Waseda Weekly早稲田ウィークリー

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画家 MAYA MAXX 「生きるってむつかしくて、むつかしくない」

画家 MAYA MAXX

10月27日、大隈講堂にて、本学出身の画家MAYA MAXXさんの講演会「ワセダ・カルチャー・トーク2004 生きるってむつかしくて、むつかしくない」が開催された。その内容は、生きる道を模索中の多くの学生の皆さんに参考になると思われるため、OB・OGインタビュー特別編としてお届けする。なお、当日は、壇上に用意した真っ白い大きな一枚の板に絵を描きながらのライブペインティングという、贅沢な講演会となった。

鉛筆が一本あったら絵が描ける人になりたかった

絵を描く人間が話すだけというのは申し訳ないので、絵を描きます。シリーズものの猿を描きます(描き始める)。……なぜ猿かっていうと、鉛筆が一本あったら絵を描ける人になりたかったんです。それで、目が付いてて黒だけで描けるものといったら、猿が一番だろうとなりまして。……あるとき気付いたんですけど、描くのも絵だけど剥がすのも絵なんですよね(ふき取る)。きれいでしょ。……何をやっているかというと、適当にやってます。一生懸命きちっと描くのも大切なんですけど、適当に描くのもとても大切なことで。……芸術って便利なものでね、本人はさほど意識していないのに、見る人が勝手に思い込んでくれるんですよ。……私は何の構想もなくいきなりキャンバスに向かうタイプなので、こうやって描き上げてみて「ほ~、今日はこんな感じか」って思うんです。自分の中にライブ感があるというか。……いいんじゃない? これで出来上がりです(会場から拍手)。

大学卒業後、アルバイトの途中である画家の回顧展に偶然立ち寄ったことが、その後の運命を決定付けた。

「大学を卒業したら就職」ということを、当時リアリティーを持ったものとして理解できなかったんです。それでこの先どうしようかって考えて。わりと器用な子どもだったので、何をやっても無難にこなしていく自分が分かっていました。それなら「やってもやっても答えが出ないような職業に就こう、そうだ、表現する仕事だ」って考えたんです。今なら、芸術に限らず仕事はどれも皆そういうものだって分かるんですけどね。

だからといって、表現するものを何も持っていない。でも何かあるはずだと思って、アルバイトをして命をつないで、その何かを探そうとしました。今、若い人から相談されても、そんな生き方絶対薦めませんけど(笑)。

それである日、アルバイトの途中で、銀座でたまたま有元利夫という画家の回顧展が目に入ったんです。誘われるように入って、じ~っと見入って。そこには美しいとかそういうことだけじゃなくて、この世の物ではないような空気感があったんです。そしてそこを出たときに、ふと「絵を描いてみようかな」って思ったんです。「そうだ、絵は素晴らしい!」って。忘れもしないその日の日当6千5百円を握り締めて、そのまま画材屋に行って、絵の具セットと絵の描き方の本を買って帰りました。さっそくその本に倣って一生懸命描いて。それが26歳の時です。

目指す画家のような絵を描きたいと精進した日々、壁、そして復活。

それから全く独学で、ただ有元さんの作品集を隅から隅まで見て、「こういう絵を描きたい、これが絵だ」と、来る日も来る日も描き続けました。すると意外とうまくなっちゃって、いい感じの有元さん風な絵を描けるようになったんです。でも、そうなればなるほど、こんなことをしててもしょうがない、自分の絵を描かなきゃ、という焦りが出てきて。だけどどうしたらいいか分からないんです。その頃は自分を表に出すのがとても苦手で、仲間を求めて外に出て行くということもできなくて。今振り返ると完全にノイローゼでしたね。そして、精神的なもの以上に肉体的に具合が悪くなっていって。

ある時「このままだと必ず死ぬな」と思ったんです。その感覚は今でもよく覚えていて、身体中の全細胞がざわざわっとうごめいたように「分かった」という感じなんです。その時、確かに何かが変わって、実際に身体が動き始めました。そして、まず何が自分を傷つけているのかを考えて、一つに自分の絵を描いていないこと、二つ目にお金がないことだと気付いて、さっそくアルバイトを始めました。ビル掃除のアルバイトですけど、それをコツコツ7年続けて、その後半には“MAYA MAXX”として絵の仕事も入ってくるようになっていました。

生まれ変わって画家になった。 だから名前を変えた

アルバイトに行くようになったらだんだん元気になって、さぁ、次は絵だと。そこで初めて自分の絵を描きました。初めはよく「子どもが描いたような絵ですね」と言われて、その壁を乗り越えるのが大変でしたね。「それでもいいや、だってそれしか描けないもん」と思えるようになるのにしばらくかかりました。でも一度開き直ってからは、絵をどんどん描いて。そうなると不思議なもので、画廊を紹介してくれる人が現れて、認められて、個展を開くようになったんです。

