Waseda Weekly早稲田ウィークリー

キャリアコンパス

プロ棋士 丸山忠久 インタビュー

◆将棋との出会い

小学校四年生の時にクラスで将棋が流行っていまして、それが将棋に出会ったきっかけでした。それで、僕よりももっと強い人がいて、その理由を聞いたら「将棋の道場に通っている」というので、僕も早速将棋の道場に通い始めました。将棋道場へは、土日に通っていましたが、最初の頃は練習をしないで友達と遊んでばかりいて、よく怒られたりしていました。僕は千葉県出身ですが、ある程度強くなると東京へ出て来ていろいろな将棋大会に出場していました。そして中学二年生の時に、今は亡くなりました佐瀬勇次名誉九段に入門し、六級で奨励会に入りました。その頃は、「大人に勝てる」っていうことが面白かった時期だったと思うのですが、大人に勝つと、もっと強い大人が出て来るんです(笑)。

◆プロの棋士として、学生として

奨励会員になった時点ではまだプロの棋士とは言えません。奨励会三段から四段に昇段して、はじめてプロ棋士と呼ばれ、収入を得ることができます。ただ、私は将棋以外の世界も見てみたい、という思いがあって、早稲田大学を受けました。何となく早稲田に憧れみたいなものを持っていて、ちょうど社会科学部で自己推薦制度が始まった時で、その制度で受験しました。面接の時には「名人を目指します」と言いました。 学生時代は将棋の研究をしてから大学へ行く、という生活が多かったですね。二年生の時に三段から四段になりプロ棋士になったのですが、この三段から四段という境目が将棋を職業としてやっていけるかどうかというところなので、その時が大変と言えば大変でしたね。

大学では、将棋をやりながら授業を受けるだけでいっぱいいっぱい、という感じでした。周りでも、何かに没頭して頑張っている人から大学の四年間は遊ぶぞ、っていう人までさまざまでしたが、私は四段に昇段するまで、羽根を伸ばすということはありませんでした。四段になっても、精神的に幾らかゆとりはできましたが、それで終わりというわけではありませんし。

大学では、とにかく眠かったですね(笑)。将棋の対局が終わった後で学校へ行くと異常に眠くなってしまいました。それは授業がつまらなくて眠い、というわけではなく、一旦頭をフル回転させた後で、改めて別の何かをするというのが大変な作業だということです。頭を回転させている間は眠くないのですが、回転を一旦止めてしまうと、その後で異常に眠くなってしまいますから。

◆プロの将棋

将棋というのは、プロの場合よく何百手も先を読むと言われますが、「読む」ということよりも、難しい局面でその時にどう判断するかという判断力のようなものが勝負を左右します。だから、判断力が優れていれば、そんなに先を読まなくても良くて、自分で判断できるところまで情報を掘り下げて行けばいいんです。判断できなければもう少し掘り下げてみて、ということで、判断力が上がれば掘り下げることも少なくてすむようになります。だから、「読む」と言うよりも「情報を見る」という感じですね。 それには判断をする「基準」がなければ駄目で、例えば初心者の人には、「この駒はただで取れるから取る」という判断の基準がありますが、我々も同じような判断の基準があります。それで、その判断を網にかけて見ていくと、相手のやる手も限られてきて、いちいち全部「読む」ということはしません。どんな手があるかザーッと見てみて、その中で相手が次に指してくる可能性の高い手を判断する。その判断力が高ければ高いほど「読む」ことを減らすことができるようになります。

指している本人は具体的な手順を考えながら、ミスがないかどうかを常に注意していかなくてはなりません。対局の場合はそういうところで時間を使うことが多いですね。

対局をしている時、将棋盤を前にすると、長い時間ですからいろいろ雑念も入ってきますが、「名人戦」のような大きなタイトル戦になると、自分の判断を超えた局面が次々と出てきます。そういう時に心の揺れが出て、不安が生じてくるのですが、そういう不安に打ち勝てるかどうかというのが、勝負の要素として大きいと思います。そうなると、精神的な強さというか、最終的に自分を信じることが必要になってきますね。

◆タイトル戦を終えて

「名人戦」が終わった時は何も考えていませんでした。例えばテストなんかを長い時間やって終わった時には、特に何も考えていませんよね。できなかった時はショック受けてるかもしれないですけれど(笑)。それと同じで、空白というか、それに近い感じだったかもしれません。

◆雑感

自分が納得するようにやっていかないと、たとえいい結果が出ても、後から振りかえって「良かったな」と思えないですね。誰でもそうでしょうけれど、何かを嫌々やるのは好きではないですから。 対局後、内容が良かったと思うことはほとんどなくて、どこかに反省点が残りますね。そんな中で、もっと進歩させたいというような、いい意味での不満は残していきたいですが、逆に、「負けて悔しい」というような不満はいつまでも残してはおかないようにしています。

普段は過去の棋譜を読んだり、詰め将棋をしたりという形で勉強していますが、今はタイトルを取ったので将棋以外の仕事が増えてしまいました。後は自分の時間ですが、長い時間座っていることが多いので、最近は空いてる時間は、ジムへ行って身体を動かしたりしています。

目標としている棋士は特にいないんですが、実力をつけたいですね。この先、どこまで行けるか分からないですけれど、とにかく実力をつけないといけないと思います。現在の自分のいる段階を見極めて、それを進歩させていくことが目標です。

◆後輩へ一言

世の中、才能とか努力が大事だと思っている人は多いと思いますが、それは人間が持っている多くの力の中のごく一部だと思います。そういうものにこだわらないで、自分自身が本来持っている性質を伸ばして行くことが大切ではないかと思います。そして、自分自身を信じるということはすごく大事なことだと思います。

◆インタビューを終えて

丸山名人は寡黙なことで知られている。しかし、その笑い顔はとても魅力的だ。また、将棋に関する質問をして、少し考えた時の視線の鋭さ、そして出てくる答えの一言に、「名人」という位の重みを感じた。

早大生のための学生部公式Webマガジン『早稲田ウィークリー』。授業期間中の平日は毎日更新!活躍している早大生・卒業生の紹介やサークル・ワセメシ情報などを発信しています。

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