2019年1月2日・3日に開催される正月の風物詩「箱根駅伝」(以下、箱根)。昨年度は、10月の「出雲全日本大学選抜駅伝競走」(以下、出雲)で9位、11月の「秩父宮賜杯全日本大学駅伝対校選手権大会」(以下、全日本)で7位と結果を出せなかったものの、箱根では総合3位に食い込む大健闘を見せ、次年度への期待を抱かせた早稲田大学競走部。ところが、今年度は出雲で10位、全日本では部史上最低の15位と、これまでは残念な結果が続いています。
伝統の早稲田はどのように巻き返すのか? 出雲、全日本をけがで離脱していた永山博基選手(スポーツ科学部4年)、太田智樹選手(スポーツ科学部3年)の両エースの回復は間に合うのか? スーパールーキーの中谷雄飛選手(スポーツ科学部1年)、千明龍之佑選手(スポーツ科学部1年)はエントリーするのか? また、何区を走るのか? 相楽豊監督と清水歓太主将(スポーツ科学部4年)を中心に、調整具合やレースへの決意などを聞きました。
「出雲・全日本と箱根とは全く別物。目標は3位以内」
競走部駅伝監督 相楽 豊(さがら・ゆたか)
――「三大駅伝(※)3位以内」を掲げて臨んだ今シーズン。出雲と全日本の結果をどう受け止めていますか?
今年は部員の半分以上が1、2年生ということもあり、「世代交代」が一つのテーマです。実際、出雲では6区間中5区間、全日本では8区間中7区間の選手が初出場でした。トレーニングの消化状況は過去のチームと遜色なく練習もできていたので、“戦えるはず”という手応えはあったのですが、結果的には経験不足の側面が出てしまったという印象です。ただ、この2度の苦い経験が力となって成長してくれることを期待しています。
(※)10月の出雲、11月の全日本、正月の箱根の3大会が「大学三大駅伝」と言われる。これまで3冠を達成しているのは大東文化大学(1990年度)、順天堂大学(2000年度)、早稲田大学(2010年度)、青山学院大学(2016年度)の4校のみ
――レースが終わった後に選手たちにかけた言葉は何だったのでしょうか?
「人間は失敗から何を学んで成長するかが大事」ということと、「自分たちが歩んできた道は、過去の先輩たちと比べても劣っていないのだから絶対に自信を失っちゃいけない。かといって危機感を持たないと箱根でも同じような結果になる」という話をしました。上級生には奮起を期待したいですし、下級生にはこれまでと変わらずフレッシュな気持ちでチャレンジしてほしい。そういうメンバーが融合したときに一番力を発揮するんです。
――出雲、全日本は1区間の距離は約10キロですが、箱根では約20キロと倍増します。その中で期待したい選手は?
やはり上級生、特に箱根を経験している永山博基、太田智樹、あとは新迫志希(スポーツ科学部3年)ですね。永山と太田は、けがの影響もあって今季の駅伝にはまだ出場できていませんので、箱根には例年以上に期するものがあると思います。また、一般入試の雑草軍団がコツコツと力を積み上げ、上級生になって箱根路を走ることが早稲田の伝統でもあります。その姿から、推薦入学のエリート軍団も刺激を受けて意識が変わり、大きな成果を出すことも珍しくありません。だからこそ、出雲・全日本と箱根とは全く別物なんです。今年も雑草軍団の候補が複数人います。昨年よりもそこは層が厚いと思っています。上級生がしっかり軸を固めて、勢いのある1年生たちが間を埋めるというチーム構成が理想です。
――あらためて、箱根駅伝の目標を教えてください。
出雲と全日本では厳しい結果になりましたが、チームのモチベーションは「こんなに悔しい思いはもうしたくない」と、落ち込むどころかむしろ上がったと感じています。ポテンシャルはあるメンバーですし、これまで体調不良や故障で離れていた選手が戻ってきて、チームの状態は右肩上がりです。あらためて「3位以内」を目標に臨みたいと思います。また、選手の中には「箱根駅伝がゴール」「陸上人生最後のレース」として臨む選手もいます。その最後の頑張りに、ぜひ沿道からでもテレビの前からでも構いませんので、注目していただければと思います。声援が私たちの力になります。
「上級生が下級生を引っ張り、最後の箱根は笑顔で終わりたい」
スポーツ科学部 4年 清水 歓太(しみず・かんた)主将 中央中等教育高等学校(群馬県)出身
――主将として、今季掲げているテーマは?
チームの目標は「三大駅伝3位以内」ですが、その上で個々の自主性や個性を大事にすることです。一人一人が考えて練習に取り組んでそれぞれの長所を伸ばしていけば、駅伝で集まっても強くなれる、というテーマで今年1年やってきました。
――出雲、全日本の結果を受けて、今のチーム状況は?
ここまでは「力不足」というのが正直な気持ちです。なぜそうなったのかを考えたとき、一番大事なのは上級生がしっかり結果を出すこと。そして、そのために、練習に対する姿勢をもう一度見直すべだと思いました。もっと上級生が下級生を引っ張っていかないと、いくら1年生の能力が高くてもその力を十分に発揮できません。あらためて上級生がしっかり声を出し合い、雰囲気も練習の質も向上させていこうと思っています。
――前回の箱根で、清水選手は9区区間賞(※)。あの経験を今回どう生かしたいですか?
区間賞と言っても、自分で勝ち取ったと言うより、周りが思ったより走れず転がり込んできた区間賞だと思っています。それでも、あの舞台で区間賞を取れたことは、自分の練習が間違っていなかったという確認の意味で大きい経験でした。そのおかげで、今年も考えがブレることなく、自信を持って練習できていると思います。
(※)同区間で一番速く走った選手に与えられる賞
――主将として迎える最後の駅伝です。意気込みは?
