Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈地域社会学〉変容する地域社会を支える 親の近くに住む「きょうだい」

地域社会の変化と家族像の変化

人間科学学術院 教授 武田 尚子(たけだ・なおこ)

博士(社会学)。お茶の水女子大学文教育学部卒業、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程修了。専門分野は地域社会学、都市社会学、人口移動論、質的調査方法。単書に『マニラへ渡った瀬戸内漁民』(御茶の水書房、2002年)、『瀬戸内海離島社会の変容』(御茶の水書房、2010年)、『海の道の三〇〇年』(河出書房新社、2011年)、『もんじゃの社会史』(青弓社、2009年)、『ミルクと日本人』(中央公論新社、2017年)、『荷車と立ちん坊』(吉川弘文館、2017年)、『20世紀イギリスの都市労働者と生活』(ミネルヴァ書房、2014年)、『チョコレートの世界史』(中央公論新社、2010年)、『質的調査データの2次分析』(ハーベスト社、2009年)がある。

時代とともに、「家族」や「親族」の形も変化していった。少子高齢化が進み、限界集落が増える日本の地域社会において、現代の「家族」はどのように変化しているのか。

揺れ動く家族像

以前、講義科目で受講生に「自分の家で飼っているペット、例えば犬などを、自分の家族だと思っている人は手を挙げてみて」と聞いたことがある。私としては半分冗談のつもりで聞いたのだが、予想以上に多くの学生が手を挙げたので驚いた。きょうだい数が少ない核家族の生活で、身近な存在を大事に思う心情が手を挙げさせたのだろう。

社会学の授業で自分の日常生活を見直す目的で聞いたのだが、学生たちは同居している存在を「家族」と考えがちである。受講生には、社会学の「家族成員」の定義に動物は含まれないことを説明した上で、家族や親族の範囲は歴史的に変遷してきたことや、各時代の法制度、資産の継承方法、家産の経営形態などにも影響されることを講義する。

血縁でなくても、非血縁の優秀な人材を親族の一員として組み込み、家産を経営する形態を「同族団」といい、各地で「マキ」「カブウチ」「イッケ」など固有の名称で呼ばれ、歴史的に存続してきた。同族団は、本家、分家、別家が役割分担して農業、漁業、商業などの生業に協力して取り組む基礎的な単位として機能してきたのである。現代の学生たちがイメージする以上に、歴史的に「家族」「親族」の形態は幅広く多様であった。

親子と「他出子」

少子高齢化が進み、限界集落が増えている日本各地で、家族の多様な状況を分析するのによく使われるようになった概念が「他出子」である。例えば、地方に住んでいる高齢者の生活を調査する場合、子どもの居住が「同居・近居」か、異なる地域への「他出」なのかは、親子ともどもの生活状況を把握する重要なポイントである。「他出」の場合も、車で1時間以内の行き来しやすい場所に住んでいるのか、高速交通機関が必要な遠距離に住んでいるのかによって、生活環境は異なる。

毎年フィールドワークを実施する長野県小谷村(おたりむら)の大網集落

小谷村の伝統的郷土食の「笹の葉ずし」作りを教わった

私はゼミ生と中山間地域にしばしばフィールドワークに行くが、高齢者の単独世帯を調査すると、よく見られるパターンは、子ども世代がみな「他出」していても、きょうだいのうち1人ぐらいは1時間以内の地方中核都市などに住み、他は遠距離の大都市に住んでいるというものである。近距離の「他出子」は週末に頻繁に親元に帰り、親の面倒を見て、生活上のちょっとした手伝いをする。遠距離に住んでいる「他出子」は盆・正月などにしか里帰りする余裕はないが、近距離「他出子」がいるので安心である。

地方中核都市と限界集落

現代の地域社会の実情や、家族の実情を理解する上で、「他出子」の組み合わせに着目する視点は不可欠である。社会学的に重要なことは、親の生活環境の維持にとって、「近距離の他出子」が重要で、このような層が親に近い場所で仕事の継続が可能なように、地方中核都市の経済・社会的環境を強化することである。

中山間地域で調査していると、村外に出た他出子が週末に実家に戻って、親の畑を手伝っている姿をよく見かける。育ってきたナスのつるを支柱に結び直す作業をしている傍らで、私も手伝いながら、近距離他出子の現状や、親を案じる気持ち、楽しかった家族生活のあれこれについて話を聞かせてもらう。

ゼミ生たちが家族生活などについて聞き取り調査中

限界集落という語で、消滅する村の危機が報じられることが多く、油断は禁物であるが、週末の家族の姿から、堅持されている地方中核都市の経済状況と、その周辺に点在している高齢化している集落という地域社会の空間的ネットワーク構造も見えてくるのである。

(写真左)郷土料理を習いながら、家族と過ごした食事風景について聞く
(写真右)中山間地域から見る北アルプスの風景 (「美しい村」に選定されている長野県小川村)

(『新鐘』No.84掲載記事より)

※本書の記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年度)のものです。

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