Waseda Weekly早稲田ウィークリー

セクシュアルマイノリティ自分史 ブルボンヌ × 森山准教授“LGBT”談義

日本最大のセクシュアルマイノリティの祭典「東京レインボープライド」の総合司会をはじめ、テレビなどでも活躍しているブルボンヌさん(第一文学部出身)と、文学学術院の森山至貴准教授。セクシュアルマイノリティの当事者同士による対談の後編は、LGBTを巡る言葉の問題、テレビを中心としたメディアでのLGBTブームについて、ゲイとエロといった話題が展開された前編に続き、お二人の個人史や、自己肯定感の持ち方などにもトピックが及びました。

オネエタレントが一般的になり、『きのう何食べた?』(テレビ東京)や『おっさんずラブ』(テレビ朝日)などのドラマが社会現象を巻き起こす中、セクシュアルマイノリティの当事者として人生を歩んできたお二人のこれまで、そして今感じていることとは?

「自己肯定感」なんか持っていなくても 生きていける

お二人は学生のころに、自身のセクシュアリティに関して悩みを抱えていたのでしょうか?

森山
私はなぜか、若いころから自分のセクシュアル・アイデンティティについてはあまり悩むことはなかったですね。だから、セクシュアリティに関して「悩んでいたけど吹っ切れました」みたいな経験もなかったんです。
ブルボンヌ
じゃあ、自分自身がゲイであることも否定的には捉えなかった?
森山
そうですね。
ブルボンヌ
私は自分自身のことを否定こそしなかったけど、当時は岐阜の田舎にいてゲイの先輩たちの存在も知らなかったから、漠然と「生きづらいだろうな…」という不安は感じていました。

ただ、高校生のころにゲイ雑誌の存在を知って、自分以外にこんなに多くのゲイがいることを知ることができた。それで、安心することができましたね。

雑誌によって同じセクシュアリティを抱えた人々がいることを知り、救われたんですね。

ブルボンヌ
今のようにネットもなく、自分みたいな人が他にどれくらいいるのかも分からなかった時代だからね。私の世代では、そんなときに、自分が「間違った存在」だと思っちゃう人も多かったんです。

今でも「自分が間違った存在なんじゃないか」「周囲がどう感じるか」「社会からどう対応されるのか」などと不安を覚える学生は多く、早稲田大学にあるGSセンター(https://www.waseda.jp/inst/gscenter/)にもそのような相談が寄せられることもしばしばです。お二人は、どのようにそんな否定的な感情を乗り越えていけばいいと思いますか?

ブルボンヌ
私の場合、一番、自分を変化させてくれたのは実体験でした。田舎から早稲田に進学し、ゲイのイベント会場で1,000人〜2,000人のゲイが楽しそうに踊っている場所に触れた。さらに昔は2丁目でも隠れるようにすぐに店内に入っていたゲイたちが、通りを歩くようになった。20年前、アキさんという2丁目の伝説のような方が始めた「東京レインボー祭り」(※)で初回の司会を務めたんですが、セクシュアリティの入り交じったお客さんが路上にあふれ、2丁目の空にサプライズで花火が上がったんです。その瞬間嗚咽おえつするほど泣き崩れて、色んなものが広がる時代の転換点を感じました。

※ 新宿2丁目振興会が主催する周辺飲食店の人々がさまざまなパフォーマンスを披露し、町内をパレードするイベント。毎年夏に行われ2019年8月で第20回を迎えた。

ブルボンヌさんがプロデュースするセクシュアリティを問わず入れる新宿2丁目のMIXバー『Campy! bar』

もちろん、知識を得ることも大事だけど、行動し、実感することが大事。自分で実際に体験することによって心を変えていくことが一番じゃないかな?
森山
私は大学で、知識や理屈を教えることを仕事にしています。なぜ知識が大切かといえば、攻撃をしてくる人から身を守るため。文字通り「理論武装」なんです。
ブルボンヌ
足をすくおうとする、でも権威とか理論に弱い人から、自分たちを守るためにね。
森山
しかし、それが必ずしも、自分を肯定することに直結するとは限らないし、直結させる必要もないと思っています。知識や理屈の教育が「自己肯定しろ」と言う学生への脅迫になってはいけないですしね。なにより、ブルボンヌさんのお話のように、自分で自分を受け入れることは、コツコツと階段を上るようにして達成することとは限らないし、あるとき、ふと「あ、自分は大丈夫だ」と思ってあっけなく達成してしまうことでもありますよね。理論武装だけが、自分を肯定する方法ではないと思います。
ブルボンヌ
うんうん。本人が自分を好きになれるときって、分厚い本を読んでいるときじゃなくて、大好きな人に「お前はかわいいよ」って抱きしめられるときでしょ。それって、セクシュアルマイノリティに限ったことじゃなく、誰だってそうだよね。
森山
私自身は「分厚い本」を読んで一人で自己肯定できちゃうタイプでもあり(苦笑)、そういう学生にも親近感を抱きますが、そもそも自己肯定が必要かな、とも思うんです。セクシュアルマイノリティに関する当事者の「成功談」に接して「自分で自分を肯定して、間違っていないと思えないと幸せになれない」って思い込んじゃう学生が多くて、よく「どうやったら自己肯定感を持てるのか?」って聞かれます。でもそもそも、異性愛者だってシスジェンダー(※出生時に割り当てられた性別と同じ性自認を生きる人)だって、みんな自分はダメだって思いながら生きていますよね。
森山
だから、自己肯定感なんか持っていなくても生きていけるから大丈夫なんですよ。「自分を認めなきゃ」と強迫観念を抱える方がしんどい。

