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コラム

【早稲田演劇の今】早稲田小劇場どらま館レビューVol. 8 虚仮華紙×(劇団)森『女子高生だけどスカート短くなくてごめんね』

2015年4月30日、早稲田キャンパス近くの南門通り商店街にグランドオープンした「早稲田小劇場どらま館」。すでに多くの団体がその舞台を彩ってきました。演劇研究・批評を専門とする演劇博物館助手による公演のレビューで、早稲田演劇の今をお伝えします。

Vol.8 2016年10月21日(金)~23日(日)

虚仮華紙×(劇団)森『女子高生だけどスカート短くなくてごめんね』

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写真:吉田達哉(以下全て)

34609最初は「またか」と思った。ギスギスした人間関係と流されるままの主人公。「表」の顔と「裏」の顔、本音と建前を使いわけ、やがて「本当の自分」がわからなくなっていく。大学生の演劇によくあるタイプの作品だ。「等身大の大学生」なのかもしれないが、透けて見える自己愛がイタい。朝井リョウの『桐島、部活やめるってよ』や『何者』が多くの人に「刺さる」のは、イタさを相対化する視点があるからだ。映画版『何者』を監督した三浦大輔の演劇ユニット・ポツドールや、最近では玉田企画の作品もそうだ。舞台上のダメでイタい人々を笑う観客は、どこかでそれが自分自身の姿でもあることに気づかされる。だから痛い。「イタさ」を共有するもの同士での傷の舐(な)め合いには、自分を突き放して見ることの痛みがない。またそういう話か、といううんざりした私の気持ちはしかし、作り手の思う壺だったのだろう。『女子高生だけどスカート短くなくてごめんね』という作品はそのタイトルの通り、他人からの勝手な期待やレッテルを拒絶し軽やかに我が道をいく。

43602舞台は女子高。一子はいくつかの仲良しグループのそれぞれでそれなりにうまく立ち回っている。幼なじみの十子はその八方美人的なふるまいが気にくわない。クラスの「イケてる」女の子グループ、文化祭でダンスを踊る仲間、去年のクラスの友だちと忙しく行き来するうちに、その場の「ノリ」で友だちの悪口を言ってしまったり、十子との約束を破ってしまったりする一子は、トイレで「友だち」が自分の悪口を言っているのを聞いてしまったこともあり、だんだんと周りに合わせるのが辛くなっていく。精神的に追い詰められた一子はついに学校に通えなくなってしまうのだった。

43603    一子と十子以外の登場人物は2から9までの番号を振られた俳優たちによる一人三役(以上)で演じられる。彼女たちはカーディガンの着脱やスカートの長さで見た目にも変化をつけ、複数のキャラクターを演じわける。グループによって自らの「キャラ」を使いわける一子と同じように、まわりの女の子たちもまたそれぞれに「キャラ」を演じわけているようにも見える趣向だ。ねらい自体は面白いのだが、登場人物が全員女子高生なうえ、場面があまりにも目まぐるしく移り変わっていくので、見ているうちに誰が誰やらわからなくなってしまう。しかしそれも演出のねらいのうちだ。観客と同じように一子もまた、彼女たちの見分けがつかなくなってしまうのだった。動物の耳や鼻を付けることで誰の顔も「似たようなもの」にしてしまう写真アプリ「スノー」を使ってそれを見せる場面も巧い。

このように演出上の工夫はいくつか見られるとはいえ、物語の筋だけ取り出せば典型的な「そういう話」だ。だが決定的に変なところがある。トイレだ。何もない舞台上にはただ一つ、電話ボックスのような枠組みに洋式便器が収まる「トイレボックス」が置かれている。人間関係に疲れ、トイレの個室に唯一の安らぎを見出すようになる一子。一時話題になった「便所飯」という言葉を思い浮かべたが、一子は洋式便器(の精?)と心の交流(!)をはじめてしまう。

34612舞台には10人の女子高生(を演じる俳優)以外に、黒子のような役割を担う(にもかかわらずなぜか浴衣を着た)男がいる。最初のうちこそイスの出し入れなど裏方的な働きをしているが、途中からは「トイレボックス」専属になっていく。一子の問いかけに対しフタを開閉したり音姫を流すことで返事をする便器。一子に向ける満面の笑みを見ていると、彼こそが便器の化身なのではないかという気がしてくる。これはトイレの精との交流によって少女が自らの孤独を慰める話だったのか? と思わなくもないが、トイレの精が一子の追い詰められた精神状態の見せる幻だとしたらハートウォーミング・ストーリーは一気にサイコ・ホラーに転じてしまう。居場所をなくした一子は自らを便器に流し姿を消す。残された十子はクラス内での孤立を深め、一子と同じように便器に話しかけるようになっていく。誘うようにフタを開閉する便器。かたわらには一子の姿が——。呪われたトイレの連鎖する被害者! 結末は完全にホラーだ。

途中から何を見せられているのかよくわからなくなってしまったのだが、それがこの作品の面白さだろう。ジャンルからの逸脱は意図されたものだ。作・演出のはとりは当日パンフレットに次のように書いていた。

棚ごとにジャンル分けされたDVDたちをみるといつもかなしくなります。

ジャンル分けしてしまうとその通りにしか見られない自分がいたりします。

怖くないホラーが、どきどきしないラブストーリーがあったっていいじゃないですか。

(略)

ぜんたいなにが言いたいかっていうと、この劇はそういうことしないよ、っていう。

43609『女子高生だけどスカート短くなくてごめんね』という作品はまわりの期待するジャンル=キャラを演じたりはしない。そこが登場する女子高生たちとは違う。「またこの手の作品か」と思った私の態度もまた一種のレッテル貼りに過ぎなかった。貼られたレッテルを引きちぎるこの作品の「変さ」は奇妙に爽やかでさえある。

作品全体としては粗も目立ったものの、枠内には収まらないという気概の見える構成には好感を持った。惜しいのは、観客の多くを占めるであろう大学生にはその構成がそれほど有効でなかったであろう点だ。最初から作品の内容に強く共感する観客には「そういう話」としてそのまま受けとられただろう。もちろんそれも間違いではないのだが、どうせならそういう観客にこそちゃぶ台返しをかましてほしかった。

(演劇博物館助手 山﨑健太)

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