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キャリアコンパス

早稲田大学ラグビー蹴球部 前監督  清宮 克幸 座右の銘は「有言実行」

早稲田大学ラグビー蹴球部 前監督  清宮 克幸(きよみや・かつゆき)

沢山の感動をありがとう!

昨年度も熱い早稲田ラグビーが繰り広げられた。試合観戦をし、勇気をもらった人も多かったことだろう。国立競技場に鳴り響いた「荒ぶる」は、まだ記憶に新しい。「常勝早稲田」の立役者で、この五年間、多くの感動を届けてくれ、惜しまれつつも今年三月にラグビー蹴球部監督を勇退された最強のカリスマ、清宮前監督にお話を伺った。

目の前にあることに 全力でぶつかる、 それが自分の道を切り開く

中学三年の頃、テレビで学生ラグビーを観て「かっこいいなぁ」と思ってラグビーをやろうと決めて、気付いたら高校、大学、企業、監督とずっとラグビーを続けていました。実は初めからラグビーをずっと続けていこうと思っていたわけではないんです。むしろ「こんなふうになろう」というような自分の青写真は全くなかった。目の前にあることに全力でぶつかっていって、それで自分の道が開かれる。それが今まで僕が一貫して歩んできた道です。

多忙な社会人生活から得たもの ~必要のないものは切り捨てる~

サントリー時代は、社員、選手、家庭の主として三足のわらじを履いて、睡眠時間は平均四時間という多忙な生活を送っていました。その時に身に付けたのが効率性かな。取捨選択をして必要のないことはやらない、無駄を作らないということを自然と会得しました。つまり、いかに短時間で効率的に結果を出すかということを、社会人をしていた十年間にやってきたわけです。必要ないことを含めてすべてやっていたら時間がいくらあっても足りない。だから必要のないことはやらない。よく話が冗長で要領を得ない相手に、しびれを切らして「つまり、こういうことだろう?」ってこっちが聞き返すと、「あ、そういうこと」っていうことありますよね?(笑)必要のないことを切り捨てる術を身に付けてないと人は時間が足りないわけですよ。この取捨選択はコーチングにもつながることです。グランドで練習を見ていて二十ほど直さなきゃいないところがあったとしても、全部それを指導をしたら身に付かない。その中から、一つ、二つに絞ってその日の指導をする。今日大切なことを重要として、後は切り捨てること。これが不可欠です。

ある時気付いた。 僕は周りに支えられて、 自分の思うことができている

僕は四年で主将になりましたが、実は自分自身は僕以外にもっと適任者がいると思っていました。僕はあまりにも「わがまますぎる」から(笑)、むしろ自分の行きたい道を進んだっていう感じで、和とか強調というようなことをほとんど考えてなかったんですよね。その点、昨年度主将を務めた佐々木道隆は凄い。試合前も試合後もいいこと言うし、周りをよく考えて配慮が行き届いてる。彼と比べたら自分の学生時代は、ずっと未熟だったと思います。僕がうまくやれたのは、自分より本来こいつらの方がキャプテンにむいているだろうと思った仲間が、両脇を支えてくれていたから。それで、安心してバンバン自分を出していけたんですね。早稲田の監督になっても同じで、僕が好き勝手にやってることをうまく周りが調整してくれるっていうふうに、昔から常に僕の周りには良い奴がいてくれたんです。ある時そのこと、つまり「周りが良いんだ」ってことに、気が付きました。

口にしたことを結果に残す、 これこそが信頼を 得ることにつながる

上井草のグラウンドを去るにあたって、この五年間を振り返ると、いろんなことがありすぎて、印象に残ることを一つのシーンに絞ることはできないなぁ。ただ、しいて言えば、いろんな涙があって、「たくさん泣けたな」ということが一番の思い出です。その一つひとつに思い出がぎっしり詰まってる。この五年間、僕は選手を強くすることで、自分自身が成長していった。僕が選手に教えたということよりも、むしろ選手が僕に与えてくれたものが大きい。僕が変えられていったから、自分の言葉も一、二年目、五年目とどんどん変わってきているんだと思います。お陰で、より相手を説得できるようになったし、「言葉の重み」といったものも出てきたんではないかなと思います。

大学選手権2連覇達成後のインタビュー中に感極まるシーンも。

自分が監督になってからの改革でもそうでしたけど、どんな時もファーストプレゼンテーションはとても大切な要素だと思います。「去年までこうでした、それが今年はこうなります!」とバーンと最初に打ち出す、これが目玉なんですよね。それと口にすることはできることだけ。できないことは絶対に口にしない。僕の座右の銘は「有言実行」です。これは自分の中で確信をもったことを口にしていこうということなんですよね。できないことを口にしていくと、どんどん信用がなくなっていって、監督の権威を落とすことにもなりますからね。

