「顔の見える」金融の仕組みによって、成長分野への投資に個人の金融資産が回り始めています。
ミュージックセキュリティーズ株式会社 代表取締役 小松 真実(こまつ・まさみ)
1975年東京生まれ。2008年早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。2000年、音楽ファンドを扱うミュージックセキュリティーズ合資会社を設立。2009年よりマイクロ投資プラットフォーム「セキュリテ」を開始。
インターネットをプラットホームにして不特定の人から資金を募るクラウドファンディング。その形態は一般的に「寄付型」「購入型」または「投資型」に大別される。2015年度の市場規模は、前年度比で43.9%増の283億7300万円を見込んでいる。(矢野経済研究所調べ)
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企業が事業を拡大するときや個人が起業するときの資金調達は、銀行などからの借り入れが一般的です。ただ、既存の金融機関が全ての資金需要に応じられるわけではありません。例えば、どこの音楽レーベルにも所属していないミュージシャンがCD制作や販売にかかる費用について、銀行に掛け合ってもまず難しいでしょう。なぜなら、銀行への返済は原則融資月の翌月から始まるため、貸出先の選別には、過去の実績、短期的な売り上げや利益が重視されるからです。
そこで近年、日本でもさまざまなファイナンス制度が利用可能になってきています。その一つがクラウドファンディングを用いたマイクロ投資であり、私が創業したミュージックセキュリティーズはこの分野のフロントランナーとして、ファンドの組成・募集・PRを通じて、新しい資金調達の手法を提供しています。
その名の通り、個人が小口で企業や事業に投資することができるマイクロ投資では、利益よりも、共感性が大事にされるのが特徴です。実際にプロの投資家ではない幅広い職業や学生の方が「事業を応援したいから」と一口金額の1万円から投資をしてくださるケースが少なくありません。少額でも1000人、1万人と多くの出資者が集まれば、事業に必要な資金の調達も期待できるでしょう。
このような「顔の見える」金融の仕組みは、マーケティングの手段としてもとても有効です。ミュージックセキュリティーズには地方自治体や地方銀行などからも地元企業のファンド組成の相談が多くあるのですが、中には地元では知られていても、全国的な知名度が低いために、資金面から次の一手が打てないという事業者が目立ちます。しかし、インターネット上で資金提供を呼びかけることで、事業への取り組みを一気に世界に向けてアピールできます。また、事業を応援する投資家は遠くから足を運ぶことをいとわない人も多いでしょう。つまり、新たな顧客となってもらえるわけです。さらに、事業者側も、投資金額以上のリターンを返したいという思いを途切らすことなく取り組むことになります。だからこそ、時間のかかるものづくりでは特に「寄付ではなく投資」であることが重要なのです。
潜在的に能力のある企業や志のある個人のチャレンジは、私たちの未来の可能性も広げてくれます。生活を豊かにしてくれる商品、事業の発展で生まれる雇用、そして全国に広がる活気。そのためにも、各人が金融の仕組みやファンドごとのリスクを正しく理解し、その上で投資できる市場の整備を引き続き進めていくことが必要だと考えています。
(『新鐘』No.82掲載記事より)