祭り(早稲田祭)が終わり、晩秋のキャンパスでは学生たちが淡々と落ち着きを取り戻しつつある。卒業制作に取り組む学生たちと日々接していると、数年のゆっくりとした時間をかけて30人余りの個性がようやく芽吹いてきたことを実感する。
かつて本学の卒業生である荒川静香氏はトリノ五輪の大舞台で定められた時間のなかの必要な得点技と共に得点にならない「イナバウアー」を演技し金メダルに輝く。事前のコーチからの「得点より個性ある演技を目指せ。」というアドバイスに感化されての決断だったと言う。
さて個性はどうしたら見えるようになるのか。それは簡単に見えるものではないが”見えるようになる感性”を鍛えることは出来る。キャンパスを歩いているといろいろな驚きが見え隠れしている。詩歌の授業で言葉の音色に感動する君たち。測量の授業で通学路の高低差を測り日常の数字にはっとする君たち。庭園の真っ赤に染まる紅葉をスマホで記録する君たち。全てが感性を鍛えるヒントになる。
地球の環境破壊を警告し、「歴史を変えることが出来た数少ない本の一冊」と言われる「沈黙の春」の著者、女性生物学者レイチェル・カーソン氏をご存じだろう。晩年、甥の幼い少年ロジャーと過ごした海辺の別荘で自然とふれあう日々を綴(つづ)った「センス オブ ワンダー」(=不思議さに驚嘆する感性)にこんな一文がある。「知ることは感じることの半分も重要ではない。」と。是非、皆が自らの感覚回路を磨き、個性を見えるものとし、世界を変える一人となることを願っている。
(H)
第1038回