Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早大生なら一度は行くべき 『銭湯図解』塩谷歩波が勧める早稲田の湯3選

SNSに投稿した1枚のイラストが話題を呼び、ついには『銭湯図解』(中央公論新社)を出版。『情熱大陸』(TBS系)や『人生デザイン U-29』(NHK Eテレ)など多くのメディアにも出演した、番頭・イラストレーターの塩谷歩波(えんや・ほなみ)さん(2015年大学院創造理工学研究科修士課程修了)。

前編では、建築一筋の青春時代から、銭湯に出合い『銭湯図解』を描くまでの塩谷さんがたどってきた紆余うよ曲折のキャリアを振り返るとともに、「受け入れてくれる場所」としての銭湯の魅力を語っていただきました。

後編では、塩谷さんと共に、早稲田界隈かいわいにあるお勧めの銭湯を3軒巡ります。昔ながらの味わい深い銭湯から、早大生におなじみのあの銭湯、そしてサウナ好きの間で有名なピッカピカの銭湯まで、たった460円で楽しめる「天国」へ行きましょう!

金魚が泳ぐ池があるレトロ銭湯 金泉湯

早稲田通りから「地蔵横丁」という路地を入ったところにある「金泉湯」は、曲線状の唐破風からはふの屋根、生い茂る緑、そして「湯っ足り気分でストレス解消」と書かれたレトロな看板…と、まるで時間が止まったかのように、昔ながらの趣が残されています。ここは、塩谷さんにとって学生時代の思い出がよみがえる懐かしい銭湯でした。

塩谷
前編でも少しお話したように、学生時代は、課題をこなしたり、友達と設計について話したりして、しょっちゅう建築設計スタジオに泊まり込んでいました。10日間くらい連続で泊まったこともありますよ(笑)。

そんな時によくお世話になっていたのが、西早稲田キャンパスと早稲田キャンパスのちょうど中間ぐらいにある金泉湯でした。

池と緑に包まれた中庭を眺めつつ女湯へ。高い天井が生み出す広々とした空間が出迎えてくれました。

塩谷
当時の私にとって銭湯は家風呂の代わりという感覚しかありませんでした。今は普通のお湯、水風呂、サウナなどに浸かり、交互浴(温かいお湯と水風呂に交互に入る入浴法)をしながら1時間30分ほど入っていますが、当時は水風呂も入らずに30分ほどで上がっていました。銭湯を使いこなせていませんでしたね。
それに、今のように銭湯でコミュニケーションを取る、なんていうことも全くなかった。おばさんたちが怖くて、全然話せなかったんです…。

女湯の中には、半露天の小さなお風呂があり、まるで個室のような空間。ここでは「ラベンダー」や「米ぬか」など、週替わりで異なったお風呂を楽しむことができます。

塩谷
そうそう! 当時、一番の楽しみだったのがこのお風呂でした。友達と、「今日は何のお風呂かな?」と話していた記憶があります。あ、徹夜続きだったとき、友達がシャワーを浴びている最中に寝てしまったのも金泉湯でした(笑)。懐かしい思い出ですね。

銭湯に来る前は、お湯に浸かってスッキリとした頭で作業をしようと思っていたのに、お風呂から上がると体が温まって寝てしまうことばかり(笑)。学生っぽい時間の使い方をしていましたね。

営業時間前に行わせてもらったこの日の取材。塩谷さんが、普段は入ることのできない男湯に足を踏み入れると、そこには意外な事実が広がっていました。

塩谷
えっ!? 広〜い!

そう、金泉湯では、男湯の方が女湯よりもゆったりとした造りになっており、浴槽の横には、金魚の泳ぐ池まで作られていました。同じ料金なのに、男性客の方がお得なんじゃ…。

塩谷
銭湯の利用客は女性よりも男性の方が圧倒的に多いんです。3:7くらいの割合ですね。だから、設備も男湯の方が充実していることが多い。女性としてはやりきれないですよね…。
銭湯図解として金泉湯を描くなら、金魚がかわいい男湯を描くと思います。それと、休憩スペースから見える中庭の池ですね。当時、建築を専攻する男女何人かで来ていたので、男友達とはこの池の前で集合していました。

金泉湯のご主人にお話を伺うと、昔と比べてお客さんの数は半分ほどに減少してしまったそう。かつては、西早稲田キャンパスの近くに「桜湯」や、フォークソング『神田川』で「♪二人で行った横丁の風呂屋」と歌われた「安兵衛湯」などがありましたが、時代の流れに逆らうことはできず、閉店に追い込まれてしまいました。

まるで田舎にやってきたかのような安心感で迎えてくれる金泉湯には、今でも早い時間は地元の住民、夜になると学生たちが多く訪れ、一日の疲れを癒やしていきます。

INFO

■金泉湯

住  所: 新宿区西早稲田2-16-20

アクセス: JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線「高田馬場」駅下車、徒歩約10分
東京メトロ副都心線「西早稲田」駅下車、徒歩約6分

