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特集

オンラインの劇場をつくる コロナ禍のどらま館で学生スタッフが奮起

早稲田小劇場どらま館企画 劇場運営に携わる「どらま館制作部」メンバー座談会

コロナ禍によって人と人とが接触することが難しくなり、数多くの産業がダメージを受けています。その一つが、舞台芸術の世界。人々が劇場に集まって同じ舞台を共有する。そんな舞台の魅力は、感染症の大きなリスクとなってしまったのです。2020年2月下旬から早稲田大学内にある小劇場「早稲田小劇場どらま館」(以下、どらま館)も利用を停止し、予定していた公演も中止することとなりました。その代わり、どらま館ではオンラインでの活動を熱心に展開。この動きを支えたのが、「どらま館制作部」としてどらま館の運営に携わる、SJC学生スタッフたちです。一体、彼らはどらま館をどのように見つめながらこの半年間を過ごしてきたのでしょうか? 学生スタッフの3人に話を聞きました。

南門通り沿いにある早稲田小劇場どらま館(右手前)。黒い外観は緞帳(どんちょう)をイメージしている

早稲田小劇場どらま館  SJC学生スタッフ「どらま館制作部」
制作班 文学部 4年 冨田 粥(とみた・かゆ)
制作班 文化構想学部 3年 重村 眞輝(しげむら・まさき)
デザイン班 文化構想学部 4年 葛綿 晴奈(かつわた・はるな)

どらま館を「避難所」のような場所にしたい

──今、どらま館には、何人の学生スタッフが関わっているのでしょうか?

冨田

「どらま館制作部」として制作班が6人、デザイン班が2人の、合わせて8人です。私の場合、昨年から制作班に関わるようになったのですが、早稲田で行われる演劇公演の情報を全て網羅し、どらま館のWebサイトを見れば早稲田演劇が分かるという形にしていくことが日常の仕事でした。というのも、早稲田には数多くの演劇サークルがあるのですが、サークルごとに独立して活動しているため、横断した交流が生まれにくい。そこで、どらま館がハブになり、各演劇サークルがつながっていく状況をつくろうとしています。ただ、2月下旬以降、新型コロナウイルスの影響で、早稲田での演劇公演がなくなってしまったために、この活動もなくなってしまいました。

重村

僕は、大学公認の演劇サークル「劇団こだま」(以下、こだま)の幹事長を務めているのですが、どらま館のスタッフの方と話した時に、劇場のあり方や各演劇サークルのあり方など、考えていることが共通していたんです。こだまが使っているアトリエもどらま館も、「場」としての側面があります。どらま館のスタッフは劇場を「演劇を上演する場」というだけでなく、「人が集う場」として捉えていました。僕も、「場」に対しての興味から、所属するこだまのアトリエを演劇公演以外の形で利用するイベントを計画していたんです。そこで、今年の4月からは学生スタッフとしてどらま館の運営に関わらせてもらうようになりました。

(左)舞台『ズーッとヅー』での冨田さん(写真左)。学外で舞台制作・俳優として活動している(撮影:月舘森)
(右)重村さんが出演する、こだまの2020年本公演『トランス』。10月13日から事前収録した映像を配信することに

葛綿

私の場合、制作班の2人と異なり、デザイン班でどらま館のポスターデザインなどのビジュアルを担当しています。ただ、私自身は、演劇をやったこともないし、ほとんど見たこともないんです。

──ほとんど演劇を見たことがなかった葛綿さんが、なぜどらま館に関わるようになったのでしょうか?

葛綿

私は、どらま館の運営にも関わっている岡室美奈子先生(文学学術院教授)のゼミに所属しています。先生からデザインができる人を探しているということを聞いて手を挙げました。どらま館のビジュアル制作に携わりながら、他の人と一緒につくることの面白さを感じています。他の場所でビジュアルをつくる場合、「こういうイメージのビジュアルをつくってほしい」と依頼されることがほとんどです。しかし、どらま館の場合は、コンセプトからデザイナーも加わって話し合います。今回、どらま館の年間ポスターをつくったのですが、どらま館のスタッフと学生スタッフが集まり、「どらま館のイメージはどのようなものか?」「どういう劇場にしていきたいのか?」ということから話し合いました。

──そこで話し合われた、どらま館のイメージとは?

