Waseda Weekly早稲田ウィークリー

早稲田の学問

国際的な労働力の流れがぼくらの生活にもたらすもの

迫りくる労働力不足問題。解決するために必要なのは、外国人労働者との共存?

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社会科学総合学術院 准教授 本多 美樹(ほんだ・みき)

東京生まれ。成蹊大学卒業後、英字新聞「ジャパンタイムズ」記者を経て、2001年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科修士課程修了(国際関係学)。2006年同博士後期課程修了(学術)。専門は、国際関係学、国際機構論、国連研究。

労働力の確保のために政府が打ち出す外国人労働者の受け入れ態勢の問題点と、今後の課題について考えてみましょう。

超高齢社会に突入した日本は、2008年をピークに総人口が減少傾向に転じました。2050年には、人口が1億人を下回るとも予想されています。そうなると国内総生産(GDP)を維持するための労働力が不足するのは明らかです。そこで、現在の安倍政権は、国内の労働力を活用したうえで、外国人労働者の受け入れを積極的に行っていく方針を打ち出しています。

現在、日本では「医療」「教育」「技術」など、14の職種に絞り、約20万人の外国人労働者に就労目的での滞在を認めています。また、カナダやイギリスのように「ポイント制」を導入し、職業経験が豊富で専門的なスキルを持つ人を「高度人材」と認定して、在留資格の条件緩和を進めています。これに加え、技能実習制度の下で受け入れた、主にアジアからの研修生も約15.5万人います。彼らが農業や漁業、建設などの現場を支えていることは、たびたびニュースで取り上げられています。

人手不足が深刻な看護・介護業界では、経済連携協定(EPA)に基づいて、インドネシア、フィリピン、ベトナムから人材を受け入れ、看護師や介護福祉士の資格取得を支援し、その後も日本で働いてもらおうという取り組みも始まっています。さらに、全国に「国家戦略特区」をつくって、国内の雇用促進とともに外国人が働きやすい環境を創出していこうという計画もあります。特区である大阪府と神奈川県では、ダスキンや人材派遣のパソナグループらが、外国人労働者による「家事代行サービス」に乗り出すことが話題になっています。しかし、これらの施策にも課題はあります。まず、高度人材は、日本よりも移民を多く受け入れ、言葉の障壁も少ない欧米をめざしてしまうのが実情です。さらに、外国人技能実習制度の研修生も実習後は母国に帰って技術を生かすモデルなので、労働力として日本の将来を支えていくことはありません。EPAを使った看護・介護分野の人材育成も日本語による国家試験が難しすぎて、機能していないと聞きます。そもそも母国で看護・介護の経験があるプロをスキルアップのために日本に招く制度なので、応募者は高いハードルを越えて働いています。しかし、現場で不満を抱えて帰国してしまう人も多いようです。

本多先生 図版私はここに外国人の移民受け入れに常に慎重な態度をとってきた日本の長い歴史を垣間見るような思いがします。安倍首相も「労働力の確保」を強調するものの「移民」として外国人をどんどん受け入れていこうとは明言しません。その背景には、建設や介護の現場で労働を担う人材はほしいけれど、長期的に日本で暮らす移民がこれ以上増えるのには抵抗があるという人が多いという現実があるのかもしれません。また、欧米諸国と同様に、人の移動を安全保障問題として強く意識しています。

しかし、政府や産業界が少子高齢化社会を支える働き手として外国人労働者を必要とするのであれば、彼らに、安心して長く働いてもらうための環境整備が必要です。具体的には、社会保障制度と教育です。彼らも仕事をしていればケガや病気をします。さらに家族を連れてくれば住居が必要だし、子どもの教育も考えなければいけません。現場レベルでは、従業員の意識を変えて、異文化を許容する風土をつくっていくことも大事でしょう。

昨今はシリア情勢に起因する難民の受け入れが問題となっています。2015年度の日本の難民認定数は7,586人の申請者のうち27人でした。人道的な見地から滞在を許可した人が80人ほどいますが、欧米諸国との対応の違いは際立ちます。これでは国際社会から、人権意識が低いと批判されても仕方ありません。今後は日本も国際貢献という意識を持って移民と向き合っていく必要があります。

外国人労働者に関しても政府は、震災復興や東京五輪のための短期的な労働力確保でなく、長期的なビジョンで法整備を進め、彼らと共存する社会を構築していくことも視野に入れるべきなのです。

(『新鐘』No.82掲載記事より)

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