電話番号: 03-3203-2427

営業日時: 14:30~24:00

休  日: 月曜

愛すべき建築漬けの日々と 「建築家にならなきゃ」という呪い

塩谷さんの思い出深い金泉湯を後にしてやってきたのが、早稲田通り沿い・早稲田キャンパス西門近くにある「松の湯」です。しかし、学生時代、塩谷さんが松の湯を訪れたのはわずか1回だけ。そこには早大生らしい理由があったそうです…。

塩谷
西早稲田キャンパスは、わが家のような感覚だったので、すっぴん・寝間着姿でも歩くことができました。けれども、早稲田キャンパスや戸山キャンパスは、お化粧をしないと行けない場所。リア充早大生がいっぱいいる…と、なかなか近寄れなかったんです(笑)。だから松の湯にも、たまたま早稲田キャンパスに用事があった時に、1回足を運んだだけでしたね。

でも最近、銭湯好きの友達から、「松の湯の水風呂が良いよ」と勧められることもあって、また来たいなと思っていたところでした。

西早稲田キャンパスに通う学生にとって、そんな引け目を感じる早稲田キャンパスエリアにある松の湯。いざ浴室に入ってみると、壁画として描かれたタンチョウヅルが羽ばたく大きなモザイク絵が目に飛び込んできました。

かつては天草の風景を描いたタイル絵だったものの、23年前、リニューアルをするにあたってタイル絵も変更したそうです。では、なぜタンチョウヅルを選んだのでしょうか? 店主に伺うと、その理由は「施工業者に勧められたから」…意外とこだわりがない!

塩谷
そもそも、銭湯のご主人は、熱い思いを語らない人も多いんです。とても強いこだわりがあっても、不器用だからかなかなか話してくれない…。

でも、デザインされた発信力のある銭湯よりも、うまく言葉にならない不器用な銭湯の方が愛着を感じてしまう。だから、取材をする時には粘り強く話を聞いていますね。

そんな松の湯の中をぐるりと見渡してみると、いろいろと気になるものが飛び込んできます。中でも、塩谷さんの目に留まったのは、ある小さなパーツ…。どうやら、カランのレバーが気になるようです。

塩谷
レバーで押すタイプの蛇口は、関西ではよく見ますが関東では珍しいんです。あ、取っ手のところが球になっている! これは初めて見ました!!

そして、男湯ものぞいてみると、塩谷さんが気になったのは打たせ湯でした。一見すると普通の打たせ湯ですが、なぜか向かい合って設置されている…。

塩谷
この打たせ湯、最高に味がありますよねぇ。いろいろと突っ込みどころがあるし、不器用な部分もあって愛らしい銭湯ですね。図解として描くなら、この打たせ湯を中心に、そんな“不器用さ”を描きたいです。

創業70年を経た「不器用な銭湯」、松の湯。店主は冗舌には語らないものの、その裏側には、さまざまな物語が眠っているようです。

INFO

■松の湯

住  所: 新宿区西早稲田1-4-12

アクセス: 東京メトロ東西線「早稲田」駅下車、徒歩約5分

電話番号: 03-3203-1655

営業日時: 15:00~25:00

休  日: 月曜

「こうなりたい」より「こうありたい」 葛藤してたどり着いた自分の道

そして、最後に巡るのは、早稲田大学から早稲田通りを高田馬場駅方面へ向かい、山手線を越えた神田川沿いの住宅街にある「世界湯」です。マンションの1階に入っているこの銭湯は、塩谷さんにとっても初めての銭湯。しかし、以前、サウナ好きの友達から「一度は行くべき」と勧められたことがあり、絶対に訪れてみたいと思っていたそう。

一歩、銭湯に入ってみると、ピッカピカの内装に驚かされます。10年ほど前にリニューアルを行ったそうですが、昨年オープンしたと言われても遜色がないほどの清潔感。

浴室の特徴の一つとして挙げられるのがタイル絵。「世界湯」の名の通り、男湯はイグアスの滝、女湯はマッターホルンという世界の名所が描かれています。しかし、塩谷さんが注目したのは、その下にある電気風呂でした。

塩谷
この揉兵衛じゅうべえ」という電気風呂は、いま、銭湯好きの間でとても評判がいいんです。もむ、押す、たたくの3パターンでマッサージをしてくれて、コリもほぐれる。一番気持ちいい電気風呂ですね。

では、お待ちかねのサウナに入ってみましょう!  

塩谷
あ、コンフォートサウナだ!