葛綿

「上からの指令をただ聞くのではなく、そこに集ったそれぞれの人々が有機的に動いていくような場所」「閉じた場所ではなく、積極的に開いていく場所」そんなイメージですね。

冨田

演劇を行っている学生だけでなく、葛綿さんのように演劇と縁遠い人にとっても、どらま館が「アジール」(※)のような場所になったらいいねという話もしましたよね。そうして、みんなでコンセプトを詰めながらポスターをつくりました。ただ、春に完成した直後に構内が立入禁止になってしまったので、まだ倉庫に眠ったままなんです…。

(※)聖域、自由領域、避難所などと訳される特殊な領域

葛綿

Webサイトに画像としては掲載しているのですが、ポスターの実物は、印刷もリソグラフ(孔版印刷)を使い、色や紙質にもこだわっています。早く実物を見てもらいたいですね。

葛綿さんがデザインした、2020年のどらま館年間ポスターの一つ(クリックして拡大)

葛綿さんがビジュアル制作を担当した「【特集:VISIONS】2019年度どらま館企画『憲法と身体』を再考する」(左)、「円盤に乗る派ドラマゼミ『ウォーターフォールを追いかけて』」(右)

劇場の意味は「人が集まれる場所」

──大学が閉鎖中も、どらま館では積極的にオンラインイベントを実施してきました。これは、どのように発案されたのでしょうか?

冨田

制作部みんなで、この外出自粛期間をどのように使ったらいいかを話し合い、まず、オンラインの読書会から始めることにしたんです。この読書会という集まる機会を設けたことで、学生スタッフのみんなで企画を考えることができました。例えば、哲学者の鷲田清一さんの著書『待つということ』(角川選書)を読んだことで、現在、制作部企画として実施している、手紙を出して来るか分からない返事を待つという「書を捨てよ、どらま海にボトルメールを流そう」(以下、ボトルメール)につながりました。また、読書会という方法自体も「脱獄計画」という企画につながりました。これは、「いかにして演劇が行われていたのかを考え直し、これまでの透明であった状況から『脱獄』するための準備をする読書会」というコンセプトで、これまでに、フランスの文芸批評家であるロジェ・カイヨワの『遊びと人間』(講談社学術文庫)や、早稲田の大学院文学研究科でも教えている演劇研究者の内野儀さんの著書『メロドラマの逆襲―「私演劇」の80年代』(勁草書房)などを読んでいます。

(左)「書を捨てよ、どらま海にボトルメールを流そう
(右)「脱獄計画

冨田

また、主に新入生を対象にして「どらま館談話室」という企画も実施しています。どらま館の学生スタッフが、新入生からの「演劇サークルに入りたい」「大学に入学したけど不安…」といった相談に乗ったり、バイトのことや自分のことなど他愛のないおしゃべりをしたり。その上で、早稲田演劇サークルの紹介や演劇の配信コンテンツなどを紹介しています。

重村

コロナ禍以前は、週末にどらま館に行けば、必ず何かしらの演劇を観ることができました。それと同様に、Web上のどらま館でもいつでもイベントをやっているようにしたい。そうやって、人々が集まれる場所として機能していることが、劇場の意味だと思っています。

葛綿

私はデザイン班なのであまり企画には関わっていないのですが、制作班のSlack(コミュニケーションツール)ではいつもいろんな企画が動いている。その熱量は、傍から見ていても、本当にすごいと思います。それに、企画の中には、「ボトルメール」のように、私みたいにあまり演劇を見ない人間でも参加できるものもある。劇場に足を運べないときだからこそ、演劇に関係ない人間も関わりやすいんです。デザインする上でも、そんな人々に届くように意識していますね。

下の世代にどらま館を受け渡す

──10月からは、どらま館でも演劇の公演が再開されていく予定です。今後、どのように活動していきたいですか?

