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改正刑法「強制性交罪」に足りない法的同意 学生はレイプドラッグに要注意

2017年6月、110年ぶりに性犯罪に関する刑法の改正案が国会で可決され、同年7月に施行されました。「強姦罪」を「強制性交罪」に名称変更し、また懲役の下限が3年から5年に引き上げられるなど、画期的な改正ではありますが、「今回の改正では落ちてしまった重要な論点がある」と話すのは、犯罪被害者支援などに取り組んできた弁護士の村田智子さん。日本の強制性交罪に「暴行脅迫要件があることが問題だ」と言います。強制性交罪は特別な犯罪ではありません。大学生の皆さんが知っておきたい性行為での”同意”とは? 強制性交罪はどうあるべきなのでしょうか? 村田さんに話を伺いました。

村田 智子(むらた・ともこ) 弁護士、日弁連被害者支援委員会副委員長。1991年、早稲田大学法学部卒業。1996年弁護士登録(48期)。東京弁護士会所属。2016年度東京弁護士会監事。現在、日弁連犯罪被害者支援委員会副委員長。主な活動は家事調停員(東京家庭裁判所)。性暴力救援センター・東京(SARC東京)理事など。

日本の強制性交罪の要件に欠落している「同意の有無」とは

 現行刑法の強制性交罪では、相手の抵抗を著しく困難にするほどの、かなり強度の暴行脅迫が無ければ強制性交とは認められません。しかし、性的欲求のみならず、支配欲や接触欲など、さまざまな欲求を満たす手段として性暴力が横行しているにもかかわらず、そのほとんどが性犯罪として刑罰を受けることはありません。声を上げられない性暴力被害者が多数いるのです。

日本の刑法の一番の問題は、強制性交罪に暴行脅迫要件があることです。性暴力とは本来「他者の意思に反して性行為を強要すること」で、お互いの同意がない性行為を全て含みます。法的な意味での同意とは、ただ単に「はい」と言う、あるいは抵抗しないということではありません。同意するための判断能力があり、また心身を脅かされていない状況での自発的な決定であることが必要です。性行為について正常に判断できない子どもに対する性行為や、成人でも暴力を加えられたり脅されている、また監禁された状況、社会的上下関係や支配関係の中で嫌だと言えない状況での性行為は性暴力なのです。強度な暴行脅迫がなくても、抵抗しなくても、相手が望まない、不利益を被るような性行為は全て強制性交罪として取り扱われるべきでしょう。

刑法改正の主なポイント

1.「強姦罪」を「強制性交罪」に名称を変更

今までの強姦罪は膣性交の強要のみが対象でした。改正により肛門・口腔性交も対象となったため、女性に限らずこれまで表に出てこなかった男性の被害者やLGBTなどへの性暴力被害も強姦罪と同等に扱われるようになりました。

2.強姦罪(強制性交罪)の懲役下限が3年から5年に引き上げ

強制性交罪では、情状酌量されない限り執行猶予が付かないことになりました。また、一般の強姦罪(強制性交罪)の下限が引き上げられたことにより、集団強姦罪の懲役下限4年は廃止されました。

3.強姦罪(強制性交罪)は親告罪から非親告罪に変更

これまでは被害者が告訴しなければ起訴されませんでしたが、告訴がなくても起訴されるようになりました。被害者は捜査機関などに訴えを断念するよう説得されたり、被疑者側の弁護士から執拗に告訴取り下げを迫られることもあり、告訴することは被害者にとって大きな壁となっていました。

4.監護者(親権を持つ者など)による性的行為への罰則を新設

親などの監護者が18歳未満の子どもにわいせつな行為をした場合は「監護者わいせつ罪」、性交などをした場合は「監護者性交罪」として罰せられることになりました。これまでの要件であった「暴行または脅迫」がなくても罰することができるという点で、画期的な規定。性的虐待を受けている子どもに対する救済の道が広がることが期待されます。

今回の刑法改正には施行3年を目処に見直しの検討を行うことが付則に盛り込まれた。今回通らなかった改正の実現に向けて、被害者や支援者が議論し、尽力している。

イギリスの刑法では100年以上前から「不同意性交=レイプ」 同意がなければ犯罪

イギリス視察で訪れたWESTMINSTER MAGISTRATES COURT(一般社団法人 Spring ブログより)

今年7月に、性暴力と刑法を考える会である一般社団法人 Springのメンバーと、イギリスへ視察に行きました。イギリスでは、1845年に被害者の同意がなかった性行為に対して有罪とする判決があり、それ以降、強姦罪(強制性交罪)成立に暴行・脅迫の要件は求めず、不同意性交を強制性交と定義しています。また、加害者が「被害者に合意があったと信じていた」と主張した場合でも、信じていたことに合理的な理由があることが必要とされています。例えば、夫婦や恋人などのパートナー間であっても、相手が望んでいなければ性暴力になります。イギリスでは有罪になる可能性が十分あるということです。

