Waseda Weekly早稲田ウィークリー

キャリアコンパス

「50年後の生活変える研究者に」 学費免除&給与付き 米名門の大学院生

自分が面白いと思えることを探すのは、必要なプロセス

カーネギーメロン大学計算機工学科 博士候補生 青木 俊介(あおき・しゅんすけ)

日進月歩の進化を見せる自動運転車。米国ペンシルベニア州ピッツバーグにあるカーネギーメロン大学はその分野で世界トップの功績を誇り、各国から優秀な研究者たちが集う。早稲田大学出身の青木俊介さんもその一人だ。2012年に基幹理工学部を卒業後、東京大学大学院を経て、現在はカーネギーメロン大学計算機工学科の博士候補生(※)として、自動運転車と無線通信を用いた、新たな交通システムの開発・研究に打ち込む毎日を送っている。青木さんが見た米国最高峰の大学院の実態とは? また、博士課程学生に対する日米の圧倒的な違いとは?

(※)Ph.D. Candidateのこと。日本の博士号に当たるPh.D.を取得するためには、まず博士候補生認定試験に合格し、博士候補生になる必要がある。

早稲田大学学部生時代に気付いた語学の重要性

基幹理工学部に入学したころは、特に目標もなかったと言う青木さん。そこでとりあえず面白そうな授業をたくさん取ってみたところ、コンピューターを使ったシステム構築が楽しく、自分に合っていると感じたと言う。

「基幹理工学部だと1年次は学科への配属がなく、理工学に関するさまざまな授業を横断的に履修することができたので、何がしたいか分からなかった自分にとって理想的な環境でした」

また、外国人留学生受け入れ数が日本一の早稲田大学で出会った留学生との交流も、視野を広げるきっかけとなった。人種も国籍も背景もさまざまな学生たちとコミュニケーションが取れる楽しさを知り、英語の勉強を進めていくと、海外の学術論文が読めるようになるなど、触れられる情報量も格段に上がり、語学の重要性を実感した。

「勉強ではYouTubeやTED Talks(英語による講演会の動画無料配信サービス)を利用していました。主要な学術論文は英語で書かれているので、そういう意味でも、英語ができると圧倒的に優位なんです」

さらに、在学中に携わったNPO活動の経験から、社会問題を根本的に解決できる技術やインフラを作りたいと自動運転車に興味を持った。

「自動車は、あらゆる機械技術の結晶なんです。生活に密着し、人命にも関わるため難しい部分もありますが、だからこそ技術力が問われる。明日の生活には何も影響がないかもしれないけれど、50年後の生活を確実に変えることができるものを開発したいと思うようになりました」

自分がやりたいことを一つ一つ確かめながら探り出した、研究を極めるという選択肢。青木さんの周りには海外の大学に留学する先輩や同級生が多かったこともあり、若いうちに自分も世界を舞台に活躍したいという思いが募っていった。

米国一流大学での研究生活

サンフランシスコでの在米研究者交流会にて(本人提供)

その後のカーネギーメロン大学入学までの道のりは、青木さんのWebサイトTwitterで惜しげもなく公開されている。Web上での論文・研究発表動画などの公開や、国際会議での売り込みなどが功を奏し、見事自動運転車の分野で世界最高峰の大学院に入学した青木さん。これ以上ないというほど恵まれた環境で24時間研究のことを考える日々だと言うが、その背景には日米の博士課程学生に対する扱いの違いがある。

「アメリカの名門私立大学というと学費が高いイメージがありますが、トップ校の博士課程だと授業料は免除という人がほとんどだと思います。というのも、指導教官の研究費から支出されるんです。また、カーネギーメロン大学の博士課程は最低2800ドルほど(日本円で約31万円)の月給が支払われます。一方、日本の博士課程学生の場合、「日本学術振興会特別研究員」(※)になれたとしても月20万円ほど。アメリカは“できる”人にお金を付けるし、反対にできない人には全然付けません。成績が悪いとクビになってしまうので、セーフティーネットという点では日本の方が優れていますが、できる人を育て、年功序列ではなく成果を出す人を評価する仕組みになっていて、技術者に対するリスペクトもあるアメリカの方が、研究はしやすいと感じています」

(※)独立行政法人日本学術振興会が、優れた若手研究者に対し、自由な発想のもとに主体的に研究課題等を選びながら研究に専念する機会を与え、研究者の養成・確保を図るため、研究奨励金および研究費を支給する制度。

日本人大学生向けのキャンパスツアーでの様子(本人提供)

クビになったら帰国するしかないというシビアな研究生活の中で最も大変だったことを問うと、意外にも文化の壁だったと言う。

「英語でも苦労しましたが、それ以上に異文化の中に入って生活することに苦労しました。使ってはいけない単語があったり、人種・国の文化の背景を踏まえて発言しなければいけないなど、日本の常識が通用しない部分を理解するのが大変でしたね。日本人同士だとふざけ合って軽口をたたくようなことがアメリカでは言ってはいけないことだと気付かず、最初は苦労しました」

早稲田大学での生活を振り返って後輩に伝えたいこと

そんなアメリカ生活も4年目に突入。今春には、無線機を使用して複数の自動運転車を安全に交差点で通過させる「サイバー信号機」を開発した。特許を取得したり論文を学術会議で発表したりと、順調に実績を積み上げ、「50年後の生活を変えるものを作る」「世界で活躍できる技術者になる」という目標へ着実に近付いているようだが、自身の学部生時代を振り返って、今の学生にアドバイスを送るとしたら何だろうか。

「いろいろな環境に身を置いて、自分が持つ価値観を磨くと良いと思います。東京は世界的にも特殊な街で、人とモノが密集しすぎているし、サービスもちょっと過剰だと感じるものがある。そこを一歩踏み出してみると、大きな刺激があると思いますね。また、意外と思われるかもしれませんが、大学の勉強がとても大切だと実感しています。さまざまな授業の中から面白いと思えるものを掘り下げていったのは、実りある経験になりました。自分が面白いと思えることを探すことは、大学生にとって必要なプロセスだと思います。そのためにも海外に出たり、たくさんの人と出会って、視野を広げていってください」

(写真左)ポルトガル・ポルトで開催された国際会議。歴史的建築物ボルサ宮での発表は貴重な経験になった
(写真右)開発中の自動運転シミュレーターをバックに(いずれも本人提供)

ワシントンD.C.での自動運転システムの国際イベントに出展。開発中の自動運転車は、ゼネラルモーターズ(GM)の市販車・キャデラックを改造し、内部にコンピューターやセンサー類を取り付けたもの(本人提供)

取材・文=小堀芙由子
撮影=石垣星児

【プロフィール】
2012年に早稲田大学基幹理工学部を卒業後、東京大学大学院情報理工学系研究科にて無線通信・ネットワークを専攻。日本学術振興会特別研究員、中国・北京のマイクロソフトリサーチ・アジアを経て、2015年夏よりカーネギーメロン大学計算機工学科、Real-Time and Multimedia Systems Laboratoryに所属。自動運転車と無線通信を用いた、新たな交通システムの開発・研究に取り組んでいる。またワシントンDC、ピッツバーグをはじめとする北米の複数都市で、自動運転車の実証実験を行っている。 Twitterアカウント: @aoshun7

学部時代の友人は広告やシステムエンジニア(SE)、記者など異なる業界・職種で働いているが、「自分は研究者目線だけど、それぞれの目線でお互い語り合える。仕事で知り合った人とはまた違った、腹を割って話せる友人はありがたいです」と語る。

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