その当時、生まれ変わったという気持ちでいました。それまで大変辛かったけれど、乗り越えた。ということは生まれ変わった。ならば名前を変えなくちゃ、と。それでず~っと考えて、ある晩寝入りばなに、突如“MAYA MAXX”という名前がそのイメージとともに浮かんだんです。「これだ!」と思いました。これだけ考え抜いて浮かんだことに間違いないだろう。それで初めてスタートラインに立った気がしました。

名前を変えるのはお薦めですよ。10年たってつくづく思うけれど、名前みたいな人になってくるんですよ。この名前は、よく意味が分からないところが自分にとても合っていると思うし、口に出すと爽快感があって、とても気に入っています。

自分を最終的に支えているベーシックなものは 「現世を忘れぬ久遠の理想」

2年前に早稲田に講演で呼ばれるまで、早稲田大学のことをすっかり忘れていました。でもその時、校歌の「現世を忘れぬ久遠の理想」というのをふと思い出したんです。

学生会館2階アトリウムにて、この絵「猿」を展示中。

アートの世界というのは、形而上的なことをありがたがる世界で、こういうことをやっちゃいけないというタブーが未だにあるんです。でも私は、そんなのどうでもいい、自分ができることで人の役に立つことだったらなんでもするべきだと思ってやっています。だけど、それは異色というか、ちょっと周りから距離を置かれている大きな要因だと思うんです。気にはしてなかったんですけど、あの校歌を思い出して、「そうだよ、早稲田なんだよ」って思えて。理想がどんなに素晴らしくて、どんなに高尚でも、この世で役に立たなかったら何の意味もないんだよって。だからね、自分はやっぱり早稲田大学に行くべきであって、行ったことがとても良くて、自分の気質に合ってたんだって思えたんです。自分を活かす場所を見つけて、このように人が聴きに来てくれて、絵を描くことだけでご飯を食べられて、なんてハッピーなんだって思います。でも、その自分を最終的に支えてるベーシックなものは「現世を忘れぬ久遠の理想」なんだって気付いたんですよ。その時、この十何年間に糸のようなものがす~っと通ったような気がして、すごくうれしかったんです。今回、大隈講堂で話すときに、そのことを言いたかったんです。だからなんだって言われても、言いたかったんです。

泣きたくなること、どうしても許せないこと。そんな気持ちは絵を描くことで解消する

Q.泣いてる絵が多いですが、どんな意味があるのですか?

つぶつぶがはじけるようにぶわ~っと出ていく絵でしょ。絵を描いている時、私はだいたい9歳なんです。初めて自分以外の世界をなんとなく認識できる感覚があったのは9歳の時で、その子が今もずっと存在するんだけど、絵を描くと待ってましたって出てきてすごく頑張るんです。線引いてこすってこすって塗って塗って。それが楽しくてしょうがないって。 でも、生きているといろいろあるんですよ。泣きたいこととか、どうしても許せないこととかね。大人だから、表面的には「そうだよね、仕方ないよね」って言ってるけど、心の中ではぶわ~っと泣いてるということが。そういう時、私はだいたい泣いている子どもの絵を描くんです。その気持ちを描くことによって、初めて私は自分を浄化できるんです。

絵を描くということは、絵の国に行って、絵をとってくる作業。

Q.気が乗らなくて絵を描けないときはありますか?

私の場合は、絵がず~っと目の前を通り過ぎている感じなんです。それを自分が一生懸命手繰り寄せてピックアップしてキャンバスに定着させる。絵の国に行って、絵を取ってきている感じなの。それがシリーズでやってきていて、シリーズとシリーズの狭間は、ちょっと調子が出ませんね。でもそれ以外は、スランプは全くありません。おかしいんじゃないだろうかと思うくらい絵を描きます。絵の量に個展が追いつかないほど。幸せなことでしょう。

【プロフィール】
MAYA MAXX
(マヤ・マックス) 本学教育学部卒業。1993年に個展「COMING AND GOING」を開く。以来、毎年個展を開催。本の装丁やCDジャケット、CMのアニメーションの制作をはじめ、フジテレビ系番組「ポンキッキーズ」やNHK教育テレビ「真剣十代しゃべり場」などTV番組にも出演、多方面にわたって活動している。絵本『トンちゃんってそういうネコ』、『オルファン』、『ミッシェルの一日』、作品集『MAYA MAXX MEETS ME』、単行本『SOUL』、『キミのコトバを描いてみようか?』など作品多数。
【URL】http://www.mayamaxx.com

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