ここまで失敗のレースが続き、個人としてもチームとしても後がない状況です。自分のためにやり返すという気持ちも大事ですが、早稲田大学は多くの方からの支援で成り立っています。OBだけでなく、大学と関係のない人からも声を掛けてもらえる環境は素晴らしいことです。その期待と声援を裏切って終わりたくないという気持ちが一番にあります。自分のため、そして周りの人たちのためにも、最後は笑って終わりたいなと思います。
「けがの状態は順調に回復。任された区間を精一杯走るだけ」
スポーツ科学部 3年 太田 智樹(おおた・ともき) 浜松日体高等学校(静岡県)出身
――今年はエースとして期待されながら、出雲、全日本と故障の影響で走ることができませんでした。仲間たちのレースをどのように見ていましたか?
サポート側に回るのは久しぶりの経験でした。そのおかげで、どうしたらもっと良く走れるのかをあらためて考えることができましたし、サポートする側に立って、サポートしてもらうことのありがたさも分かりました。レースの結果として悔しい思いをした一方で、「たられば」の話になりますが、自分が走っていたらもう少し違う結果になっていたかな、という思いもあります。これまでチームに迷惑を掛けた分、箱根ではしっかり貢献したいと思います。
――どんな調整をして本番を迎えますか?
けがの状態は順調に回復しています。ただ、他の選手と比べて遅れも大きいので焦る部分もあります。でも、焦り過ぎて同じことを繰り返しては意味がありません。まずはじっくり脚をつくってから、徐々にスピードを上げて距離を増やしていきたいですね。僕自身は、エースというより縁の下の力持ちだと思っています。任された区間を精一杯走るだけです。箱根では、僕個人の走りよりもチームとしての走りに注目していただけるとうれしいです。
「強みの『安定した走り』で山登りの5区を走りたい」
スポーツ科学部 2年 吉田 匠(よしだ・たくみ) 洛南高等学校(京都府)出身
――自身のストロングポイントは?
高校時代から「安定した走り」が自分の強みだと思っています。どんなレースに出ても同じようなタイムで走り切ることができるタイプです。箱根ではそういう「外さない走り」が大事になるはずなので、自分の強みを全うしたいと思っています。また、今シーズンはかかと気味だった足の接地を、フラットに近付ける走り方に変えてレースに臨んでいます。実際、5000mでは自己ベストを出すことができました。ただ、まだ長い距離に完全には対応できていないので、箱根までの残された時間でしっかり調整していきたいです。
――箱根ではどの区間を走りたいですか?
前回大会まで安井雄一さん(2018年スポーツ科学部卒)が3年間務められた山登りの5区を走りたい、という目標があります。昨年、安井さんの走りを間近で見て、山をしっかり走れる人がいる安心感を、あらためて感じました。今年は自分がそういう存在になりたいと思っています。
「最初から突っ込んでいける、自分の走りをしたい」
スポーツ科学部 1年 中谷 雄飛(なかや・ゆうひ) 佐久長聖高等学校(長野県)出身
――出雲は3区を走って区間4位、全日本では3区で7人抜きをして区間2位でした。スーパールーキーと言われていますが、ここまでの駅伝結果をどう自己分析しますか?
実は、6月から8月終わりくらいまでうまく走れない時期があり、もどかしさを感じていました。そこから練習内容を見直した結果が出たのか、自分のリズムで最初から突っ込んでいけるという、本来の自分の持ち味を出せたのかなという感覚があります。
――「大学OBでもある大迫傑選手を目標としている」と常々発言していますね。
ちょうど大迫さんがマラソンの日本新記録を出したのが出雲駅伝の前日で、刺激を受けた部分はあると思います。これから走る大会では大迫さんよりも上の実績を出したいですし、その先には、大学在学中にオリンピックと世界陸上にトラック種目で出場する、という目標もあります。もちろん、出るだけじゃなくてしっかり勝負できるような選手になることが一番です。箱根でも任された区間で自分の走りをしたいと思います。
「憧れの大会。『全日本』の失敗は繰り返さない」
スポーツ科学部 1年 千明 龍之佑(ちぎら・りゅうのすけ) 東京農業大学第二高等学校(群馬県)出身
――全日本では1区を任されました。自分の走りをどう見ていますか?
区間12位という結果も含め、力を出し切ることができませんでした。大学駅伝の雰囲気に飲まれてしまった部分もあると思います。そこは慣れだと思うので、1度した失敗は2度繰り返さないようにしたいです。そのためには、スタート前にちょっとした不安でも取り除くことが大事です。日々の練習をしっかり消化し、箱根では不安要素をつぶしてスタートラインに立ちたいと思います。
――具体的に走ってみたい区間、どういった走りをしたい、というイメージは?
「最初からガンガン前で走っていける」という自分の持ち味を発揮できるのは往路だと思っています。小さい頃から見ていた憧れの大会ですのでとても楽しみですが、同時にいい意味でプレッシャーも感じています。「1年目だから、経験するだけでいい」ではなく、しっかり結果を残したいです。
その他のエントリー選手
■3年 伊澤 優人
■3年 真柄 光佑
■1年 向井 悠介
取材・文:オグマナオト(2002年、第二文学部卒業)Twitter:@oguman1977
撮影:石垣星児
箱根駅伝スペシャルイシューバックナンバー
【次回特集予告】2019年1月7日(月)公開「奨学金特集」