卒業式で総長賞を受賞。

よく監督をして五年間で一番苦労した点を聞かれますが、それは全くないんですよ。「苦労とかストレスという言葉は、我が輩の辞書にはない!」(笑)。もともと、そういうふうに感じない性格なんでしょう。自分の親は放任主義でしたから、自分で考えるとか自分で処理するってことが自然と身に付いて、それでそういう性格になったのかもしれません。

僕は生まれ変わっても、きっとラグビーをやるでしょうね。ガキ大将で運動神経が良くて、エネルギーがあり余っていてっていう、自分が歩んできたのと同じような子供時代を過ごしたら、間違いなくラグビーをやってると思います。それが僕の生きる道なんだと。

「早稲田でしかできないこと」を経験してほしい!

今の学生は「不器用で素直」だと思います。それはポジティブな意味とネガティブな意味と両方の意味で。自分がやりたいことを一直線に進めるっていうところがある。これはラグビーなんかではとってもいいことです。ただ社会に出たら、果たしてどうでしょう。学生時代でいえば、例えば自分の専攻科目をひたすらやるってことは、その分野ではとっても伸びるだろうし、それ自体は素晴らしいことです。逆に僕たちの時代を振り返ると、もっといろんなことに目がいってしまっていた。僕も学生時代、ラグビーばっかりやっていたと思われるけど、ゴルフや賭け事といろいろ遊びましたしね(笑)。その時代は悪く言えば落ち着きがなかったけど、良く言えば好奇心旺盛で、やりたいことがたくさんあった。最近の学生のスポーツ観戦離れっていうのも、ひょっとするとそういうところが影響しているのかもしれません。自分の興味のあることを真剣に伸ばすと同時に、その他の分野にも視野を広げることができたら、とても良いのではないでしょうか。

早稲田に入ることが人生の目標ではないわけですから、早稲田で何を得て、何を学ぶか、「早稲田でしかできないこと」をしっかり考えてほしいなって思います。例えばスポーツの応援でも同じなんですが、自分の所属する組織がその名前を全面に出して戦っている姿を観て、思いを共有できない人間は寂しい人生を送っていると、僕は思います。本来、応援するっていうのは誰もが持っている感情だと思うから。最近、スポーツ観戦離れと言われていますが、ぜひ競技場に足を運んで応援してほしいと思います。同じ早稲田の名前の下で頑張っている選手を、学部や学年を越えて一緒に応援する、それこそ早稲田らしいことの一つではないでしょうか。最近は女性のラグビーファンも増えていますし、早稲田でも増えている女子学生の方に、もっともっと応援してもらいたいと思います。共に感動を分かち合ってほしいですね。テレビ中継では優勝時のクライマックス、「荒ぶる」を歌うシーンまで放映しないし、選手たちの試合後の様子も分からない。でも、そういうところをすべて共感してもらいたいから、ぜひ競技場に足を運んで、応援してほしいと思います。

最後にバイトや金儲けはいつでもできる。もちろんそれが無駄だとは言わない。でもそうではなくて、スポーツ観戦に限らず、「早稲田にいる時しかできないこと」を経験することが、将来絶対プラスになるということを後輩の皆さんへの最大のメッセージとしたいですね。

2月22日に行われた「佐々木組追い出し試合」終了後、選手からサイン入りボールを受け取る。

【プロフィール】
清宮 克幸(きよみや・かつゆき)
1967年大阪府生まれ。大阪府立茨田高校時代に花園の全国大会出場。高校日本代表。早稲田大学2年時に日本選手権優勝。4年時には主将として大学選手権優勝に導く。卒業後はサントリーに入社し、10年間選手として活躍。低迷していた早稲田ラグビーの再建のため白羽の矢が立ち、2001年早稲田大学ラグビー蹴球部監督に就任。チーム改革に取り組み、5年連続関東大学ラグビー対抗戦全勝優勝、大学選手権2連覇達成(通算3度の大学日本一)へと導き、強い早稲田ラグビーを再建した。今年2月の日本選手権では、社会人強豪のトヨタ自動車を破り、18大会ぶりの快挙を成し遂げた。5年間の功績に対し、2005年度早稲田大学総長賞を授与される。今年度からサントリーの監督に就任。

 

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