一方、日本では、残念ながら強制性交罪は暴行脅迫が加えられた場合のみ認められます。裁判では、被害者がどれだけ抵抗したかを問われ、これが被害者にとって高いハードルとなっています。しかもその暴行脅迫は、被害者の反抗を著しく困難にならしめるほど強度であることが要求されます。日本では不同意であっても性交しただけでは処罰されない仕組みになっているのです。例えば、大雪が降っている中、車から出られない状況で性行為を迫られ、応じてしまったという事案がありました。被害者は車から逃げられない状況でしたが、十分な抵抗をしていないから暴行脅迫とは言えないとして、本事案は不起訴となりました。

裁判まで持ち込んでも、こういった例が大変多く見られます。そこで、性暴力被害が性犯罪被害として認められるためには、二つの方法があると考えています。一つ目はイギリスと同じように強制性交罪から暴行脅迫要件を外すことです。もう一つは、新たに「不同意性交罪」を作るということです。現在の強制性交罪は、昨年の改正によって3年から5年以上の懲役に上がりましたが、暴行脅迫がない不同意性交は、例えば2年以上など、強制性交罪よりもやや軽い刑とし、二段構えにして罰する方法で、悪質な暴行脅迫と少し差を付けるというのは合理的な考え方だと思っています。法改正は、法律家がいくら頑張っても簡単に変えられるものではありません。世論の盛り上がりが不可欠ですので、不同意性交が性暴力であり、世界では立派な犯罪として扱われていることを広めていかなければいけないと考えています。

大学生が気を付けたい「レイプドラッグ」 大事なのは自衛

 私が理事を務める特定非営利活動法人 性暴力救援センター・東京(SARC東京)では、24時間ホットラインを開設し、性暴力に関する相談を受けています。そこで最近若い世代から多く寄せられているのが「レイプドラッグ被害」です。レイプドラッグとは、意識を失わせてレイプするために、飲食物に混ぜて使用する睡眠薬や抗不安薬などの薬物です。大学生になると飲み会の機会も増えると思いますが、医師から処方される睡眠薬のハルシオンなどをお酒に少量入れて飲まされ、意識を失って性行為をされたという話をよく聞きます。レイプドラック被害が多いアメリカの大学では、飲み会の途中でトイレなどに行くときは、必ず飲み干して行くか、お酒が残ったままの場合は、そのお酒は飲まずに新しいものを頼みなさいと言われているようです。そこまですると、相手や周囲の人を疑っているように思われますが、被害に遭わないためにはそのくらい自衛することが大事です。そして、万が一思い当たることがあれば、すぐに警察署に行ってください。睡眠薬の成分は遅くとも数日で体外に出てしまうため、尿検査を受けてほしいと思います。

大学生の皆さんには、相手の同意がない性行為はしてはいけない、それは性暴力になるんだということを認識していただきたいです。欧米諸国と違い、日本には相手に「嫌だ」と言いづらい文化があり、特に女性が性の話をするなんて”はしたない”として、タブー視される風潮がありました。しかしその結果、男性が性行為をしたいとき、「女性の同意がなくてもしていいんだ」「別に悪いことではないんだ」「パートナーだから自分がしたくなくても応じなければいけないんだ」という間違った社会を作ってきたように思います。そこを変えていかなければ、性暴力被害がなくなることはありません。自分にそのつもりがなくても相手を傷付けていることを分かっていただきたいです。一方で女性は、自分が同意しているということを恥ずかしがらずに表明していいのです。そうしなければ相手と本当に豊かな性的な関係は築けないということです。

ここまでずっと被害者=女性との前提で話を進めてきましたが、SARC東京には男性からの相談もあります。男性が男性から性的暴行を受けた、あるいはリンチのような状況で性的被害に遭った、などです。男性の場合、女性以上に相談しにくい状況があるようですが、男性が受けた性暴力も強制性交罪が適用されます。性別にかかわらず、一人で抱え込まず相談してほしいと思います。また、いかなる場合でも「私が悪かったのではないか」と自分のことを責めないでほしいです。

特定非営利活動法人 性暴力救援センター・東京(SARC東京)の他、東京の3つの弁護会が行っている法律相談窓口もあります。初回の相談料は無料で、必要であれば、日本弁護士連合会から弁護士費用を立て替える制度も利用できます。

相談窓口

特定非営利活動法人 性暴力救援センター・東京(SARC東京)
24時間ほっとらいん 性暴力救援ダイヤルNaNa  TEL:03-5607-0799

法律相談窓口

3弁護士会共通 電話相談 TEL:03-3581-6666(月~金 11:00~16:00)

大学生の今だから考えたい性暴力 自分も相手も大切にするための性的同意

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