自分のことを肯定できない学生がいたら、「そんなに立派な人間にあなたがならなきゃいけないと私は思っていないし、ならなくても幸せにはなれる。立派じゃなくて大丈夫だよ」と言ってあげたいですね。
ブルボンヌ
そもそも、自己肯定って「ダメな自分も含めて認めよう」ってことなのに、変なパラドックスになっちゃってるよね。

自分が「幸せだな」と思えるまで カミングアウトする必要なんてない

また、自分の親に対してカミングアウトする怖さを口にする学生も少なくありません。お二人は、どのようにカミングアウトの問題について考えますか?

ブルボンヌ
親問題ねぇ~。私も、こんな生きざまなのに30歳を過ぎないと言えなかったんです。だから、親に言えない気持ちは本当に分かる。だって、親に言うと取り返しがつかないし、ダメだったときにはずっとそれを引きずらなきゃいけない。パンドラのはこを開けたくないって思うのは普通だよね。

ただ、自分がネガティブに考えているうちは、ネガティブな結果ばかりが見えてしまうもの。ケロッとしている人は、ケロッとした情報として相手に伝えられるから、相手も「ああそうなの? 楽しそうね」と受け入れてくれることも多い。

自分が「罪の告白」みたいに話をしちゃったら、相手も「そんなつらい人生なんだ…」ってネガティブに受け取ってしまうのは自然なことだもんね。
どうしても親に言えない人は、自分が「幸せな自分の生き様を親に伝えて安心させてあげたい」って思えるまで、自分が育つのを待つのもいいんじゃないかな? それができないうちは、親からしても「この子はつらい人生を歩むんだ…」って思わせちゃって、むしろかわいそうかもしれない。

ブルボンヌさんの場合、そのタイミングが30歳を超えてからだったんですね。

ブルボンヌ
そう。それからは、変な友達をいっぱい紹介して、親も交えてゲイの友達と一緒に旅行したり、楽しいことをいっぱい見せるようにしています。

だから今はカミングアウトして本当によかったと思う。ただ、誰もがうちみたいな理解のある親とも限らないから、一概に「親にカミングアウトしなさい」とは言えないよね。

親世代には、セクシュアルマイノリティに対する抵抗がある人も多いのでしょうか?

ブルボンヌ
うん。私が講演などで親世代に対していつも言うのが、「子どもたちは自分で選んだのではない葛藤を抱えている。それを生みの親が否定しちゃったら、子どもは存在を否定されたような気持ちになってしまう」ということ。

例えば、いじめ問題でも、学校でいじめられたらまずはいじめっ子を批判しますよね。中傷したり排除する子たちの悪さを感じて、子を守ろうと考えるのが大半でしょう。それが、LGBT問題になるとまだ多くの親が「そんな風に育つなんて」「世間さまに顔向けできない」と思い、自分の子どもを真っ先にダメ出ししちゃうんです。「その子の存在を認めてない社会が悪い」「社会にうちの子がいじめられてる」って思えない。

だから、親御さん世代にまず「あんたがまず守ってやらなくてどうすんのよ」と伝えているんです。
森山
カミングアウトはやはり簡単な問題ではないですよね。私は、親に対してカミングアウトしなきゃ、それこそが取り組むべき課題だ、という感覚を解除したいし、親にカミングアウトしない、できない人を無視しない形で、セクシュアルマイノリティの権利や幸福の話をしたいな、とは思っています。
ブルボンヌ
そういうパターンも多いのよね。
森山
親との関係を大事にしたい気持ちはわかるのですが、セクシュアルマイノリティの持つそういった良心が自己を苦しめるのならば、そのかせを緩める考えがあってもいいと思うんですよね。結局のところ、親は親だし、自分は自分で、お互いに別の人間じゃないですか。
ブルボンヌ
うんうん。親と切り離してあげるのも大事ですよね。親子って大きいつながりだけど、個人差も大きい。自分は親に言うことに意味があったし、言ったことで肯定感が増して、なんでも話せるようになった。けれども、それを求めてない関係なら別にカミングアウトなんて要らないんじゃないかな?