普通のサウナは湿度が低いものの、世界湯に設置されているコンフォートサウナは、蒸気を発生させて高い湿度を維持してくれるサウナ。扉を開けるとヒノキの心地よい香りが漂ってきました。

しかし、塩谷さんに残念なお知らせが…。サウナがあるのは男湯のみで、女湯にサウナはないそうです。

塩谷
え! そうなんですね…。男性の方、いいなぁ。

ただ、女性の脱衣所には天然アロマがアメニティーとして用意されています。

また、ベビーベッドが設置されていたり、全館バリアフリー対応で、浴室の入り口まで段差なく移動できたりするなど、誰もが利用しやすいように工夫されています。さらに、電子決済「ペイペイ」を導入し、キャッシュレス対応を進めるなど、先進的な取り組みも行っています。

塩谷
女湯にサウナがないのは少し残念ですが、館内はピカピカだし、アメニティーも充実しているし、随所に心配りも感じられます。近所にあったら使いやすいお風呂ですね。

以前、大阪で入った銭湯にマスクが置いてあり、お風呂上がりにスッピンで帰るのにうれしいサービスだなと感動したことがありました。そういった、それぞれの銭湯のいいところを小杉湯にもどんどん取り入れたいと思っているので、仕事柄、アメニティーにも目が行きますね。

ご主人・綾部晃充さんにお話を伺うと、世界湯は地元のお年寄りばかりでなく、早稲田大学や高田馬場にキャンパスのある大学の学生、日本語学校に通う留学生にも多く利用されているそうです。またスポーツジムや格闘技の道場が近くにあり、その帰りに汗を流していくお客さんも多いとか。

ご主人の綾部さん

また、綾部さんは、新宿区の銭湯を引っ張る存在としてさまざまな取り組みを実施。新宿区にある銭湯のショップカードを作成したり、新宿区浴場組合の公式ゆるキャラである「ゆげじい」を制作し、イベントにも登場。さらには子どもたちに銭湯の魅力を伝えるために、ゆげじいの文房具を配布するなど、銭湯の普及に全力を傾けている人物です。

塩谷
綾部さんの取り組みは、銭湯に関わる者としてとても勉強になりました。綾部さんの銭湯を盛り上げようとしている姿を見ると、応援したくなるし、私自身も刺激を受けます。もしも世界湯を描くとしたら、そんな「人」の部分をメインに描きたいですね。

お風呂の気持ち良さもさることながら、ご主人の存在も世界湯の魅力の一つとなっているようです。

INFO

■世界湯

住  所: 新宿区高田馬場3-8-31

アクセス: JR山手線・西武新宿線・東京メトロ東西線「高田馬場」駅下車、徒歩約7分

電話番号: 03-3371-2409

営業日時: 15:00~25:00

休  日: 木曜

この他にも、早稲田大学周辺には早稲田キャンパス正門からほど近い「鶴巻湯」や、都電早稲田駅から神田川を渡った場所にある「豊川浴泉」など、個性あふれる銭湯が数多く営業を行っています。

塩谷
早大生なら、一度は銭湯に足を運んでほしいですね。特に、学生時代には就活をはじめ、自分ではどうにもならないもどかしさを感じることも多い。うまくいかなくて悩んでいる時には絶対に銭湯に行くべき。特に、日差しが入ってくるような明るい時間帯がオススメです。

湯船に浸かり、サウナに入り、水風呂に入る…それを何度か繰り返して、お風呂上がりに水分補給をしたら、気持ちもスッキリします。悩んでいることも、大体何とかなりますよ!
INFO

■鶴巻湯

住  所: 新宿区早稲田鶴巻町533

アクセス: 東京メトロ東西線「早稲田」駅下車、徒歩約5分

電話番号: 03-3203-1834

営業日時: 15:00~23:00

休  日: 火曜・土曜

INFO

■豊川浴泉

住  所: 文京区目白台1-13-1

アクセス: 都電荒川線「早稲田」駅下車、徒歩約5分

電話番号: 03-3941-7856

営業日時: 16:00~23:30

休  日: 月曜・金曜

※掲載情報は2019年7月時点のものです

プロフィール

塩谷 歩波(えんや・ほなみ)

1990年東京都生まれ。高円寺の銭湯・小杉湯の番頭兼イラストレーター。銭湯再興プロジェクト主宰。早稲田大学大学院創造理工学研究科(建築学専攻)修士課程修了後、有名設計事務所に勤めるも体調を崩し、休職を余儀なくされる。休職中に出合った銭湯に救われ、銭湯内部を俯瞰ふかん図で描いたイラスト「銭湯図解」をSNS上で発表。これが話題となり、2019年2月に『銭湯図解』(中央公論社)を出版。『情熱大陸』(TBS系)や『人生デザイン U-29』(NHK Eテレ)など多くのメディアに取り上げられる。現在、雑誌『旅の手帖』で「百年銭湯」を連載中。好きな水風呂の温度は16度。

取材・文:萩原 雄太

1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。http://www.kamomemachine.com/
撮影:加藤 甫
編集:横田 大、裏谷 文野(Camp)
デザイン:中屋 辰平、PRMO
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