Waseda Weekly早稲田ウィークリー

キャリアコンパス

琵琶を若い人へ伝えたい。ゲーム音楽にも挑戦 琵琶奏者 熊田かほり

オープンマインドに何でも挑戦すれば、道は開けるはず

琵琶奏者 熊田 かほり(くまだ・かほり)

 

早稲田大学では、学生時代にサークル活動で頭角を現し、その後プロの道へ進む校友が少なくない。国内の大学で唯一と言われる琵琶サークル「琵沙門」のOG、熊田かほりさんもその一人だ。演歌歌手・石川さゆりさんや坂本冬美さんのコンサートへの出演や、人気スマホアプリ『茜さすセカイでキミと詠う』『モンスターストライク』の劇中音楽演奏など、若手琵琶奏者として引っ張りだこの熊田さんが琵琶と出合ったのは、入学式の日だった。そして、そのわずか6年後には、日本最高峰のコンクールで史上最年少優勝を遂げる。教員免許まで取得しながらも音楽の道を選んだ背景には、どのような出来事があったのだろうか。

「事故」のような出合いはまさに恋

琵琶の起源は中東で、日本には7~8世紀ごろ伝わったとされる。しずく形は当時からほぼ変わっていない

新入生とサークル勧誘の学生でごった返す、4月1日の早稲田キャンパス。熊田さんの足先を踏みつけて通り過ぎていった台車があった。その上には一人の学生が乗り、「祇園精舎の鐘の声〜」と歌いながらしずく形をした不思議な楽器を奏でていた。それが、熊田さんと琵琶との衝撃的な出合いだ。幾重にも共鳴する幽玄な音色に魅入られた熊田さんは、「琵沙門」へすぐさま入会。それからは、琵琶一色の学生生活を送ることとなる。

「弾くのがとにかく楽しかったんです。お昼休みも学生会館に行って、お昼ごはんも食べずに弾いていました。練習のしすぎで腱鞘(けんしょう)炎になってしまったくらい、全ての時間を琵琶にささげていました。まさに琵琶に恋してしまったんですね」

1年次の夏からは、先輩から紹介してもらった田中之雄氏(映画『陰陽師』やNHK大河ドラマなどで琵琶演奏を担当)に師事し、サークル活動と並行して鶴田流琵琶を学ぶ。通常は奏法をじっくり学んでから取り組む「語り」(琵琶の伴奏に合わせて歌われる物語)も、入門してすぐに教えてもらうことができた。並ならぬ情熱で、熊田さんの琵琶の腕は飛躍的に上達していった。

進路を決定付けた奇病、そして琵琶歴6年でのコンクール優勝

琵琶に没頭する毎日だったが学業もおろそかにはせず、教員免許を取るために1限から6限までの授業には欠かさず出席していたと言う熊田さん。大学での印象的な出会いとして、ゼミの指導教員、故・外園豊基教授の名を挙げた。

「弾くだけでは飽き足らず琵琶の歴史を研究したいと思っていたのですが、所属ゼミがなかなか決まらなかったところ、外園先生に拾っていただいたんです。『僕のところに来ればいい。ただ、何かに夢中になっている学生は中退してしまうことが多いから、ゼミにはちゃんと出席しなさいね』と言って、授業中も琵琶の譜面を書いているような不真面目な学生だった私をずっと応援してくださいました」

2007年。大学卒業記念ソロライブ(本人提供)

良き恩師に恵まれた学生生活だったが、4年生になるころ、熊田さんを悲劇が襲う。症例のない奇病にかかり、左手中指の先端を焼き切る手術をすることになったのだ。弦を押さえる左手が数カ月使えないため稽古ができず、つらい日々を過ごした。また、医師には再発の可能性があるため指を使う仕事に就かないよう言われたが、それが逆に熊田さんの決意を固めた。

「周りで就職活動が始まる中、私も情報収集を始めていたのですが、病気を機に、こうなったら琵琶をとことんやろう、失敗したり病気が再発したらそれはそのときだと思えるようになったんです。とにかくもう琵琶から離れたくないという一心でした」

卒業後はNHK邦楽技能者育成会(NHK主催のプロの邦楽演奏者育成講座。2010年まで存在)を経て演奏活動を本格的に始めつつ、作曲なども手掛けるように。そして25歳のとき、日本最高峰の大会である日本琵琶楽協会主催「日本琵琶楽コンクール」で、史上最年少優勝を果たす。熟練した琵琶奏者が集大成として出場することが多い大会で、琵琶を始めて6年の若者が優勝するのは異例のこと。優勝者として熊田さんの名が呼ばれるとどよめきが起こるほどだったと言う。

「挑戦者の中で一番若輩な自分が入賞できるとは夢にも思わず、1位と呼び上げられたときは本当に驚きました。私の声は女性の語りとしては低いと言われたりもしましたが、一生懸命さを評価していただきました。師匠の『優勝とはいえ期待賞のようなもの。これから真価が問われる』という言葉の通り、受賞をスタート地点だと思って、その後1年は記憶がないくらい稽古に打ち込みました」

(写真左)2007年3月卒業式にて恩師の外園先生と
(写真中央)2009年の日本琵琶楽コンクール。優勝記念品は琵琶
(写真右)2014年の琵沙門水無月演奏会。講師として7年目、サークル員が最大数に(以上、全て本人提供)

琵琶奏者として後輩に伝えたいこと

歴史あるコンクールの優勝は熊田さんの評価を確たるものにしたが、ますます研鑽(けんさん)に励むことで活躍の場は広がっていった。最近は大きな舞台やゲーム、アニメ音楽への参加を依頼されることも増え、「求められたらどんなジャンルでも挑戦したい」と意欲的だ。

「とにかく琵琶という楽器を、一人でも多くの人に知ってもらいたいんです。古い楽器だし、物語も昔のことを歌っているけれど、実は現代の音楽としてもすごくかっこいいものなんだということを、特に若い人に伝えたいですね。いつか琵琶が『和楽器』としてではなく、ボーダーレスに楽しめる音楽になればという思いで活動しています」

早稲田だからこそ巡り会えた琵琶。生涯をささげられるものを、入学式で見つけることができた熊田さんのような人は、幸福なのかもしれない。まだ打ち込めるものに出合えていない学生に対して、こんなメッセージをくれた。

「何よりも素直であることを大切にしてください。今は情報にあふれていることもあって、トライする前に諦めたり、リスクを恐れて何もできない学生もいますが、オープンマインドに何でも挑戦すれば、道は開けるはず。あれこれ考える前に、まずはやってみる。そうすると得られるものが必ずあると思いますよ」

取材・文=小堀芙由子
撮影=石垣星児

【プロフィール】
宮城県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。鶴田流琵琶を田中之雄氏に師事。NHK邦楽技能者育成会53期を修了。2011年度 高円宮殿下記念地域伝統芸能奨励賞を受賞。2013年より 宮城県任命「みやぎ絆大使」として活動。第46回日本琵琶楽コンクール 第1位(最年少記録)。日本各地での演奏活動、琵琶楽の普及活動の傍ら、自ら作詞作曲を手掛け日本の古典や文学作品に取材したオリジナル楽曲を数多く発表。和楽器・洋楽器混成の「KAHORING-BAND」を結成、琵琶を中心に据えた新しいアンサンブルを展開。 民謡・童謡・歌謡曲の編曲や劇伴音楽も手掛けるなど、琵琶のみにとどまらない広範囲な活動は各メディアで多数紹介されている。2007年から早稲田大学の公認サークル「琵琶サークル琵沙門」にて後進の指導にも力を入れている。

 

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