タブー視される「性」の話題

お二人は、今後、LGBTをはじめとするセクシュアルマイノリティを巡っては、どのような形になるのが理想的だと思いますか?

ブルボンヌ
そうねえ。女性に参政権がある時代とない時代とだったらある時代の方がいいし、黒人が座る席とそれ以外が完全に分けられている世界よりもそうじゃない世界の方がいい。だけどゴールが何かははっきりとは言えないし、人間の野蛮さを抜きに理想のユートピアを目指したら、どこかに歪みが出てしまうもの。福祉が手厚く、リベラルの理想の形とされやすい北欧でも極右政党が躍進しているくらいだしね。

最近って何かと二極化が激しいじゃないですか。私は男性性も女性性も使い分けるし、ゲイの当事者でありメディア側の事情もある程度分かるから、いつも中間の気持ち。どっちつかずのコウモリですよ。コウモリって嫌われるんですけど、その役割を全うしよう、って。だから「理想」を求めていくよりも、多くの人が適切なバランス感覚を持つことの方が必要だと思う。そうしないと、どちらかの思想に凝り固まるだけだし、どっち側にしろ強烈な人って怖いでしょ? 

「理想」よりも、柔軟なバランス感覚の方が大切。

ブルボンヌ
だから「理想」について厳密に定義していくよりも、ある程度の理想を持ちつつ、そこに到達するルートを考えることの方が必要だと思います。理想に向かって真っすぐには進めません。

地図に例えたら、目的地まで最短ルートで真っすぐ行くんじゃなくて、「いや、ここ岩あるじゃん」「ここはさすがに迂回うかいした方がいいだろうよ」って考えていかないと、理想に到達することはできないよね。

現実にある問題とすり合わせながらだんだんと理想に近づいていく、ということですね。森山先生は著書の中で「誰も差別せず、なんでもありだと認めれば十分」という倫理的な態度では不十分だと記していますね。

森山先生の著書『LGBTを読みとくーークィア・スタディー入門』(ちくま新書)

森山
「なんでもあり」って、地図の比喩で言えば、「地図をあげたからどこへでも行けますよ、お好きにどうぞ」って言うようなもの。あまりにも不親切だし無神経なんです。

私の仕事は、「地図の上ではこうなんだけど、実際はこういう地形がある」「ここは通りにくいからこっちに行った方がいい」と指摘していくこと。それによって、みんなが歩きやすくなっていくことだと思っています。

では、当事者もそうでない人も、セクシュアルマイノリティについて考えることは、どのような方向で人生にプラスをもたらしてくれると思いますか?

ブルボンヌ
今日の話でも「LGBT」というワードが何回も出てくるけど、最近、「SOGI(セクシュアル・オリエンテーション・ジェンダー・アイデンティティ)」という言葉が普及してきています。最初は、「LGBTじゃなくて、また別の4文字かよ、面倒くさい…」って思ったりもしたんだけど(笑)。

LGBTはセクシュアルマイノリティをカテゴライズする言葉ですが、SOGIは性的指向と性自認を意味する言葉。このフレームを使うことによって、男女という枠組みではなく「男性が好き」といった指向や「自分は男」といった性自認について考えやすくなります。

ブルボンヌ
LGBTの話をすると、ストレートの人にとっては「自分とは関係ないちょっと変な種族の人たち」みたいな話になってしまいますよね。それを知ろうっていうのは生き物図鑑を見るように「こんな生き物がいるんだね」っていう発想になってしまいがち。

でもSOGIは人間全員が持っているもの。その中で、私のセクシュアルオリエンテーションは同性の男性であり、特にがっちりした毛深い人が好きということでしかない。誰もがSOGIを持っているし、誰もがその中で悩んでいるんです。

この考えを使うと、「女はこうあるべき」「男はこうあるべき」といった押しつけから自由になれるし、そこから外れても、自分を否定する必要がなくなります。そして、自分をより肯定的に理解し、他人に対しても寛容になれるかもしれない。それは、結果的にセクシュアルマイノリティに対する差別をなくすことにもつながっていくことでしょう。

森山先生はいかがでしょうか? LGBTについて考えることがどういう風に人生でプラスの方向に働くと思いますか?

