Waseda Weekly早稲田ウィークリー

コラム

色褪せた思い出

私が通っていた小学校には、通知表がなかった。

時間割もなく、授業の開始と終了のチャイムもなかった。都会の私立小学校ではなく、地方の公立小学校の話である。各クラスではみんなで動物を飼っていて、校舎の横には大きな飼育舎があった。私のクラスは、たしかキジの仲間を飼っていたと思う。幼い思い出には牧歌的な色合いがついているせいか、夢のような小学校の思い出を大切にしていた。

これにけちがついたのは、友人の結婚式で同席した、当時の教師の一言を聞いてからである。

彼曰(いわ)く、「あそこ(小学校)は、実験だったんだよね。子供の出来の差がすごくて困ったよ。失敗だった」。

私には、地方の公立小学校で行われた教育実験の是非を判断することはできない。しかし、「おまえたちは実験動物だった。バラツキが大きく、実験の評価もできなかった。失敗だった」と言われて、実に気分が悪かったし、自分の受けた初等教育に自信が持てなくなったのも事実だ。思い出が色褪(あ)せるとは、このことだろう。

元教師には悪気はなかったのだろう。だが、なぜ夢を見続けさせてくれなかったのか。教師なら、最後の最後まで教育に責任を持ち続けなければいけないし、ましてや学生の受けた教育の否定などあってはならない。

教育にはビジョンが必要であるが、ご承知の通りこれには未来像という意味のほかに、幻という意味もある。幻を求めるのが教育ならば、その幻は絶対に醒(さ)めてはいけない。本学のビジョンが醒めることなきビジョンでありますように。

(Y.T.)

第964回

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