Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

〈建築環境学〉日本の家族とすまい

世帯構成の変化に伴う住宅の抱える課題

理工学術院 教授 田辺 新一たなべ・しんいち)

1958年福岡県生まれ。専門は建築環境学。1982年早稲田大学理工学部建築学科卒業。同大学大学院修了、工学博士。1984 ~ 86年デンマーク工科大学研究員。1992 ~ 93年カリフォルニア大学バークレー校研究員。1992 ~ 99年お茶の水女子大学助教授。1999年早稲田大学理工学部建築学科助教授。2001年から同大学教授。主な著書に『住環境再考』(萌文社、2016年)など。

第二次世界大戦後の日本がたどってきた歴史を背景に、家族と家族が暮らす住宅は大きな変化を遂げた。現在、日本の家族とすまいはどのような状況にあるのか。

世帯構成とすまい

日本のすまいというと、「サザエさん」を思い出す。昭和20年代に連載が開始されたものだが、平屋で3世代が同居するという設定だ。日曜の夕方にテレビで楽しく見ているが、磯野家のような家族は少なくとも現在の日本の都市部には非常にまれにしか存在しない。

第二次世界大戦後、住宅の絶対的不足に応急的に対応することから日本の住宅政策は始まった。住宅の量を増やすことが最も大切な課題とされた。その後の高度経済成長期における都市部の住宅不足は深刻であった。サラリーマンは長距離通勤や狭いすまいに悩まされることになる。当時国は「1世帯1住宅」を実現するという目標を掲げていた。

1964年のオリンピックまでに、東京では人口の集中と核家族化がかつてないほど激しく進み、5年間に37%も世帯数が増加した。図1のように、全国平均の世帯人員は1960年には4.14人であったが、1990年には2.99人、2010年には2.42人となった。東京ではさらに激しく、1960年に3.65人、1990年に2.42人となり、2012年にすでに2人よりも少なくなった。2030年には1.88人となる予測だ。日本の家族は「ひとり」というのが典型例になる可能性が高い。一方で、1973年にすでに全ての都道府県で住宅数が世帯数を上回っている。すなわち住宅が数としては充足したことになる。

日本の住宅事情

日本の住宅事情は、皆さんも感じているように欧米各国と比較するとあまり良いとは言えない。1戸当たりの床面積や1人あたりの床面積は現在でも低水準にある。また、東京における1人当たりの都市公園面積も狭い。住宅と住環境に関する満足度調査では約3割の人たちが不満を示している。特に、持家と借家の住宅水準格差は年々拡大しており、借家の水準は先進国としては極めて低い。日本の借家は仮住まいで、長く住むことを意図して建設されていないのが実態である。

わが国の居住されている住宅ストックは、5210万戸あり、うち6割が持家で4割が借家となっている。床面積の持ち家と借家の比率は8:2で、持家が大きく上回っている。
*数値は居住世帯ありの住宅総数を示す。なお、空き家等を含む住宅総数は6063万戸
*持家3208万戸の内数として、「長屋建」及び「その他」分(40万戸(0.8%))が含まれている
*持家・借家、不詳(150万戸(2.9%))がある

出典:総務省「平成25年住宅・土地統計調査」より国土交通省作成

図2に示したのが住宅の種類別の戸数と床面積である。中央の太線から左側が持家、右側が借家を示している。横軸は戸数、縦軸それぞれの床面積の平均値である。戸数でみると、持家と借家の比率は6:4であるが、面積で比較すると8:2となる。圧倒的に持家の面積が大きい。縦軸はそれぞれの床面積であるが、持家の8割は戸建て住宅である。この部分の平均床面積は133㎡であるが、共同建て、いわゆるマンションでは71.7㎡となる。一方、借家の給与住宅は52.8㎡、公営の借家は51.9㎡、都市再生機構・公営の借家は50.2㎡、民営借家は44.4㎡と、圧倒的に面積が小さい。大きな住宅ローンを抱えても持家を志向するのはこのような事情による。また、理由は書きづらいが、借家契約の更新は高齢者に非常に冷たい。

日本には人口の問題もある。国土交通省から2050年までに日本の人口がどうなるかを1㎞メッシュで予測したデータが公開されている。22%の所からは人がいなくなり、75%以上減少する地域は20%で、実に66%の地点で現在の半分以下の人口になる。

すでに、日本の住宅の13.5%が空き家で、空き家の総数はここ20年で倍増している。賃貸用または売却用の住宅の増加率は減少しているが、その他の住宅の割合が大きく増えている(図3)。その他の住宅とは、人が住んでいない住宅で、例えば、転勤・入院などのため居住世帯が長期に渡って不在の住宅や、建て替えなどのために取り壊すことになっている住宅などのことを示す。これからの少子高齢化社会、経済状況を考えてどのように生活を豊かにするすまいを考えるかは非常に大切になっている。そのような予想にもかかわらず、人口縮減や家族構成の変化を十分考えないで住宅は新築されている。一度住宅が建設されると少なくとも30年、多くの住宅は、50年近くは存続するのに、である。

すまいと幸福感

かつて、日本には、多くの人がたどる「標準的な」ライフコースがあった。学校を卒業した後、正規雇用で就職し、20 代で結婚し、子どもを持つ。すまいについては、親元を離れて、まずは借家に住み、その後持ち家と、ライフステージに応じて住み替えをする。しかし、今の暮らしは、非常に多様化しており、これまでとは大きく異なっている。進学率が高まる中で失業率や非正規雇用割合は上昇しており、経済的な不安から、結婚、出産・子育てに踏み出せず、単身や夫婦のみで暮らす人々が増えている。家族が地域との関わりを持ち、幸福に健全に生活できるすまいが求められている。

(『新鐘』No.84掲載記事より)

※記事の内容、登場する教員の職位などは取材当時(2017年度)のものです。

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