森山
そうですね…。「LGBTについて考えたら自分の人生が豊かになりました」と非当事者に言われたら、ちょっと言い返したくなると思いますが…。

当事者として、とても重要な指摘ですね。

森山
別に「LGBT」は、マジョリティの生活を豊かにするために存在するわけではないですからね。他方で「自分の生き方とは関係させず、LGBTの人のことだけ考えるべき」という感覚は、それはそれで「LGBT」を「生き物図鑑」の中だけにいる人と見なす感覚に結びついてもいる。「LGBT」について考えていくことは、性を通じて自分のことと他人のことを行き来して考えていくことであるはずだし、あるべきなんです。「自分のこと」か「他人のこと」のどちらかとしてしか考えられない人なら、あまりにも浅いと思います。

そもそも、性に関してに限らず他人とのコミュニケーションは「相手はどうされたいのか?」「その相手と一緒にいる自分はどうしたいのか?」という行き来によって成り立っています。そのやり取りを通じて、人生を豊かにしていくことができるんです。

みんな普段からそういうコミュニケーションを取っているはずなのに、どうして性の話題となると途端に「自分のこと」か「他人のこと」としてしか考えられなくなってしまうんでしょうね?

そもそも「性」に対する話題が一種のタブーとされているからこそ、そんな偏りが生まれてくるのかもしれません。

ブルボンヌ
それが一番大きいかもね。「性」についての話題は共有すべきじゃない、って思うところから、LGBTへのひずみも、女性への歪みも、男性らしさという歪みも起こっているのかも。

だってバリバリ働く奥さんがいたら、男だって「主夫」という選択肢を選んでもいいはずでしょ? それがなかなかできないのは「男性が家を守るなんて恥ずかしい」というイメージに縛られているから。そこから外れた自分は男としてダメなんだ、とネガティブに見てしまいがちなんです。

性のあり方ってもっと自由で多様なもの。性のありようも矛先もいろいろなんです。だから外れたときに否定する必要なんてない。LGBTに限らず、性全般について、ポジティブに考えていってほしいと思います。LGBTやSOGIについて知っておくことって、人間関係や仕事の発想力にもプラスになる良いスキルだと思うのよ。
森山
いろいろなあり方がある、色んな風でいてよい、という考え方自体が、とてもポジティブなものであるということは私も伝えていきたいですね。ただ、この考えを自分自身に適用して自己肯定するのは、人によってはけっこう難しい。自己肯定は難しいけど他者肯定は簡単にできるので、他者肯定をもっとみんなが大盤振る舞いしていくといいですよね。最近は、かなり意識して他者肯定に取り組むようにしています。
ブルボンヌ
私も近年はそうしています。とにかく人を褒める! 他者から「あなた、いい人よ」と言われれば、自己肯定につながるかもしれませんよね。私自身は決していい人じゃないんだけど、いい人じゃないところも含めて自分が好き!
森山
ハハハ!(笑)
プロフィール

ブルボンヌ

女装パフォーマー/ライター。1971年、岐阜県出身。1990年早稲田大学第一文学部に入学、在学中にゲイのためのパソコン通信ネットワークを立ち上げる。その後、ドラァグクイーンとして全国のイベントやパレード、映画のキャンペーンなどに参加。同時に、ゲイ雑誌『Badi』の編集主幹、ライター、エッセイストとして女性誌、映画雑誌、週刊誌などに連載、寄稿。現在はメディア・イベントへの出演・連載、新宿2丁目のMIXバー『Campy! bar』プロデュースするほか、女装パフォーマー集団「Campy!ガールズ」のメンバーとして全国のクラブイベント、各種メディアでも活躍。LGBTや性の問題に関する講演活動も積極的に行っている。

森山至貴(もりやま・のりたか)

早稲田大学文学学術院准教授。専門は、社会学、クィア・スタディーズ。著書に『「ゲイコミュニテイ」の社会学』(勁草書房)、『LGBTを読みとくークィア・スタディーズ入門』(ちくま新書)。合唱曲の分野を中心とした作曲家としても活動する。

取材・文:萩原 雄太

1983年生まれ、かもめマシーン主宰。演出家・劇作家・フリーライター。早稲田大学在学中より演劇活動を開始。愛知県文化振興事業団が主催する『第13回AAF戯曲賞』、『利賀演劇人コンクール2016』優秀演出家賞、『浅草キッド「本業」読書感想文コンクール』優秀賞受賞。かもめマシーンの作品のほか、手塚夏子『私的解剖実験6 虚像からの旅立ち』にはパフォーマーとして出演。http://www.kamomemachine.com/
撮影:加藤 甫
編集:横田 大、裏谷 文野(Camp)
デザイン:中屋 辰平、PRMO
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