冨田

どらま館が目標にしているのは、単なる演劇の公演会場ではなく「人々のハブになれる場所」、そして、その先に「誰かにとっての落ち着ける場所」になれることを目指しています。それらの目標は、もしかしたら自分が早稲田にいる間には達成できず、長い時間をかけて実現することかもしれません。そのため、この目標を下の世代に伝え、運営の方法を受け渡していかなければならない。これからの半期は、企画のマニュアルをつくったりして、私たちの経験を下の世代に受け渡していくことを考えています。

重村

下の世代という意味では、新歓イベントを実施したり、新入生のためになる情報を発信するなどして、今年度の新入生も、例年通り演劇活動に踏み出せるような企画を考えています。今、僕が担当しているのが、2021年2月にどらま館で実施する演劇ユニットmatawaに密着した「エンゲキを“構想”する」という企画。文化構想学部4年生3人によって結成された彼らの創作過程を追うことで、新入生も演劇のつくり方を知ることができるようになる。そうして、演劇の魅力を伝えていきたいと思います。

重村さんが携わっている企画「エンゲキを“構想”する

冨田

どらま館の情報は、Webサイト以外にも「どらま館伝言板」というメルマガサービスで配信しています。ここからオンライン企画にも参加できるようになっているので、どらま館のこれからの動きについては、ぜひこちらで確認してください!

 

【プロフィール】
冨田 粥 北海道出身。道立北海道帯広柏葉高等学校卒業。文学部では演劇映像コースで学ぶ。2018年より主に学外で制作・俳優などとして演劇に携わる。現在は、「鉄くずについて」、「お布団」新作群制作プロジェクト「CCS/SC」に継続的に参加。2019年秋からどらま館学生スタッフ。

重村 眞輝 東京都出身。都立桜修館中等教育学校卒業。文化構想学部では表象・メディア論系で学ぶ。公認サークル「劇団こだま」(活動時の表記は「劇団“木霊”」)の2020年度幹事長で、主に役者・制作として公演に携わる。2020年4月からどらま館学生スタッフ。

葛綿 晴奈 千葉県出身。県立千葉東高等学校卒業。文化構想学部では表象・メディア論系で学び、幻影論ゼミに所属。桑沢デザイン研究所中退。イラストレーター、グラフィックデザイナーとして活動。2019年秋からどらま館学生スタッフとして、グラフィックデザインを担当。

取材・文:萩原雄太(2006年第二文学部卒、劇団「かもめマシーン」主宰)

早稲田小劇場どらま館とは

1966年に早稲田大学自由舞台出身の鈴木忠志、別役実、小野碩、高橋辰夫らが劇団早稲田小劇場を結成。同年10月に劇団の常打ち小屋「早稲田小劇場」を落成。その後、「早稲田銅鑼魔館」と名を変え民間経営されるようになる。1997年に早稲田大学が買い取り、「早稲田芸術文化プラザどらま館」として学生団体に貸し出すようになるものの、2012年に耐震強度不足のため閉館、同年夏に取り壊される。そして2015年4月30日、新劇場「早稲田小劇場どらま館」が開館し、公認サークルをはじめとする学内団体だけでなく、学外団体の公演やどらま館が企画する招へい公演・ワークショップなどを行ってきている。

2019年度新歓サークル座談会「#どらま館シンポ」の様子

活動の輪が広がることを期待

早稲田小劇場どらま館マネジメントスタッフ
宮崎 晋太朗(みやざき・しんたろう)

学生スタッフが「アジール」のような場所を目指すと話していましたが、オンラインでの『どらま館談話室』は、その第一歩です。演劇というメディアには、作品を上演するのと同時に、集まるという機能があります。その意味では、演劇を観るために移動する時間や、終演後に周囲と交わす会話も演劇体験の一部だと言えます。人が集い、作品に触れて話し、時に考える…そうした普段とは違う質の交流が生まれるのが劇場という場所ですが、そんな自分たちの“社交場”が「いま」ほしいという思いが『どらま館談話室』になりました。

このような学生スタッフの「どらま館制作部」としての取り組みが、演劇関係者に限らず少しでも多くの人に伝わり、活動の輪が広がっていったらと思います。コロナ禍によりどらま館での活動にはまだ制限がありますが、少しでも気になった方は、まずはオンラインイベントから参加してみてください!

どらま館談話室
■開催日時:2020年10月31日(土)・11月14日(土)・11月28日(土)
各回 15:00~17:00 ※12月以降も月2回のペースで開催予定
■対象者:主に演劇・文化芸術に関心のある1年生(2年生以上も可)
■使用言語:日本語
■定員:各回10名程度
■詳細:10月開催どらま館談話室
■最新情報:どらま館Twitter
■問い合わせ:どらま館制作部([email protected])(担当:伊藤・高本)
*お問い合わせの際は、件名に【談話室】、本文に氏名、大学、学年を添えてご連絡ください。

【次回フォーカス予告】10月19日(月)公開「WASEDA BEAR(ワセダベア)20周年特集」

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