2単位でした…。
タツオ
逆にもう、清々しいな(笑)。

ちなみに何の授業だったのでしょうか?

高木
バスケットボールです…。
一同
爆笑。
プロフィール
カミナリ 竹内 まなぶ(たけうち・まなぶ)
1988年、茨城県生まれ。早稲田大学政治経済学部経済学科中退。グレープカンパニー所属。2011年、幼なじみの石田たくみとお笑いコンビ・カミナリを結成。コンビ名は、竹内の実母に委ね「カミナリ」と命名された。茨城弁の掛け合い、「おめえ、そう言えば○○だな!」などと大声でつっこむ、どつき漫才で人気沸騰中。2016年、2017年の「M-1グランプリ」に2年連続で決勝進出を果たしている。
ジョイマン 高木 晋哉(たかぎ・しんや)
1980年、神奈川県生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科中退。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。2003年、中学校の同級生だった池谷和志とお笑いコンビ・ジョイマンを結成。2008年「ナナナナー、ナナナナー」のラップネタで一世を風靡。近年は「しくじり先生 俺みたいになるな!!」(テレビ朝日系)に出演するなど、「一発屋」をバネに再ブレイク中。7月7日に行われる単独ライブのチケットが完売しなければ解散することを発表していたが、5月14日に完売した。
米粒写経 サンキュータツオ(こめつぶしゃきょう・さんきゅーたつお)
1976年、東京都生まれ。早稲田大学第一文学部文学科卒業、同大学院文学研究科日本語日本文化専攻博士後期課程満期退学。オフィス北野所属。お笑いコンビ「米粒写経」として活躍する一方、早稲田大学、一橋大学、成城大学の非常勤講師や、早稲田大学エクステンションセンターの講師も務める、日本初の学者芸人。ラジオ番組のレギュラー出演のほか、週刊誌、月刊誌などでの雑誌連載も多数。著書に『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』、『ヘンな論文』(共に角川文庫)ほか。
取材・文:萩原 雄太
1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。
撮影:加藤 甫
編集:Camp 横田大
取材・撮影協力:早稲田大学提携 国際学生寮WID早稲田( http://wasedalife.com/bukken/widwaseda/


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